TAG index
 
I my Lover

 私とナルトは付き合っている。
 カテゴリーで言えば彼氏彼女、恋人。だけど、周りからはそうは見えないらしい。その原因はいつまでたっても変化がおこらない私とナルトに問題があるから……なのかもしれない。
 私とナルトは友達から恋人になった。
 仲がよくてずっと一緒だった……とかいう友達ではなく、会えばお互いぶつかり合うケンカ友達からの恋人。
 会えばなぜか言い合いになってしまう私達。それがどうして恋人、という枠に入ることになったのか。それが私にもよくわからない。未だに。
 いつも通りケンカをしていた。していたはずだった。それなのに急に真剣な顔つきになったナルトから「好きだ」と急な告白。
「わかった、私をからかってるんでしょう?」
 動揺を隠せないまま笑って言ってみたもののナルトの真剣な表情は変わらない。
 私は自分でもわからないまま「付き合ってくれ」と言ったナルトに向かって静かに頷いた。
 それから付き合うことになった私たち。でも恋人がするような甘いことを私たちがするわけもなく変わらず口ゲンカしつつどこかに遊びにいくという変わったカップルに成し遂げた。そのせいなのか、周りから本当に付き合っているのかと聞かれることが多い。たまにケンカしながら私でも思っちゃうからその気持ち、わからなくはない。
 だけど、約束してないのにちょこちょこ会いにくるナルトにああ、やっぱり付き合ってるんだと再確認する。その時少し嬉しくて少し恥ずかしい。なんとも言えないくすぐったい気持ちになってるってことはナルトには秘密だ。

ー」
 名前を呼ばれた気がして周りをキョロキョロ見回すけどそんな人物は見当たらない。気のせいかなと思ったその時、目の前に人が降ってきた。
 トン、と軽く足を地面につき軽く「よう!」と挨拶をしてきた人物こそ私の彼氏であるナルトだ。
「ちょっと、どこから来たの! いきなり目の前に現れるとかびっくりするからやめて、って何度も言ってるのにっ!」
 会ってそうそう初っ端からこんな言い方。自分でもどうかと思うけどナルトに対してはこんな感じでしか会話ができない。それに今更私がおしとやかに話しかけたところでナルトから「病気か?」って腹立つことを言われるに決まってるんだ。

「屋根からだってばよ。もアカデミーにいたんだからこんなんでいちいちびっくりすんなって」
「やめて。アカデミーにいたって言っても結局卒業できなかったんだから!」
 そう、私はこれでもナルトと一緒にアカデミーに通っていた。忍者の卵だった過去がある。言ったとおり卒業できなかったのでナルトと同じ忍者にはなれなかったけど。
 アカデミーに入って得たものと言えば友達が数人できたことと少々の知識だけだ。
 親は忍びになってほしくてアカデミーに入学させたけど、私には忍びの才能がまったくなかった。チャクラをうまく練れにない上に量もないに等しい。加えて体力もなく、ひどくとろい。これはもう忍びは無理だ、と二回の卒業試験までは頑張ったが三回目にしてようやく諦めた。
 ナルトとは試験に失敗した仲間ってことで話すようになった。内容はくだらないことばかりだったけど。今になって結構楽しかったなって思える。
 そんな彼は私と違ってちゃんと卒業して忍びになれてるんだからすごい。私と違って諦めず前に進む姿はかっこいいなと素直に思う。口には出さないけど絶対に。
 しかし、何度思い返してみても初めての会話が「お前、女の中で一人だけ試験に落ちたんだってな」はないと思う。あれがなければこんなケンカばかりしてる関係にはならなかった、はず。私も「同じく落ちたあんたに言われたくない!」って怒鳴ったりはしなかった、はず。

「まあ、行こうぜ」
 自然に私の手をとって歩き出すナルト。恥ずかしいようなくすぐったいようななんともいえない気持ちが湧き出てくる。そんな私を知られたくなくて慌ててナルトから手を放せば驚いた顔のナルトと目が合った。
「い、いくら私でもはぐれたりしないからっ」
 早口にそう言えばナルトは少し間をあけてから顔をクシャって歪めて笑った。
「ほんとかぁ? ってばすぐ道に迷うくせに」
「し、失礼なっ! あれはただ地図がよめないだけなの!」
 知ってる道では迷わないんだからとあまり胸を張れないことを堂々と言えばナルトは「威張って言うことかよ」と笑いながら今度は私の手をとらずにゆっくり前を歩き出した。自分から手をほどいたくせにどこか寂しい気持ちになる。そんな自分をごまかすように早歩きでナルトの背中を追いかけた。
「ねえ、そういえば行くってどこに?」
 今日だってとくに会う約束していない。というかどこか行くならこれから時間あるか? って確認ぐらいしてほしいんだけど。私にだって予定というものがあるのだから。
「ああ、なんかうまいデザート屋があるってサクラちゃんから聞いてさ」
 聞いたらと食いたくなってと何気に恥ずかしいことを言ってのけるから焦る。
「……サクラちゃん元気?」
「元気、元気。今日もなんでか怒鳴られたしなー」
「それはナルトがまたバカなことしたんでしょう」
 そう冷たく言えばひでぇ、とナルトが笑う。そんな彼を見て私も笑う。
 ナルトに自分が愛されてるって感じるのはいつも慣れない。動悸が少し早くなって息もうまく出来なくて変になる。


***


「おいしかったね、サクラちゃんから教えてもらったとこ」
 デザート食べての晩ごはんっておかしいけど、甘いものではなんか終われなくて、その後お決まりの一楽に行ってラーメンをぺろりと平らげてしまった。
「ラーメンも変わらずおいしかったなぁ。家では出せない味だよね」
 もうすっかり暗くなってしまった道を二人で歩く。さっきから妙に大人しいナルトに落ち着かなくて逆に私がお喋りになっている。だけど、それもネタ切れでどうしようもなくなった私は空を見上げてキレイな星を見つめる。星を見つめると自分の存在ってすごく小さいものなんだなって思える。真剣な悩みとかもこんな広い空に比べたらたいしたことないんだろうなと、しんみりしたところで腕を掴まれてビクッと肩があがった。
振り向けばナルトが少し呆れた顔をしていた。
、そんな上ばっか見てたらこけっぞ」
「わ、私そんなドジじゃないもん!」
 ナルトのしっかりした手と体温にドキドキして慌てて振りほどく。
ここで、いつもなら「いや、ってばアカデミーの演習でたいがい転けてたよなー」や「何もないとこで転けてばかりなのにか?」みたいなことを吐くはず。そして私も「なにをー!」と突っかかる。それがいつもの私達だ。
 だけど、今日は違った。ナルトはただ黙って私を見つめるだけだった。
「……ナルト?」
 いつもと様子の違う彼は一度自分の足元を見つめ、それからまた私に視線を戻した。
って、本当にオレのこと好き?」
 ナルトのその質問に今まで一番強く心臓が激しい音を立てはじめる。
「どうしたの、急に」
 笑ってごまかそうとして失敗した。ナルトがあまりにも真剣な顔でこちらを見ていたからだ。
「本当にオレたちって付き合ってんのかなって、ここ最近ずっと考えてた」
「な、に言ってんの。付き合ってるよ、だって――」
 こうして二人で出かけたりするし、そう言おうとして口をつぐんだ。出かけたりは友達の頃からしていた。
「オレたち付き合ってからけっこう経つけど、キスもまだだ」
 その言葉に顔が熱くなる。
「な、急に何を言うかと思えばそんなこと!」
「そんなことだけど、オレはしたいって思ってた」
何も言えずにいるとナルトは私の心臓をもっと締め付けるようなことを口にした。
「ずっと思ってた。にキスして抱きしめて……もっと恋人みたいなことしたいって」
 さっきから心臓うるさい。痛くて苦しい。
はしたくねぇの?」
「そ、れは……」
 どう答えればいいのかわからず俯いてしまう。
返答に困っているとナルトの小さなため息が聞こえた。
「オレの好きとの好きはきっと違う。認めたくなくてずっと続けてきたけど……もう限界だ」
 ナルトが何を言いたいのかわからない。わからないけど感じとってしまう嫌な予感に体温が下がっていくのがわかった。
、今オレにキスして」
 思わず顔を上げれば真剣な顔つきのナルト。告白をされたときのことを思い出して心臓が震えた。
「き、キスって……」
「できないなら、の好きはやっぱオレとは違うんだ。だから……」
ナルトは静かに、だけどはっきりと告げる。
「別れよう」
 その言葉に心臓がヒヤッと凍りつく。嫌な心音に指先が震える。「な、んでそんな」
キスひとつでそんな別れるって、嘘だよね? そう思ったけどナルトの表情はさっきと何も変わらないままだ。
 嫌だ。そう思ったけど、私の体は震えていうことを聞かない。キスがしたくないとかではなくナルトに別れを切りだされたことに頭がいっぱいで体が動かない。だけど、そんな私を見てナルトはキスができないんだと思ったらしい。
「ごめん、今日は送ってくの無理そうだ」
 律儀にそう言ってナルトは私に背をむけて去っていく。
「待って!」そう叫ぼうとしたけど口からもれたのは声ではなくかすれた息だけだった。どんどん遠くなる背中を私はただボーッと見ていた。
 なんでいきなり別れるってことになるのかわからないまま、私はその場に立ち尽くす。
「う、そだよね?」
 やっと出てきた声はひどくかすれてやけに弱々しい。
 途方にくれる私を星はさきほどと変わらない様子で光っていた。

ー!」
 いつもと変わらないナルトの声に笑顔。
 昨日のことはもう気にしてないの? そう尋ねた私の背中をナルトは笑ってバシバシ叩く。
「バッカだなー、あんなん冗談に決まってんじゃんか。んなこと気にしてねぇで今日も一楽行くぞー」
「なにそれっ、ひどすぎ!」
 そうナルトにむかって叫ぶけど、心のなかでは本当によかったと安堵する私。その安心感からぽろり、と涙をこぼせば笑えるくらいナルトは慌てはじめた。
「ご、ごめんって、ー」
 優しい声が私の名前を呼ぶ。
そして、そこで目が覚めた――。

 またこの夢だ。
 湿っている目元を手で拭いて起き上がる。ナルトが笑いかけてくれてたのは夢なんだという現実が痛くて胸をおさえた。
 あれからずっとこの夢をみている。私の勝手でわがままな夢。こんなの恥ずかしくて誰にも言えない。
 あの日から、ナルトと会うことがなくなった。同じ里にいるんだし会わないなんて無理だろうと思っていたけど、そんなことはなかったらしい。ばったり出くわすこともない日が続いて気づいたことは、もしかしてずっと会えていたのはナルトがわざわざ会いに来てくれてたからなのかもしれないってこと。私はどこまでもナルトに甘えていた。


***


ー!」
 仕事帰り、私を呼ぶ声に心臓がトクンとはねた。振りかえればサクラちゃんが手を振ってこちらに近づいてくる姿が見える。彼女の姿をみて残念に思ってしまった自分を殴りたい。
「久し振りだね、元気に……わっ」
 私が喋り終える前にサクラちゃんに思いっきり抱きつかれてしまった。
「ど、どうしたの」
「ナルトに聞いた! あのバカ、ここんとこずっとおかしくて絶対何かあったはずなのになんにも言わないから今日実力行使で聞いたの」
 そう一気にまくし立てサクラちゃんは拳を握った。実力行使がどんなものなのかは想像がつくのであえて聞かないことにしようと冷や汗を流す。
「ていうか、! あんたこんなとこでのんびりしてる場合じゃないでしょう。なにやってんの!」
 何も言えず黙りこめばサクラちゃんが深い溜息をついた。
「ナルトはずっと振られたとしか言わないし。でも、がナルトを振るなんてありえないから絶対あいつ一人で突っ走ってるんだって思って、それで……」
 その言葉に目をぱちくりさせる。
「え、なんで私がナルトを振るはずないって思うの?」
「なんでってそんなのがナルトのこと好きなのバレバレだし……ってもしかして気づいてなかったの?」
 バレバレ……って、私が? ナルトのことを?
 サクラちゃんの言葉に混乱しながら口を開く。
「で、でも私好きとかそういうのよくわかんないし」
「え、じゃあなんで告白オッケーしたのよ?」
「そ、れは……迫力に負けて?」
「なにそれ。だったらナルト以外の人から告白されても勢いに負けて付き合うわけ?」
 ナルト以外の人と?
 そう考えてとっさに首を横に振る。
「む、り! 無理だよそんなの」
 そんな私を見てサクラちゃんは思いっきり笑った。
「ほら、ただの勢いに負けて告白をオッケーなんてしないでしょう?」
 サクラちゃんの言葉に気付かされる自分の気持ち。
 そうだ。だって全然嫌じゃなかった。恥ずかしくてたまらなかったけど、手を繋がれるのだってどこかに一緒に行くのだって全然嫌じゃなかった。むしろ私のとこに笑顔で駆け寄ってくる姿を見るのは嬉しかった。とても。
 私、ちゃんとナルトのこと好きだったんだ。自分の気持ちを今更知って恥ずかしくなる。心臓がぎゅうっと締め付けられる感覚。これはナルトといるときもあった感覚だ。
「ちゃんとわかったんならナルトに言いなさいよ。あいつも鈍いからのこと誤解して暴走して今激しく落ち込んでるわよ」
 本当にバカなんだからとため息を吐くサクラちゃんにまた私は首を横に振る。
「で、でも遅いよ」
 今更気づいたってナルトとは別れてしまった。ナルトだって今になって私の気持ちを聞いて何を思うだろう。今更。遅い。そう思うに決まってる。
 パチン――。
 頬がじんじんとしびれる。サクラちゃんの両手が私の頬を掴んでいた。
「言う前から遅いとか無理とか言って諦めんなっ!」
 その言葉に息をのむ。
「もし、もしもが自分の気持ち伝えてナルトのやつが遅いとか今更とかバカなこと言い放ったら私が力の限りぶっ飛ばすっ! だから――」
 諦めないでぶつかりなさいよ、そう言われて涙がこぼれた。
 そうだ、私今までちゃんと自分の気持ちをナルトに伝えてこなかった。伝えてダメだったとしてもちゃんと言っておかなきゃ絶対後悔する。自分の気持ちをちゃんとナルトに伝えよう。涙をふいてサクラちゃんを見つめる。
「わ、私行ってくる」
「ナルトならさっき別れたばかりだから演習場の方向にいるはずよー!」
 サクラちゃんの応援を背に私は駆け出した。

 走って数分後。
 私はやっぱり忍びには向いていないと改めて思い知らされた。
 少し走っただけで乱れる呼吸を落ち着かせようとさっきから立ち止まってばかりいる。こんなんじゃ、もうナルトは演習場のほうにはいないかもしれない。そうでなくてもナルトは私と違って俊敏に行動できるんだから。いや、ナルトと比べるのはおかしいか、忍者の卵であるアカデミー生と競争しても負ける気しかしないし。というか、アカデミーにいたあの頃より思いっきり体力が落ちている。
 いきなり運動をしたからなのか付いてこれなかった体がやーめーてーと叫んでるのがわかる。その証拠になんだか気持ち悪くもなってきた。冷や汗がとまらなくて、これはやばいとのろのろ歩くがとうとう耐えられくなってその場にしゃがみこんでしまう。
 なにこの気持ち悪さ。
 ちゃんとナルトに気持ちを伝えようって意気込んでいたのになんで、こんなときにこんな状態になるの?
 自分の不甲斐なさに涙がじわりと浮かんだ、その時――。
!」
 名前を呼ばれて体がビクリと跳ね上がった。キョロキョロ周りを見回すが誰もいない。気のせいかな、と思ったとたん目の前に人が降りてきた。
 何度もやめてと言った登場の場面に色んな気持ちがごちゃごちゃしてポロリと涙がこぼれる。
、大丈夫かっ」
「な、ると……」
「顔真っ青じゃねぇか」
 背中を優しくさするナルトの体温にたまらなくなって腕をギュッとつかむ。
「わ、たしナルトに」
 言わなきゃいけないことがあるの、と震える声をだす。
「わかった。けど先に病院に」
「待って、おねがい」
 指先も同じように震える。
 切羽詰まった私の声にナルトが真剣な面持ちで見つめてくる。
「わ、たし今までの関係が好きで、だからずっと気づけなかった」
 気づかないようにしていた。
 ナルトと恋人みたいなことをしてギクシャクしちゃうのが嫌だったから。
「好きって言葉も嬉しいのに甘い空気に私が私でなくなる気がして無理やり壊したの。その時ナルトがどんな気持ちだったのか気付こともしないで、自分のことだけ考えて」
 それでも友達に戻ろうなんて考えたこともなかった。
 同じ忍者になれなくてもナルトの隣には私がいたかったから。

 ひどいわがままだ。
 恋人になれないくせに友達も嫌だなんて。だけど、私はずっとナルトに甘えてきた。今度はちゃんと私がナルトに気持ちを伝えないと。
「……私、ナルトが好き」
 自分の気持ちに気づいたばかりだけど、私のとこに駆けつけてくれたナルトを見て、ああやっぱりそうなんだって確信した。
「もう遅いかも、しれないけど」
 今更かもしれないけど、やっと気づけたの。
「ナルトが好きなの。別れるなんて言わないで……」
 泣きじゃくる私にナルトは静かに「バカじゃねぇの」とつぶやいてギュッと体を強く抱きしめた。
「なんだよ、遅いって。そんな簡単にのこと忘れられたら苦労してねぇって!」
 その言葉に今度は嬉しさで涙が溢れて落ちる。
「それに、オレ別れても諦める気ねぇからなっ」
 それってどういう意味だろうと考えていると、ナルトが体をゆっくり離して私を見つめた。
「サクラちゃんに思いっきり殴られてさ」
 そういえば、実力行使がどうとか言っていたような。
「殴られて、そんな簡単に諦められる気持ちでと付き合っていたのかって言われて目が覚めたんだ」
 立ち上がったナルトが差し出してくれた手に捕まって私もゆっくり立ち上がる。
「どう考えたって諦められねぇ。だったらがオレのこと恋人として好きになってくれるまで頑張ろうって……なんかしつこいと思うかもしれねぇけど」
 ふるふると首を横に振る。
 そうだ、ナルトはいつだってまっすぐで、そんな彼だから好きなんだ。
 前はこういうの恥ずかしくて笑ってごまかしていたけど今なら言える。
「嬉しい」
 私の言葉にナルトは頭を乱暴にかく。
「あー、そのえっと……こういう時ってやっぱあれか? 仲直りにチューとかその……?」
 ナルトの気持ちに今度こそ答えたかった。だけど私の体はもう本当に空気が読めなかったらしい。グラリと回る視界に私はまたその場に崩れてしまった。


***


、あんまし無理すんなって!」
「しつこいー。もう大丈夫だって」
 先に行くよーと駆けてく私の背中に「走るなって!」っと心配そうな声がかかる。ナルトは私が倒れてからずっと心配している。ただの貧血だったていうのに。
 そう、私が倒れた原因は不規則な生活がたたっての貧血だった。
 思い返せばナルトと別れて以来ちゃんと食事をとっていなかったような気がする。しかも例の夢が見たくなくて睡眠も充分ではない。そんな状態でいきなり走ったものだから体が付いてこなくて当たり前だ。
 貧血を侮ってはいけないがナルトほど心配する必要もない。ちゃんと私が気をつけていれば倒れることはないんだから。

「思ってたより落ち着くね」
 今日は初めて二人でデートスポットと言われる場所にきていた。と、言ってもただの映画館だけど。今まで恥ずかしくてデートを主張するようなところは避けてきたけど、いざこうして来てみればカップルだけでなく家族や友達同士で来ている人たちもいる。変に緊張していた自分が少し恥ずかしい。
「オレは落ち着きすぎて寝ちまうかもなー」
「たしかに。やっぱり恋愛系じゃなくて、もっとこう血肉が踊るようなアクション的なのにすればよかったかも」
 サクラちゃんに相談したらカップルで観るなら当然恋愛でしょう! と背中を押され(実際に押された)勇気を振り絞ってナルトを誘ってみたけど、お互いが得意でないジャンルをわざわざ選ばなくてもよかったかもしれない。席に座ってそう言えばナルトが小さく吹き出した。
「血肉って……。まー、オレはが一緒ならなんだっていいんだけどな」
 それを耳にしてボッと顔が熱くなる。以前より容赦なく甘いセリフを吐くナルトにどう反応すればいいのかと横目で見ればバッチリ視線が合って余計にドキドキしてしまった。
「そんなわかりやすい反応されっとオレまで照れるって」
 ギュッと握られた手からナルトの熱が伝わってきて体が固まる。ゆっくり照明が落とされ辺りが暗くなっていくなか私の顔だけは赤く火照ったままだ。
「お、そろそろ始まるな」
 そう言いながらも手を放そうとしないナルトの様子に一人慌てる。
 え、もしかしてこのままの状態で映画観るの? 絶対内容入ってこないよ。
 ただ握るだけじゃなくて指先を絡めてきたナルトに抗議の視線を送るが気づいているのかいないのか。ナルトは笑って顔を近づけ耳元でそっと囁いた。
、すげー好き」
 まだ始まっていない本編のかわりにCMが大きな音量で流れている。それでもはっきり聞こえた甘い言葉に胸がより激しく高鳴った。
 きっとこれからもこうやってナルトにドキドキさせられるんだろうな、と思いながら絡めた指先に力をゆっくり込める。そんな私にナルトは驚いた視線を向けた。
 もう「本当に付き合ってるの?」なんて疑問に思われないようにちゃんとナルトに返していこう。曖昧じゃない、ナルトは私の恋人だって胸をはって言えるように。
「私もすごく好き」 
 ナルトにならって私も耳元で囁やけば、彼もちゃんと聞こえたのだろう。スクリーンの明かりに照らされたナルトはこれでもかってくらい顔が赤かった。
「ちょ、ここで、そんなかわいいこと言うなって! キスしたくなるだろー」
「バカ! こ、声おおきいからっ!」

top
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -