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アイオライト

くだらない事でナルトとケンカした。
次の日の朝は行ってきますも行ってらっしゃいもお互い口にせずに家を出た。というかあまりにも腹が立ったのと悲しさで一晩中泣いていたので寝坊してしまいナルトがいつ外に出たのかもわからなかったし確認する余裕もなく私も出勤せざるおえなかった。
なのでテンションは酷いくらいにだだ下がりだ。
「どうしたよ
今日なんかボロボロじゃね? と隣の席の同僚がこちらを見る。
「……別に」
素直に彼氏とケンカしただなんて言えなくて不機嫌のままはぐらかした。
「その機嫌の悪さはケンカだろ! 彼氏と!」
しかしすぐバレた。なぜだ。解せぬ。
何も言わない私に「やっぱりなー」ってにやけている。殴りたい。
「同棲して結構経ってるよな? いや、よくお前に付き合ってくれてるよ」
すごいすごいと褒めているこいつの顔を少しぐらい殴っても罰は当たらない気がしてきた。
「お前ってちょっと頑固なとこあんじゃん。早く謝んねぇとタイミング逃してズルズル破局まで一直線だぞ」
「ちょっと!」
簡単に想像できそうな未来をペラペラ喋るその男の口を黙らせたくて声を上げるが、何を言えばいいかわからず小さく「やめてよ」となんとも頼りない声を丸出しにしてしまった。そんな私を見てさすがにやばいと思ったのか「あー」と唸るみたいに声を出したあと「悪い。ランチ奢ってやっからそんな落ち込むなよ」と頭をぐしゃぐしゃにしてきたので今度こそ私は殴った。
髪が、乱れる!
寝坊してもともと乱れていたけど更に! あと私そんな食べ物につられて機嫌が回復するようなそんなお気楽な女ではないですから!
失礼なとプンプンしていたがお昼どきになれば私の胃は素直に空腹を訴えてきた。いやお昼よりずっとずっと前から空腹はあった。なにせ寝坊して以下同文。そして何度目かの胃の叫びが私を更に落ち込ませる。こうなったら奢ると言った奴の財布で胃袋をこれでもかというほど詰め込んでやる!
チラリと隣を見るとタイミングよく向こうもこちらを見た。
「飯、行く?」
コクリと頷いて一応財布を持って席を立つ。

外に出ると室内にいた時には気づかなかった太陽の眩しさに頭がクラクラした。私の気持ちとは裏腹な天気になんだかやるせなさを感じて泣きたくなった。けど私の隣を歩くコイツに弱味を見せたくないので暗い気持ちを誤魔化すようにこの後何で胃を満たすべきか考える。
なんかもうガッツリいきたたい。そうなると、丼ぶり……。
そんな時とても今は会いたくない人物が目に入った。急に立ち止まる私に気づいて同僚もどうした? と同じく立ち止まる。
「ナルト……」
そう、そこにいたのは昨日ケンカしたはずのナルトだった。いつも仕事場に来るのは私の帰りが遅い時間になるときくらいなのになんでいるのか。もしかして私に会いに来てくれた?
嬉しく思うもナルトが一人でそこにいないことに気づくのに時間はかからなかった。隣にいる同僚が「あの金髪がお前の彼氏? なんで女といんだ?」
そんなこと私が聞きたい。
ナルトは私に気づくこともなく女との子と楽しそうにお喋りをしていた。無邪気に笑うその笑顔が好きでしかたなかったはずなのに今はとても嫌いだ。
嫌な気持ちを振り払いたくて私はナルトがいる方向とは逆に足を動かし始めた。
「あ、おい!」
背中に同僚の声がかかるが無視してとにかく歩いた。
「待てって!」
腕を強く引かれて歩きたくても止まるしかない。
「放してよ」
「いや、彼氏お前のこと待ってたんじゃねーの?」
「待ってないよ」
どう見ても人を待ってるような態度じゃなかったじゃん。いや、もしかしたら本当に私のことを待っていたのかもしれない。それで「オレこの子と付き合うから別れてくれ」みたいなこと言われるんだ。そうだ、そうに違いない。そう考えたらもうそうとしか思えない。
「話してもねーのにわかるかよそんなこと」
「もういいからご飯行こうよ」
この話を続けたくなくて「私、今日はカツ丼とか牛丼とか丼物がいいな」と話題を無理やり変えた。
「いや、よくねーだろ。お前今朝そうとう酷かった……」
その時、いまだ私の腕を放さない同僚の手首を誰かが掴んだ。
「お前になにしてんだっ」
「ナ、ナルト」
同僚も男性なのでそれなりの力があるほうだと思う。けど、それでもやっぱり忍びであるナルトには敵わないのだろう。同僚はいとも簡単に私から手を放し顔を歪めている。どうやらナルトが結構な力で相手の手を掴んじゃっていたらしい。
「お前誰だってばよ」
「えっと、そちらはの彼氏さん?」
同僚は掴まれていた手を降ってナルトに尋ねる。
「だったらなんだ。質問に答えろって!」
先程から怒りを隠そうとしないナルトに冷や汗が止まらない。恐らく原因はナルトだろう。空気がとても痛く感じる。忍びならこれが当たり前なのだろうけど忍びでもなんでもないただの一般人には我慢できない。
「……ナルト、やめて」
耐えられなくてか細く声を出すとこちらを向いたナルトが焦ったように名前を呼ぶ。それと同時に息苦しかった空気が一気に楽になった。
、大丈夫かっ」
足に力が入らずその場でしゃがみ込む私にナルトが背中を撫でる。
「ごめん、ほんとオレってば周り見えてなくて……」
平気だと伝えたくて首を横にふる。声はもう少し落ち着くまで待ってほしい。
息を整えていると同僚が普通に話しかけてきた。
「あのー、いいっすか」
「あっ! が落ち着くまでちょ、ちょっと待ってろお前っ」
慌ただしいナルトの声を無視して同僚は続ける。というか、なんでさっきの殺伐とした空気体感して普通に話せてるんだろう。
「さっき楽しそうに話していた女性とはどうゆうご関係で」
「……じょせい?」
そうだった。その言葉に気持ちがまたも落ち込む。わ、別れ話をここでされたらさすがに気まずい。きっと同僚に可哀想な目でしばらく見られるんだ。想像したら腹立った。
「……あー、あの子のことか」
思い出したナルトは一人納得したかのようにうんうん頷いている。
「いやだからどういう関係なのか聞いてるんすけど」
「どういう? を呼んで欲しくて声かけただけだけど」
ナルトの不思議そうにしている顔を見て思わず「えっ」と声をもらす。あ、よかった声でる。
「いや、昼休憩もし中でとるなら外でてこないよなってことにここに来てから気づいてさ。したらさっきの子がの仕事場から出てきたの見て呼んでくれねぇかなって」
え、それだけ? 本当に?
「ついがオレの彼女でとか詳しいこと話しちまったけど……あれ、ダメだった?」
それは恥ずかしい! 間接的に関わることはないと思うけど会わないわけではないからこの先顔を合わせることがあればとても気まずい。
恥ずかしさに顔を両手で隠す私にナルトが「ご、ごめん」と慌てる。いや、もう言ったものはしかたないんだけど。
そんな私達を見て同僚は急に笑い出した。驚いて顔を上げればすごい笑顔で口を開く。
「ほら、だからちゃんと話せって言ったろ」
お前って変にマイナス思考入ってるもんなって言いながらしゃがんでいる私の頭をぐしゃぐしゃにしようと手を伸ばしてくる。だからやめろ。
しかし、それは未然に回避。なぜならナルトが怖い顔をして阻止したからだった。
「で、お前は誰――」
「あ、やべー昼休憩がなくなる。わり、オレ行くな」
ナルトを無視して同僚はご飯を求めに旅立った。嵐みたいなやつである。
「な、何なんだあいつはよっ!」
最初から最後までナルトのことを無視していた同僚に怒りを表すナルト。ですよね、腹立ちますよね。同じくです。私にご飯をを奢ると言っていたのに逃げやがった。許せぬ。
「あいつにすげー馴れ馴れしかった。気安く触ってたし」
何なんだマジで! とナルトが私に聞いてくるがただの同僚だしなんならあいつ他の人にもあんな感じですし。
「はっ! もしやに気があるんじゃ……」
なんてとんでもない勘違いをし始めたので私は「絶対ありえないしそんなことより早くご飯食べたい」
とあいつのことより胃袋の限界を訴えた。


「あー美味しい」
温かいご飯が染みる。ほくほくの牛丼を口に含んで私の胃はやっと小言を止めた。朝ごはんは必要だねやっぱり。
「そういえばナルトは朝ごはん食べれたの?」
「え、ああ食パンだけ食ったかな。朝起こせば良かったな」
私よりも早く家を出ないと行けなかったナルトは私のことを気にしながら任務に行ったらしい。
「ううん、起きれなかったのは私の自業自得だし」
「いやでもオレも昨日ちゃんとと話せてたら……」
「もういいから」
ご飯食べてしまおうとナルトを促す。

昨日のケンカはケンカというより私が一方的に怒ったというほうが正しかった。ここ最近、任務に入る件数が多く。休みも返上して働いてるナルトを見てそこまで生活がきついわけではないのにどうしてか尋ねたことが発端だった。だってナルトはいつも無理をする。限界はわかってるからなんて言いつつ酷いと服はボロボロ体も傷だらけにして帰ってくる。すぐ治るとか言って、まともに怪我も見せてくれないし、待ってるこっちとしては不安で不安で仕方ない。理由がもし生活に原因があるなら私も改善しないとだし、もしなにかあって借金したとしたなら私も何かできる範囲で手伝えると思った。だから言ってほしくて「最近任務多くない?」って尋ねたら「え、そうか? 最近人足りてねぇーからかな」なんてはぐらかされた。ナルトが本当のことを言ってないのなんてすぐわかってしまう。ナルトは私の目を見て嘘は言えない。本当バレバレだった。だから私は言わないのに無理をするナルトに怒ったのだ。
「なんで言ってくれないの? もしかして任務とか言いながら私に言えないことしてるの?」
口にしたら一気に不安になっちゃって何度も否定するナルトを無視して私は部屋に引きこもった。そして遅くまでグスグス泣いて寝坊。他人が聞いたら呆れるだろう。すでに自分で呆れてるけど。
に謝りに来たんだ」
水を一口飲んでナルトは言った。食べるのが早いナルトの丼ぶりはすでに完食済みだ。
「自分で思っていたより任務に集中できてなくてさ。ダメだなこんなんじゃ」
フルフルと頭を横に振る。
「私もナルトのこと気になって朝そうとう酷かったよ」
さすがに賑やかな店内で話すことでもないので食べ終わった私達はそそくさとその場を後にする。外はやっぱり太陽が頑張っていたけど先ほどみたいに悲しい気持ちにはならなかった。お腹が満たされてるって幸せなことだ。いや、一番はナルトがわざわざ来てくれたっていう嬉しさからだと思う。こういうところは私も単純。
職場までゆっくり歩きながらナルトがためらいながら口を開く。
が言ってたとおり任務多めに入れてもらってた」
その言葉に思わず立ち止まる私につられてナルトも止まる。
「キツかったけどこれでの笑顔が見れるなら例え傍にいる時間が減ってもいいって思ってた。バカだよな本当。それでを不安にさせちまってることに気づかないんだから」
「私の笑顔?」
どういう意味かわからなくて首を傾げる。
「……本当はもっとちゃんとしたとこで渡したかったんだけど、のためにしたことでこんなことになっちまって意味ないなって思ったからさ、その……」















「遅かったな」
休憩とっくに過ぎてるぞ、と同僚にニヤッとした笑みで迎えられる。普段の私なら殴りたいとか思うのだけど、それよりもさっきのナルトとのやり取りに意識が半分くらい乗っ取られていてそれどころではなかった。
うんと小さく頷いて席に静かに座る私に同僚はおかしいと思ったのか心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫か?」
まさか悪化したとか言わないよな? の問いに「うん、だいじょーぶ」と力なく返す。
「全然大丈夫そうに見えねぇ……」
と、同僚の視線がある部分に注がれたのを感じて顔が自然と熱くなる。同僚は一気に理解したのかはぁーっ、とわざとらしく大きなため息をついて自分の席へと戻っていく。去り際に「おめでとさん」って小さく言われ今度は私がニヤけてしまった。隣から「うぜー」と呟く声も今は気にならない。

結局、今日一日私の頭はうまく活動しないまま終えるのだろう。それでも沈んでいた気持ちはすでになくなっていて、なんとも言えない甘く胸を締め付ける痛みにただ幸せだと感じてしまう。さっきまではなかった左手の指元でキラリと輝く石を見つめて私は照れたナルトの顔を何度でも思い出すのだった。



、オレと結婚してください」

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