14.06.02 青い鳥(主人公×イッキ)
────「君さ、青い鳥の、本当の話って知ってる?」
イッキさんが、私が渡した小箱の蓋を閉めながら訊いてきた。
今日は、イッキさんのお誕生日。付き合ってから初めての誕生日ということもあって、プレゼントは大いに迷った。
イッキさんはいつもセンスのあるものを身に付けているし、拘りもありそうだから。
小物やアクセサリー、というのはどれにしていいか分からないうえに、まだ大学生の私には値が張る。
イッキさんが好きなコーヒーを、とも思ったのだが、それもコーヒーについてあまり詳しくない私には難しいことだった。
イッキさんの悪友でもあるケントさんに尋ねてもみたのだが、返ってきた言葉は「君が渡すものなら、イッキュウは何でも喜ぶだろう」というものだった。……それはそうだとは思うが。
自惚れではなく、イッキさんは本当にそうだと思う。けれど、それでも成るべく喜んでもらえるものがいいと考えてしまうのが、彼女という立場なのかもしれない。
そんな中で私が選んだのは、青い鳥の置物だった。
「青い鳥は幸福の象徴、なんですよね?」
選んだ理由はそれだ。
イッキさんは特異体質のせいで、不運とまではいかないが、日々を穏やかに過ごすことが困難だったりする。本人もそれに疲れているときもあるし、うんざりとするときだってあると思う。
それが例え、元は自分が望んだことだとしても。
だから、せめてもの気休め、というわけではないが、イッキさんに幸福が訪れるように、心休まるときが少しでもありますように、とこの置物を選んだのだ。
「やっぱり。詳しい話は知らないみたいだね」
イッキさんは目を細めて笑いながら言った。
青い鳥。
チルチルミチルが幸福を求めて青い鳥を探す、という粗筋だけは知っている。幼い頃に絵本を読んだのだと思うが、細かいところやラストについてはすっかり忘れている。
……もしかして。
この話のラストは、童話に有りがちな哀しい結末だったりするのだろうか。だって、幸福の王子だって、哀しい結末だ。
私はしまった、と思い、イッキさんの顔をちらりと見た。
「君は、僕が幸せになれますように、てこれを選んでくれたんだよね?」
言わずとも、私の想いが伝わっているというのは嬉しいが、それが違う方向に行っているなら大問題だ。
「はい」
私は小さな声で返事をした。
「青い鳥の話はね、チルチルとミチルが、家の貧困を嘆いて、幸せになる為に、幸福の象徴である青い鳥を探しに行く話なんだけど」
そこまでは知っている。
「結局、青い鳥は見付からずに、諦めて家に帰るんだ」
雲行きが怪しくなってきた。
「そうしたら、家の鳥籠にいた灰色の鳩が、実は汚れていただけの青い鳥だった、て話なの。ということは、幸せは、直ぐ傍にあるんだよ、てお話」
イッキさんはそう言い、私の手をそっと握った。
「つまり、僕の幸せは、こんな身近にある、てこと。僕のことをこんなにも想ってくれる君が傍にいてくれるということが、僕の最大の幸せなんだ」
イッキさんは、そう言って、優しいキスをしてくれた────。
「この鳥の色、とても綺麗だよね」
「……イッキさんの、瞳の色に似ていると思ったんです」
私が言うと、イッキさんはとても穏やかで綺麗な笑みを向けてくれた。