14.05.01 レプリカ(主人公×イッキ)







────イッキさんの笑顔をたまに胡散臭いと思ってしまうのは、一生胸の内に秘めておこうと思っている。

……秘めておこうとは思っているのだが、感じてしまうものを消すことは出来ない。

今も目の前でにこにこと、美麗な笑顔を浮かべるイッキさんを見て、正直胡散臭い、と思ってしまった。彼がこうした表情を浮かべるのは、何か隠し事があるときだったりする。

別にそれは悪い意味ではないのだが、何か知られたくないこととか、隠しておきたいことがあるとき。そんなことが多いわけではないのだが、稀にあるのだ。

美しい顔をした彼はカフェだというのに、珍しくサングラスを外していて、周りにいる女の子達がそんな彼に目を奪われている。サングラスをしていても、ちらちらと見られるくらい端整で甘い顔をしているというのに、特殊な目を見せれば、忽ち世間の女の子達は彼に釘付けになる。

「……何か、ありました?」

一応訊いてはみるが、彼は結構自分から何でも話してくれる。仕事で何があった、どんな人と話した、ケントさんと新しいゲームを考えた。

けれどそれは、あくまで「良いこと」だけ。私に心配かけまいとしてか、マイナスなことは話してくれない。それでも以前よりは話してくれるようになった方だとは思う。

「ううん、何もないよ。今日も君は綺麗だなと思ったら、笑顔になっただけ」

この言葉を賛辞と取るか、胡散臭いと取るかはもう、個人の差なのだが、私は胡散臭いと取った。彼がこんなことを言うのはいつものことなのだが、今日は胡散臭い。

「そうですか」

私は納得した振りをして、アイスティーに手を伸ばした。

「ねぇ、これを見てくれない?」

そのタイミングで、イッキさんが足元から何かを持ち上げた。待ち合わせでこのカフェに入ったので、彼の足元に物があることは全く気付いていなかった。

イッキさんが取り出してテーブルの上に置いたのは、初めて見る色の薔薇だった。しかし、それは生花ではなく、造花のようで、それでいても、とても綺麗な色をしていた。

「うわぁ、綺麗ですね。何色……ていうんですかね?」

私はその薔薇をまじまじと見ながら言った。薄いピンクの花弁なのだが、中心に向かって薄い茶色へと染まっている。造花だからこその色なのか。

「これは、ブラウンピンク、だったかな」

イッキさんは言いながら、一輪の薔薇を私に差し出してきた。

「ケンから貰ったんだけどね、これ、アムネシアっていう薔薇のレプリカらしいよ」

アムネシア、とは初めて聞く品種だと思った。レプリカ、ということは、本物があるということ。こんな綺麗な薔薇があることも初めて知った。

「アムネシアの意味、知ってる?」
「いいえ」

イッキさんに問われ、私は首を横に振った。

「記憶喪失、とか、健忘、て意味。君にぴったりだとおもわない?」

確かに、私は記憶喪失になったことがある。今は全て思い出してはいるが、その時の不安さや心細さは覚えている。けれど、何か一つだけ思い出せていないことがあるのも事実だ。

「もしね、君がまた記憶喪失になったら、僕はこれの本物を送るよ。そうしたら、この会話を思い出してくれるかもしれないでしょう?」

イッキさんは然り気無く私の手を握りながら言う。胡散臭い笑顔ではなく、本当の微笑みで。

きっと、やけににこにこしていたのは、いつこれを出そうか考えていたのだろう。

何でもスマートにこなすように見えて、たまにこうしてタイミングを計ったりするところが、可愛く思える。そしてそれは、本当に愛しい。

「取り敢えずこれは君にあげるね」

イッキさんはそう言い、レプリカの薔薇を私に握らせてくれた。

「ありがとうございます」

私が言うと、イッキさんは貰い物だけどね、と小さく笑った────。



「でも、何でケントさんがこんなものを持ってたんですか?」
「なんでも、研究の一環で使ったんだけど、飾らないからくれたんだよね」

確かに、ケントさんが薔薇を飾る姿は想像出来ないと思い、二人で笑った。












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