120 そういえば
「って………っ、」
「我慢我慢」
派手にコケた血だらけの少年を放っておけず、家に連れて来た私。
まあ一応私の方が年上っぽいからね。
なんて偉いの私。
大きめの絆創膏を膝にべしっと貼ると少年は痛みに顔を歪めた。
「痛い……」
「当たり前でしょ。あんなに派手にコケた人久しぶりに見たよ」
救急箱をしまいながらくすりと笑うと少年はムッとした表情をした。
「……今、学校じゃないのかよ」
「体調不良で早退してきたの」
「……ふーん」
そうは見えないというふうにじとっと私を見る少年。
まあそりゃそうだろうよ。
なんかもう頭痛に慣れちゃったんだもん。
「今日はお父さんもお母さんも残業だからゆっくりしていっていいよ……って言っても暗くなる前に帰らなきゃいけないか」
「……」
少年は何も言わなかった。
……さっき手当てをしている時に気付いたんだけど、転んだ時以外についた痣とかがあったんだよね……。
もしかしてこの少年……
「……帰る」
「え」
「俺と関わると、ダメなんだ」
よろよろと玄関に向かう少年を私は引き止めた。
「それ、さっきも言ってたよね? どういう意味なの?」
「……関係ない」
「関係なくない。てか君ここら辺の土地勘ないでしょ? どうやって帰るっていうの」
「……」
私は黙った少年をまたソファに座らせた。
「私暇だし、話したら楽になるかもしれないから話そうよ。今お茶いれるね」
「……」
少年は浮かない顔をしたが渋々ソファに体を預けた。
割と素直なのかな。
その時私はお茶をコップに注ぎながらあることに気付いた。
「ねえ、名前は?」
「名前?」
「君の名前。名無しじゃ呼べないでしょ? あ、私は五十嵐有梨」
「……」
少年は少しの間の後、答えた。
「………………………井ノ原、燐(りん)」
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