暁の空へ | ナノ


  114 前にも……


宍戸の体から力が抜け、ぺたりと椅子に体を預けるように座る。


誰も、何も言えなかった。


喫茶店内にいる他の客の話し声やオーダーを承る店員の声がやけに大きく聞こえた。


「……"ファルス・メモリー・シンドローム"」
「え……?」


不二が呟いた。


「聞いたことがある。辛い記憶を自分の都合のいいように作り上げ、思い込んでしまう……そんな現象が起きることがあるって」


記憶を作り上げる……


「……きっと井ノ原は、自分のとった行動だと認めたくなかったんだよ」


しん、とした空気が流れる。


「俺……」


呆然としていた宍戸が呟いた。
そして、ガタッと音をたて、喫茶店を飛び出した。


「宍戸!!」
「五十嵐っ、」


私は宍戸を追いかけた。



















「宍戸! 待って宍戸!!」


さすが現役テニス部、全然追いつけない。
寧ろ差を広げられてるような気がする。

人通りの多い街中で宍戸を見失わないように必死だ。

しかももう息切れしてきて苦しいし。


「宍戸、」


宍戸の前に大きな交差点が見えた。

信号は青。

ここで渡らなきゃ赤になって……





もう、一生宍戸に会えない





そんな気がした。

地を蹴る足にめいいっぱい力を込める。


「宍、戸……っ!!」


信号が点滅する。
間に合え……っ!!






交差点に差し掛かった








その時だった








五十嵐ー!!!








仁王の声が聞こえる。


でも力いっぱい蹴り上げた足は止まらない。















真っ白な自動車が











私に向かって走ってくる













ああ、









前にも同じことあったなあ













ドンッ

















体に大きな衝撃が走り、私は意識を失った。

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