※カイ吸血鬼設定の学園パロディ
気をつけて下さい






 最近、ユーリの様子が心配だった。何時も一緒に登校しているカイは、彼の様子にいち早く気付けた。
「どうした。最近覇気が無いぞ」
「……カイ」
 ユーリはばつが悪そうにカイを見やる。彼からすれば、弱音を吐くことは恥以外の何物でもないだろう。しかし、カイにそれは通用しない。カイの彼を見る眼は情に満ちている。その眼差しに、ユーリが勝てた事など一度も無いのだ。
「言ってみろ」
 ユーリはそろそろと口を開く。
「お前と一緒にいる時、俺は記憶が無いときがたまにあるんだ……」
「何だと?」
 それは勘違いだ、そんな馬鹿な事があるか。カイはそう言うが、ユーリはそれを一向に受け入れない。
「……何故そう思う」
 しびれを切らしたカイは、ついに聞いてしまった。実はカイ自身、何と無くだが彼の不安に心当たりがあるのだ。
「……お前との行為中、最後は殆ど記憶が無い」
 この言葉を聞いた瞬間、カイの全身に鳥肌が立った。
「ユーリはすぐイクからな」
「だ、黙れ!」
 痴話喧嘩になってこの話題は終了した。ユーリはムッとして前を歩み進んで行ったが、その背中を見ながらカイはそっと溜め息を吐いた。

 ユーリの首筋には紅い痕が幾つか残っている。その全てはカイによるもので、さらにその中には、キスマークとは違ったある傷痕が紛れていた。まるで注射痕のようなそれは、性行為の度に増えていった。ユーリはある時「お前の噛み癖はどうにかならんのか」と苦笑いしながらカイに言ったことがあった。カイは、ユーリへの抽送だけでは飽き足らず、クライマックスに近付く頃に思い切り肩に歯を立てる。その度にユーリの身体は弓なりにしなり、美しい悲鳴を上げてガクガクと肢体を震わすのだ。
「あ……っ、ああ……」
 噛み付いている間、カイの背中も小刻みに奮えていた。あまりに気持ち良くて、カイは唇からだらしなく彼の血液を溢す。己の口を拭って、手の甲に付いた血ですら舐めとり味わった。落ち着いた頃にカイは自身のぺニスを引き抜いた。ユーリを味わった際に射精してしまっていたのだ。
 カイは、ユーリに秘密にしている事があった。それは自分の正体が“吸血鬼”だということだった。

 カイは、どちらかと言えば吸血行為はあまりしない傾向だった。吸いたいという欲求よりも、発覚した時の後始末や、行為に至るまでの準備が面倒で仕方無かったからだ。紆余曲折あってユーリと恋人の仲になる頃も、彼の血の味に興味を抱きつつも、彼の肉体に傷をつけてなるものか! と言う葛藤が上手く相殺してくれていた。
 やがて肉体関係を持つようになり、彼を組み敷いた時、緊張で手足をピンと伸ばしたユーリがこう言った。
「俺はお前のものだ! す、すす好きにしろ!!」
 言い切って、思い切り顔を背ける彼の顎を掴んで唇を奪った。その際に勢い余って彼の唇を噛んでしまい、じわりと血が滲み出てしまった。
「! 悪いな……、待っていろ」
 すぐにティッシュで彼の口を拭く。弱い出血ながらもそれは止まる気配は無かった。その鮮烈な赤色を見ているうちに、カイの欲望はじわじわと胸の内を侵食してきた。ユーリの血は、どんな味がするのだろうか。
 捲れた皮膚に舌を押し当てた。その瞬間にユーリは身をよじって初めてカイに抵抗をした。しかしカイはがっちりとユーリを押さえ付けていた。カイは、ユーリの血に夢中だった。むうむうと口腔で騒ぎ抗う彼は、カイの執拗な舌捌きによって収まった。抵抗しても無駄だと理解したのだろう。ようやくそれから解放されて、少しユーリは睨み付けた。
「好きにするにも、限度と秩序があっていいはずだ」
「……貴様があまりにも美味しそうだっただけだ」
 赤面する彼を余所にカイは首筋に唇を寄せた。自制心を無くした瞬間に、喉ごと喰らい付いてしまいそうな自分が恐ろしかった。その邪心を振り捨てるべく、カイは性欲に意識を向けた。
 いや、本来はユーリの血液を味わう事が、自分にとっての性欲の本髄なのかもしれない。
 今のカイには、この事に気付かないように努める事が精一杯だった。認めてしまったら、恋人の命を奪い兼ねない。
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