はたと目が覚めた。カーテンの隙間から垣間見る空はまだ深い藍色を湛えていた。昨夜から耳に差しっぱなしだったイヤホンからラウドロックがだらだら流れて来る。なんか違うなと思い片方のイヤホンを外した途端ぷつりとリフが途絶え、寝返って隣を見ると背を向けるサソリの耳にもイヤホンがはまっていた。起き上がりウォークマンを手に取って二三回投げたりキャッチしたりを繰り返してから一気に音量を最大にした。しかしサソリは一言うっせえなあと呟きイヤホンを引きちぎるようにしてこちらに投げつける。耳、馬鹿なんじゃないか。

「勝手に人の盗聴すんな」
「ああ……耳が馬鹿になりそうなモン聴いてんだな」
「うるさいな」
「テメーがな」

ああつまらない。私はもう一度布団に潜り込んみサソリに背を向けた。ひどく冷たい床である。今度はもっと体温の高い男と寝ようと思うようになり早数十年。

「寒すぎる」
「……」
「誰のせいだろう」
「……」
「サソリのせいだ」
「黙って寝ろ」

そうやっていつも見た目に似合わない妙に大人びた突っぱね方をする。会話を勝手に終わらせる。

「サソリ、腕枕してよ」「……」
「腕枕してくれなきゃ大声出すよ」「イヤホンとお前と、どっち」
「両方」

言下に答えてからそれはさぞかしうるさいだろうな……とぼんやり思った。見上げるとサソリの腕が上空を浮遊している。私が頭をもたげると、隙間を縫って着地した。下手したらシーツより白いそれに頭を乗せるが、やっぱり冷たい。

「綺麗な指」

精巧で計算された、さっきのリフとは正反対の冷たさを感じた。痛みを覚えないなら、折っても気付かないのだろうか。やんわりと指で指を覆う。視界の隅っこで赤い髪少し揺れた。

「痛ェ」

エ。

「…………あ、冗談……か」
「当たり前だろ」

ふふとサソリは女の子のような美しい笑みを浮かべた。かの口からその言葉を聞いたのは何十年ぶりだろう。私はもう一気に苦しくなって、つまらないとか寒いとか、そういう全てを超越してしまった。にわかに見開いた目をぎゅっと瞑った。酷い、この野郎、ねえ酷い。いつかぶっ殺す。
サソリはいつの間にか仏頂面になり言った。

「おいなまえ、この程度で泣くなよ」

見上げると空が白んでいた。


110201

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