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冬のぬくもり

から受けた衝撃的な言葉。その威力にオレはダメージを隠しきれなかった。なんで相変わらずな可愛い顔で、声で、そんなことを言うんだってばよ。衝撃を受けて固まっているオレが話を聞いていないと思ったのか、が聞いてる? と言いたげに顔を覗き込んできた。かわいい。思わず伸びた手にハッとする。待て。待て待て。さっき、はなんて言ったんだっけか? はっきり言って思い出したくないが無視したならもっと最悪なことになりかねない。そう確かは――。

「しばらく抱きつかないでほしいです」

再び聞こえた衝撃発言。
そう、それだ。帰宅し、おかえりなさいと出迎えてくれたに抱きつこうとした瞬間。なにを思ったかは「抱きつかないで」なんてことを言ってのけたんだった。しかもなんでまた言ったんだよ。あれかオレが聞いてないと思ったのか。ショックのあまり忘れようとしたけどよ。
なんでだってばよ。どうしてそんなことを言うんだ。なんかしたのかオレってば。それで、もしかしなくても嫌われた? やべ、涙が出そうだ。いやもうマジで。
「な、なんで?」
「な、なんでって……今は言えない、けど」
もごもごと言葉を濁すの態度に言えないようなことってなんだよ! と焦る。考えても考えても全然わかんねぇ。そもそもオレってばあんまし考えるの得意じゃねーし。

「とにかく、今は何も聞かないでしばらく抱きつくのやめて。お願い」
「うっ」
のお願いだ。できるなら聞いてやりたい。だけど、こればっかはオレも「わかった」なんて即答できねーって。そもそもは。
「平気、なのかよ?」
「……え?」
「オレと、その、ギュってできなくってもは……平気なのかよ?」
オレはにギュっとできない日々を軽く想像しただけで、こんなフラフラでヘコみまくりだっていうのに。
ゴクリと喉がなる。
これでもし「うん」なんて言われたらどうすんだオレ。嫌われちまったの確定じゃねーか。立ち直れない。ぜってー立ち直れない。
「私はナルトにギュってするよ?」
「……は、え?」
がさらっと出した答えに目をぱちくりさせる。
全然意味がわかんねー。つまり。どういうことだってばよ。
「え、オレはギュってしちゃダメなんだよな? でもはすんの?」
「だってナルトに全然触れられないのは嫌だし」
恥ずかしそうに言うに胸がドクンと反応する。それと同時にわかったのは嫌われたわけじゃねぇってこと。安心感に胸を下ろす。
なんだ、スッゲー不安になっちまったじゃねーか。よかった。よかっ……いや、よくねーし! なんの解決にもなってねーってばよ。あぶねー。のかわいさに危うくうまくまとめられちまうとこだった。
「ま、待った! オレはダメなのにはオッケイってそれってなんかずっこくねーか?」
「そうかな?」
「そうだってばよ! だいたいなんで、んなこと……。そうだ、いきなしなんでんなこと言い出したんだってばよ!」
「やっぱり理由言わないとダメ?」
眉を下げるに強く頷く。
オレが抱きついちゃいけない理由がなんなのか。それがわかればオレだって納得……は無理かもしれねぇが抱きついても大丈夫な別の提案を思いつくかもしれねぇし。やっぱりなんでダメなのかちゃんと理由が知りたいってばよ。
「だって今季節は冬ではないですか」
が溜息まじりにこぼした言葉にん? と眉を寄せる。
確かに今の季節は冬だ。外に出れば冷たい風が容赦なく攻撃してくる。といってもオレは鍛えてるからほど寒く感じねぇんだけど。
それがなんだってんだ? 寒いからこそギュって抱きしめたくなるもんじゃんか。もちろん限定で。まあ、オレは季節関係なく夏でもをギュって抱きしめたいけど。
は冬だからオレとギュってしたくねーってことなのか?」
「違う! ギュってしたいよ。でもナルトからはダメ。私がするからナルトはジッとしててほしい」
いやいやいやいや、んなのムリだってばよ!
がオレの胸に飛び込んできたらそりゃもう腕に力込めてぎゅうぎゅうするに決まってんじゃねーか。ジッとしててって。なんだってばよ、その蛇の生タマゴ……じゃねかったナマゴロシみてぇなのは!!
「意味がわかんねぇ……がオレに抱きついてきてもオレはを抱きしめちゃダメって」
なんでだ? オレを抱きしめるときなんか変なことでもしたのか。
思い出すのはの体の柔らかさと、甘い香り。その香りに誘われるように首筋に顔を埋めてキスしたり舐めたり吸ったり柔らかな耳たぶを甘噛みしたり。はダメと小さく言いながらも強く拒否したりしないし、むしろ甘い声を漏らしたりするもんだからオレもつい調子に乗って太もも撫でたり胸を包んだり……あれ? もしかしてこれか。これが原因か。
オレってば変なこと、してた。めっちゃしてた。だってそれ一回とかじゃねぇし。
「いや、でもあれはがすげー柔らかくて気持ちいいしでつい手があっちこっち動いた結果っつーか。ってば面白いくらい反応すっからこればっかはオレだって忍耐できねぇっつーか」
ブツブツ言い訳を述べるがオレの独り言なのではうまく聞き取れなかったらしく不思議そうな顔をしている。
「いや、えっと……なんだ? を抱きしめるときは気をつけっからさ!」
何かをごまかすように口走るがそれがちゃんと守れるかは自信がねー。好きな女抱きしめてそれ以上を望まないなんてないだろうフツーさ!
「気をつけるって……でもナルト絶対触ってくる、でしょう?」
「え、あーそれは、うーん」
「ほらっ! ナルトはなんとも思わずにただ触ってるだけかもしれないけど、けっこう傷つくんだから」
「えっ!? そ、そんなに?」
まさか太ともや胸を触っちまったことで知らず知らずを傷つけていたなんて思いもしなかった。だって嫌な顔してなかったし、むしろより一層甘い息をこぼして潤んだ瞳でオレを誘ってくるから考えもしなかった。
「ごめん! オレってばガマンする!! ムラムラしちまってもできるだけ触んねーようにするってばよ。触りてーけど、それでが傷つくなんてイヤだし」
「む、ムラムラって何言ってんの!」
急に顔を真っ赤に染めたに「いや、だって」と言葉を続ける。
を抱きしめたらやっぱもっとって思っちまって……」
腕の中にいとも簡単にすっぽり入っちまう小さな体。オレとは違って柔らかくてスベスベで気持ちよくってもっと触っていたいって思っちまう。の甘い声についガマン出来ずに太ももとか胸触ったりしたけど、がそれが嫌で傷つくっていうならなるべくガマンする!
「本当ゴメン! やっぱ胸のほうが更にいい反応すっから今まで調子に乗ってた」
頭を下げたオレにが驚いた声をだす。
「な、む、胸って何言ってるの!」
「え、抱きしめたときオレが調子に乗って太ももとか胸触るからイヤなんだろう?」
赤い顔のままは「違うよ!」と叫んだ。
えええっー。じゃあ、一体なにが理由なんだってばよ。
「いくらなんでもむ、胸とか太もも触られてイヤだったら拒否するよ」
それだと丸で誰が触っても嫌がらないみたいじゃない、と怒るに「え、ダメだ! そんなの絶対!」と叫べば「触らせるわけないでしょう!」と怒鳴られた。
「ナ、ナルトだから触って、いいんだから」

赤い頬を隠すように俯くを今すぐ抱きしめたい。けど、抱きつこうとしたらそれに気づいたにサッと逃げられた。悲しい。
「じゃ、じゃあ一体なにがダメなんだってばよ」
胸が理由じゃなかったらなんなんだ。もう思いつくことねぇぞオレ。
「そ、れは……」
言葉を詰まらせてそれでも小さくは答えを口にした。
「……とったの」
「え?」
「だから太ったの!」
今度は泣きそうな表情で叫んだ。
「寒くて代謝がよくない今の時期だけどイベントは盛りだくさんだし」
クリスマスから始まって大晦日と正月。祝い事だからとケーキと肉を食べ過ぎたらしい。そういやオレと一緒に色々食ったな。肉とケーキだけじゃなくて年越しそばだろ、それから餅。オレが好きな汁粉もが作ってくれたし。
けど、そんな気にするほど太ったか?
「太った。ヤバイぐらい」
が言うヤバイがどれほどなのかよくわかんねぇけど、そんなのすぐ戻るって! そう言えばジロリとが睨んでくる。
「すぐ戻るわけないじゃん! ナルトはいいよ忍者だもん。食べても任務でその倍動くでしょう? 一般人な私はたいして運動もしないから全部ぜい肉にかわっちゃうの!」
すぐ戻るなら苦労しないんだからと泣き出すにどうしようと冷や汗をかく。
「で、でもは別に太っててもかわいいし。問題ないっつーか」
「問題あるよ! 大アリだよ!!」
焦ってフォローしようとして失敗した。ボロボロ泣くにもうどうしていいかわかんねぇ。
「か、可愛い服着てもお肉のせいで似合わないし。ていうか太って顔とか、いやもう全体的に丸くなっててちっとも可愛くないし!」
そんなことねぇとオレは思うんだけど。丸くってもなんでもはいつだってかわいく見えるし。それにちょっとくらい肉があるほうが抱きしめるとき気持ちいいし。
「ナルトだってイヤでしょう?」
赤くなった目で見つめられてドキッとする。泣いたって色っぽくてかわいいんだよな。どうせならオレがベッドで泣かせてやりてぇんだけど。
「抱きしめるとき私のお肉つまんだりするじゃない」
「えっ」
そ、そうだったけ? つまんだ記憶がねぇ。柔らかくて気持ちいいくらいしか思ってなかった。
「ナルトもこの脂肪なんとかなんないのかって絶対思ってるって」
それで、つまんでるんだって思ったら悲しくて、とまたボロボロ涙をこぼし始めるに無意識にでもそんなことをしてた自分を恨んでしまう。
「ナルトにき、嫌われたらどうしようって……だからちゃんと痩せるまで抱きしめてもらうのは我慢しようって」
決めたの、と言ったに胸が締め付けられる。
体を小さく震えさせてるにオレは静かに声をだす。
「抱きしめていいか?」
こっちを見つめたに慌てて「つままねぇから」と付け足す。その言葉にゆっくりそれでも頷いたをやっと腕に閉じ込めた。

ようやっと触れた彼女の体。
触れたところからじんわり熱が伝わってくる。やっとを抱きしめることができて幸せな気持ちがジーンと溢れてくる。だからこんな気持ちにさせるんだよな。苦しいのにちゃんとオレを安心させてくれる。こんなんだけだ。帰ってきてから我慢してたぶんぎゅうぎゅうっと力を込めて抱きしめる。すると、が苦しいと腕の中であばれるから仕方ねーなと素直に腕を緩めれば顔を上げた彼女とバッチリ目が合った。まだ少し赤くなっている目が痛々しくて可愛くて思わず目尻にチュッと唇を当てる。そのまんまいろんなところにキスしたい気持ちを抑えてもう一度ギュッと抱きしめた。
、オレってばさがうまそうに飯食ってるとこ見るのすげー好きなんだ」
抱きしめてるからの顔は見えないがちゃんと聞こえてるんだとわかる。その証拠にオレの背中に腕を回してギュッと抱きついてきた。
「一緒に食ったケーキだって肉だって年明けてからの餅だってと一緒に食ったからうまかったし。がうまそうに食べてるからオレってばすげー幸せだなって思った。……オレってばずっと一人でメシが当たり前だったからさ」
一人でだと祝い事を祝うのも面倒で昔はクリスマスでもカップラーメン食ってたしな。
「だからさ、とメシ食えて嬉しんだ。イルカ先生とか同期の奴らとたまに食ったりすっけど、と一緒に食うメシは特別にうまく感じるんだよな」
閉じ込めてる体が小さく震える。
「だからさ、それでが太ってもなんでもオレがのこと嫌いになるなんてぜってーねぇから」
どんな彼女だって大好きなんだ。が考えてる以上にオレはが好きで好きでたまんねぇ。つか、機会があれば抱きついたりキスしたりいちゃつこうとするオレを見てなんで嫌われるかもなんて思うのか不思議でたまらない。
が痩せたいって言うならオレは応援すっけど、でも――」
そこで腕を緩めれば涙で濡れた瞳とかち合う。は黙って言葉の続きを待っている。
「でも、やっぱ抱きつくのナシはナシだなっ!」
笑顔で言えばもオレが言ったことを理解して小さく笑みを浮かべる。

「そういや、ダイエットするっつーならいい運動があるってばよ」
の涙が落ち着いたころオレがもらした声にが「なになに? 忍びじゃなくてもできる?」と興味津々に聞いてきた。
「もちろん、忍者とか関係なくできるってばよ。それにこれならオレも手伝えるしな!」
一体どんなダイエットなの、とオレを見つめるをヒョイっと抱える。その行動には驚いて体をばたつかせるが「落ちるぞ」と言えば大人しくオレにしがみついた。
「やっぱダイエットで大事なのは続けることだと思うんだ」
「そ、そうだね」
「辛くてやめちまったら意味ねぇしな」
うんうん頷くは「ナルトがまともなこと言ってる」と少し驚いていてなんかちょっと失礼だ。それを無視してベッドにを寝かせるとオレは今まで一番じゃないかってくらいの笑顔を浮かべた。
「だから二人で気持ちよく続けられるダイエットしような!」
そう言ってもすぐに理解できてないは目をパチパチさせながらオレを見つめる。がオレの言ってるダイエット内容に気づいたのは体中を唇でなぞりやわらかな胸を手の中に収めたときだった。
「こ、これダイエットじゃない、よ」
「汗いっぱいかくんだからダイエットと変わんねぇって」
「そ、んな」
「それに、オレだから触っていいんだよな?」
さっきが言っていたことをニヤリと返せば顔を赤くして睨んでくる。んな顔してもかわいいだけだってばよ。
待って、と言うを無視してオレは彼氏として充分彼女に尽くした。が「も、無理」と涙をこぼしても触れ続けるオレに堪えきれず気を失うまで。


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