「神様はいないと思う」



 冬は暖かく過ごさなければ意味がありません。夏の灼熱と冬の寒冷どちらが苦手か訊かれたら私は迷わず冬であると答えていましたが、最近そう思う精神とは裏腹に私の肉体は寒さより暑さの方がいかんらしいと気付きました。一昨年の夏には熱中症になりかけ一リットルのペットボトルをラッパ飲みでイッキ飲みし去年の夏は本当の熱中症になりました。認めたくありませんが冬の寒さが原因でこのような体調不良になったことは一度もありません。インフルエンザも霜焼けもです。なかなか冬は私の身体にとって生きやすい季節でした。
「なら良かったじゃないか」
 いいえ良いなどある訳がありません。冬の寒さが良くあってたまるか。冬の良いところはおそらく仰山あるでしょうが寒さのせいでまるで霞んでしまっています。あの凍りついたような冷たい空気は痛苦です。

 彼はそう言いましたがまさか冬が好きなのでしょうか。彼は悲しみをたたえた瞳を以て美しさを際立たせる。その視線の先には彼の愛した人がいます。彼とよく似た秀麗な容姿の、彼の恋人です。彼はいずれ自殺に近い形で死ぬそうで道連れは血族とその報いなのです。
 なので彼の自己犠牲に比べたら、私のそれなど安いものです。私は彼を模倣しているまでだ。
 ああ雨が降ってきました。足の末端神経はもう既におかしくなっています。こんなに寒いのだからいっそのこと雪でも降った方がロマンチックというものですな。傘を差す手はもちろん手袋で覆われています。しかし寒さは浸透するものです。
 ふと前方を見やると一組の男女がこちらに向かって歩いてきます。私はすぐに状況を理解できたのでいち早く傘を傾け顎を引かねばなりませんでした。引き返すことはしません。これは私の意地です。前方の彼らは言わずもがな恋人同士なのです。相合い傘の上手な、まだ若く生き生きした恋人同士。
 行き違い様私は例の意地により彼の顔を盗み見ました。イタチもまた私を見ていました。



「神様はいないと思う」
「何故」
「イタチがつらい思いをしてるから」
「オレはいると思う」
「何故……」
「仕方ないことなんだ」



 これだから冬はいけません。センチメンタルな気分にさせます。冬は暖かく過ごさなければ意味がありません。何ものにも捕らわれず彼のことを考えていたい。

 神様。あなたを信じる人がいるので私もあなたを信じることにしました。僭越ながらお願いがあるのです。しかし私の一生のお願いです。
 神様私は死んでも構わない。
 彼を助けてあげて下さい。


110115
120404 加筆修正

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