13 どどどどうする[渚side]
『来ていいって(^^)b』
薫からの返信をちらりと見ると、俺は合羽をかぶって走り出した。バスなんて待ってられねえ。
外に出ると、想像以上に激しい雨が降っていて。
まるで俺が行くのを阻むようにさらに雨脚が強くなった。
負けねえ、と呟き、俺はその中に飛び込んだ。
豪雨の中を走っている途中、思い出していたのは"昔"のことだった。
『有梨、俺、役者目指すことにした!』
『え、ほんと!? 応援してる!』
俺のことを、ずっと応援してくれていた有梨。
『――今、電話があって』
『……有梨が、事故に……?』
突然俺の前からいなくなった有梨。
もし、……もし、あの子が、有梨なんだとしたら。
いや、有梨じゃなくても、俺は……
「……やっと、見つけたんだ」
*
全力で走ったからか、それとも考え事をしていたからか、あっという間に3人のいる駅前のカフェに着いた。
勢いでカフェに入り、店員に待ち合わせだと伝えると、奥の方で手を振る不二が見えた。
俺は合羽を脱いで、ゆっくりとその席へ歩いた。
4人掛けのテーブル席には、不二、薫、そして昨日会った子が座っていて。
不二の笑い声に適当に返しつつ、俺は眼鏡を外してびっしょりと濡れた前髪を書き上げ、またその女の子を見た。
……ちなみに、眼鏡は伊達だ。
すると、その子も俺を見ていたようで、ぱちりと目が合った。
すると、向かいに座っていた薫が慌てた様子で立ち上がり、タオルを貸してくれた。
そんなに慌てんでも大丈夫なのに。
俺は合羽をしまうと、その子に向き合った。きょとんとこちらを見るその目は、とても懐かしくて。あー、なんか変に緊張してきた。
「あー、えと、薫の兄の渚です。多分、君と同い年。昨日はタオル、ありがとね。あんまお礼言えなかったなと思って、言いたかったんだ」
「あ、いえいえそんな、お気になさらず。神奈川の立海大附属中3年の五十嵐有梨です」
五十嵐有梨一字たりとも違わない名前に目を見開いたが、ああやっぱりそうなのか、と何かやけに心にすとんと落ち着いた。
「? ……あ、そうなんです。私、昨日は不二に連れられてあそこにいただけで、青学の人ではないんです」
「え、あ、ああ、そうだったんだ」
そういえば、青学の人だとは思っていたが。
学校なんてどうでもいいほど、俺の心臓はうるさく鳴っていた。
向かいの席には不二と薫が座っているので、有梨の隣に座る。
荷物を退ける仕草もいちいちあいつにそっくりで、やはり、本人なのかと思ってしまう。
「あー、あと、同い年だし、敬語じゃなくていいよ。……って、俺もう敬語じゃないけど」
「あ、そうだよねごめんえーと、渚くん」
「えっ」
いきなり名前呼びか、とさらに俺の心臓の音は大きくなる。
「ほら、海堂くんはこっちにいるし」
「ああ、そっか」
そうか、俺も薫も海堂だもんな。それに俺は今は有梨と同い年か。
ちょっと会話が続かなくなった空気を読み取ったのか、不二が会話に入って来た。
「有梨は僕の友達なんだ」
「不二の?」
「趣味仲間って言ったほうが正しいかな」
「あー、なるほどね」
俺は、不二がニマ動で歌い手をしていることを知っていた。最初聞いた時は驚いたが、漫画には描かれていないだけで、そういう趣味があったんだろうと、あまり深く考えたことはなかった。
確か有梨も、ニマ動でいろいろ活動してたっけ。今もやっているのか。
「渚も何か頼んだら?」
「あー、そうだな、そうするか」
メニュー表を不二から受け取り、適当なコーヒーを頼む。
……さて、どうするか。
俺はほぼほぼ有梨だと確信しているが、きっと有梨は"俺"だと気付いていないだろう。
そりゃあ、そうだ。俺は今は"海堂渚"となっているから。
しかし、向かいには不二と薫がいるし、変な話をする訳にもいかない。
どうにかして、有梨に"俺"だということを気付いてもらえないだろうか。
うんうんと俺が心の中で悩んでいると、静寂に耐えきれなかったのか、有梨が「ハイ」と手を挙げた。
「どうしたの有梨」
「渚くんに質問があります」
「え、俺?」
「はい」
有梨はそう言ったものの、少しためらっているように見えた。
なんだろう、とちょっとドキドキして質問を待つ。
「……あの、」
「はい」
「
私のこと好きなの?」
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