11 邪魔じゃないよ!
「あ、すいません、兄も来ていいっスか」
駅地下のカフェに入り、注文を済ますと、海堂くんがおずおずと聞いてきた。
「え、なに、渚も?」
「なんか今、"行ってもいいか?"って連絡が」
よくわかんないんスけど、と海堂くんはスマホの画面を眺めた。
不二はちらりと私を見る。
「有梨がいいなら、僕は大丈夫だよ」
「えええ……いや、拒否する理由は特にないけど……」
本当は関わるのめんどくさいけど、海堂くんのお兄さんのことはちょっと気になってたしね。
あ、気になってたって、別に変な意味じゃないんだからねっ。
「じゃあ、そう連絡しとくっス」
海堂くんはぽちぽちとケータイを操作する。
にしても海堂くんのお兄さん、何で来るんだろ? 近くにいたとか?
「これはあくまで僕の予想だけど……」
「なに?」
「渚、有梨に気があるんじゃないかな?」
「
ブッフォ」
不二の言葉に、盛大に咳き込む私。
何言ってんの不二サン!?!?
ほら隣の海堂くんもドン引きしてるよ!?
「ゴホ、げっほ……いや、ンン゛、……それは無くない?」
「え、なんで?」
「だって顔合わせたの超一瞬だよ?」
「一目惚れってやつじゃない?」
「ングゥ」
あの一瞬の時間に、タオルを押し付けるあの一瞬に、どこか惚れられる要素はあったのだろうか。
思い返してみても特に心当たりはない。
「だって、有梨にお礼を言うように言ってきたの、渚でしょ?」
「あー、そうっスね。青学の人のはずだから、探してお礼言ってこいって」
「あ、ごめん、私立海の人なの」
「あ、マジっすか」
「マジっす」
立海の人がなんで昨日あそこに……?と記憶が曖昧な海堂くんは首を傾げた。
なんだなんだ、口数少ないけど君はよく顔と態度に出るなぁ。わかりやすいぞこの子。
「有梨は僕の彼女なんだ」
「
何しれっと嘘ついてんだコノヤロウ」
「え、嘘なの?」
「
君の彼女になった憶えはありません!!」
ただの友達だから!と海堂くんを無理やり頷かせる。
なんだこれ疲れるな。
というかこのメンツでカフェ来てるっていうのもよくわかんないし、海堂くんももしかしたらニマ動仲間なのかと思いきやそうではないらしいし。……あたりまえか。
そんな時、ちょうどよく注文していたものが運ばれてきた。
「うわあ美味しそう」
私はワッフルの上に抹茶アイスが乗ってるもの。
不二はパンケーキの上にりんごジャムが乗ったもの。
海堂くんはいちごパフェ。
いや、海堂くんめっちゃ可愛いなまじで……
「二人とも、甘いの好きなの?」
「……ッス」
照れる海堂くん最高に可愛い。
スッと真顔になった私を見て不二はクスリと笑った。
「実はね。辛いのも好きだからよく疑われるんだけど、甘いのも大好きなんだ」
「へー」
確かに、転生前はよくアイスとかワッフルとかクレープとか、一緒に食べに行ったっけ。
1日にどれだけアイス食べられるかの最高記録は6個だったの覚えてる。
「有梨は抹茶アイスが好きだったよね」
同じことを考えていたのか、不二がパンケーキをナイフで切りながら言った。
「よく覚えてるね」
「有梨のことは忘れないよ」
「不二だって、奇抜なフレーバー好きだったよね。わさびジェラートとかさー」
「ああ、そんなのも食べたね」
私が不二と顔を合わせてフフフ、と笑うと、海堂くんが「俺、邪魔っすか……?」とパフェを持って立ち上がった。
ううん、邪魔じゃないよ海堂くん。
不二は昔も今も、ずっと友達だからね。
さて、食べようか、とフォークを持ったところで、カフェの入り口のベルが鳴った。
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