「おい」
「……」
「貴様、聞いてるのか」
「……」
 日本でも雪は降る。祖国に比べたら大したものではないが、はらはらと淡い雪は地に吸い寄せられて終わっていく。そんな重苦しい空と地の中でもそこそこ賑やかな街中で、ユーリはカイを追うように早足で進んでいた。
「一体何処へ行くつもりなんだ」
 いい加減、うんとかすんでもいいから返事が欲しいところだが、それでもカイはお構いなしと言った様子で一言も言葉を発さない。何時も通りの彼の態度ではあるが、もちろん面白いわけがなかった。
 喧騒から抜け出せた瞬間に強く手を握られる。周囲を尻目で見遣るが人の気配はない。この時を待っていたのか。
「店を予約してある」
 一言だけ、放たれた言葉は素っ気無かったが、同時に温かくもあった。
 握られた指が熱を帯びていく。





タイトルは摩天楼オペラより
歌詞に全く関連性はなく、お題「慈しみ」「手を繋ぐ」と出たときに、
サウンドが出てきたのでタイトルに使ってみました。

カイユリ超むずいです
BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
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