イタチの死体を見た時、私は、彼の冷たい肉体を、確かに絶対視していた。あれは、禁忌である。彼の身体は、まさに生と死の狭間にあったから。あってはならぬ存在だったから。綺麗な顔をしていた、だが、死んでいる。

それはすでに潜在記憶と呼べるだろう。幾度となく繰り返してきた動作であった。膝を折り、私は彼の手を握った。何も考えずに。何にも捕らわれずに。数十年来の癖のように。疎外された、全うの細い十指。他律の彼の人生。

「非合理だわ。」

すべてが。イタチは、死して初めて安からになった、いや、安からに死んだから、幸せなはずであるという観念を抱く。それはお門違いかもしれないが、しかし少なくとも私はちっとも幸せではない。生前の彼と空間を共有した、その報いを受けたいのだ。

「ずっと、イタチの側にいたのに。私、辛かったのよ。」

イタチの隣にいるということ。愛した人の隣にいるということ。直結はしないが、根底にある、愛ではなく、明確な憎しみでもない、もろく儚い激情。人を苦しめる。そして時にすべてを奪う。
何もかも違っていたのだ。男と女。狂気と理性。未来と過去。あるいは、生と死。イタチと私は、違っていた。彼とならば、死すら、穏やかに横たえられる。だが、あなたは先にいってしまう。
(私は、とても、辛かった。)
側にいてくれと言われた、イタチに生かされた、好きに生きろと言われた、オレを忘れろと言った。イタチはきっと気づいている。いや、恣意に言ったのだ。それはすでに彼のためだということ。彼のわがままなのだから。ただこの場合、影響力が強すぎる。冗談では済まされない……もっと、他の男を好けば良かったのだ。
しかし、私がどうして、イタチを忘れられよう。

「無様な死に顔。見たくもないわ。」

彼の固い右手を両手で包み、目を瞑り、額に寄せる。彼の白い爪先から、滴が落下した。精一杯の皮肉を込めて、私は泣くのである。


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