痕跡
お前も今から任務かよとキバに声をかけられたのは昼メシを終えて集合場所へ行く途中。頷く代わりにキバにお前かもかと返す。キバはそんなオレを見たあと何かを探すように顔を動かした。 「なにキョロキョロしてんだってばよ。すっげーあやしいぞ」 オレがそう言えば、キバは目を鋭くさせて、お前に言われたかねーよ! なんて言い返してきやがった。オレはあやしくなんかねーだろうが。 「つーか、お前と一緒じゃねーのか」 「あ、ならさっきまで一緒だったけど」 昨日、の家に泊まって、さっきまでと一緒にメシ食ったしな。つーか、それがどうしたんだよと軽く睨んでみる。 「んだよ、だからか」 「なにがだってばよ?」 「の匂いがしたのに、いたのお前だけだから不思議に思っただけだよ」 ああ、なるほど。だから、がいると思ってキョロキョロしてたのか。の家にいたときは、ずっとくっついていたからな。匂いうつっちまったか。くんくん、と自分の腕の服を嗅いでみる。確かにいつもしない香りが自分の服からする。さっきの家にいたときは気づかなかったのにな。けど、の匂いがするってことは任務中でもの甘い香りと一緒ってことか。なんか嬉しいな。だらしなくなっているであろうオレの顔を見ながらキバが呆れたようなバカにしたような表情をした。 「なに変な顔してんだよ。キモいぞ」 「キモ……うっせーってばよ」 人が幸せな気持ちになってるときにキモイはねーだろ、キモイは。 「しっかし、アレだな。お前ら匂いうつるほど一緒にいんのか。まるでマーキングだな」 「まーきんぐ? ってなんだってばよ」 「犬とかよくしてんだろ? 赤丸も朝の散歩のときによくやっててよ。火の森付近はだいたいが縄張りだぜ」 「って、それってばただションベン引っ掛けてるだけじゃねーか! オレらはんなことしてねーっつの!!」 「誰もションベン限定なんて言ってねーよ。例えだよ。犬はだいたいションベンで匂い付けすっけど、猫とかはこう体すり寄せて自分の匂いつけたりもすっじゃねーか。アレも匂い付けの一種だろ」 グチグチとキバがなんか言ってけど、つまりどういうことなんだ? と首を傾げる。匂いつけたからってなんになるんだよ。 「だから匂いで主張してんだよ。これは自分のものだって」 「匂いって……なんかあやふやっっつーか。目に見えるわけじゃねーから、そんなんで主張されてもピンとこねーなぁ」 オレがそう言えば、キバはニヤっと笑った。 「何言ってんだよ。お前今、主張されてんじゃねーか。によ。」 そこでやっとキバの言いたいことに気づいた。そうか、匂いでマーキングってそういうことか。オレってば今に自分のだって主張されてんのか。理解するとジワジワ嬉しさがにじみ出てくる。 「へへっ、なんかいいな! つーことはアレか。にもオレの匂いがうつってるってことだよな!!」 「かもな。嗅いでねーからわかんねけどよ。男よけにもなんだろ。口説こうとしてもナルトの匂いがからしたら、んな気なくなるしな」 ちょ、ちょっと待て。なんだ口説くって。お前、口説いたのかよ。どういうことだよ! かなり真剣に問えば、キバが「だからただの例えだ」なんて言い放った。なんつー紛らわしい例えを言うんだ。これは帰ったら、すぐさまにオレの匂いをつけまくらねーと! そう決意するオレの横でキバが意地悪く笑った。 「でもまぁ、匂い付なんてオレみたいに鼻がきかねーとあんまし意味ねーけどな」 「……それって」 「だいたいマークングは動物の行為で、人間がするもんじゃねーしな。匂いつけたってオレ以外だとわかるのお前の担当上忍ぐらいじゃねーの? 他の奴にも気づかれたいなら香水みたいなキツイのつけるしかねーよ」 意味ねー意味ねーと、あれだけオレを持ち上げといてそう笑うキバに怒りがわいてくる。つまり、どんなに匂いつけようがキバとカカシ先生くらいしか気づかねーってことか。香水なんて忍びがつけれるかっつーの! 「オイ!」 なんだってばよそれ! 大きく声をあげればキバがガサツに笑う。 「まぁ、いいじゃねーか。匂い付けなんてしなくってもお前とを知ってる奴なら手を出そうなんて思わねーって」 なんだかごまかされてる気もするが、確かにオレらをよく知ってる同期がなんかするとは思えねー。 「つーか、今日の任務なんだろうな」 「あのさ、キバ」 「なんだよ?」 「さっきから気になってんだけどよ。お前ってば、の匂い覚えてんのか?」 の匂いがするって言われたときから気になっていた。キバが鼻がいいのは知ってけどの匂い当てられてなんか腹立つってばよ。 「覚えてるっつーか、知ってるっていう方が正しいだろ。嗅いだらわかるぐらいな。つか、それ言ったらオレお前の匂いだって同期の奴らの匂いだって知ってんぞ」 サクラやいの。ヒナタは同じチームだし完璧にな、とキバが言う。 「他のやつは別にいいんだよ。オレ以外の奴が、しかも男がの匂い知ってんのがイヤなんだって」 「んなこと言われてもよ」 キバが呆れ顔でオレを見る。ムチャなこと言ってんのはわかってっけどイヤなもんはイヤだ。 「やっぱさ、の匂いは、オレだけが知ってればいいって思うんだよなぁ。ほら、オレってばの彼氏だし?」 特に彼氏の部分を強調して言ってみる。キバが「そうだけどよ」と若干呆れたような困ってるような感じでオレを見てくる。 「けどよ、の匂いがわかんなくなるとになんかあった時どーすんだよ?」 「それは問題ねーよ」 キバの質問にオレは堂々と胸を張る。 「になんかあったら、なんとしてでもぜってぇオレが助けっからなっ!!」 「……お前なら本当にしそうでこえーよ」 キバが苦笑いをする横でオレはニッシシと大きく笑った。 「つーわけで、すぐ忘れろ。今すぐ忘れろ」 「ムチャ言うなよっ、オイ!」 |