Aroma
少し薄暗くなってきた部屋に二人の影。 片方の影は紛れもなく自分自身でもう片方はというと、オレに擦り寄ってくんくんと匂いを嗅いでいるだったりする。この場面だけ見ると明らかに怪しい。と付き合ってるとか好き合ってるとかそんな甘い関係ではないし、アカデミー時代だって会話らしい会話をした覚えがない。そんなと今どうしてこうなっているのかというと――実のところ自分でもよくわかってなかったりする。 ただ、突然に本当になんの前触れも無くが言い出したんだ。 「匂いを嗅がせてほしいの」 *** 久しぶりの合同任務。そこにの班も来ていた。任務はさほど難しいものではなく開始から数時間で無事に終了した。まあ、オレがまた自分勝手な行動をしてサクラちゃんに嫌ってほど怒鳴られたのは置いといて。みんながお疲れーと言いながら散らばる中、ふとと目が合った。目が合ったのに何も喋んないのもどうかと思い笑って「お疲れさん!」と声をかける。それに応えてもお疲れさまと笑顔を見せてくれた。 しかし、その笑顔もすぐに消えがなにか言いたそうにこっちに近寄ってきた。どうしたんだろう、と不思議に思いながら見ていると、オレの近くに着いた瞬間いきなり足元を崩した。危ない、と咄嗟に手を伸ばして自分の方へと引き寄せる。抱きしめてしまうかたちになってしまったが、これはしょうがないだろう。しょうがないことだけど、つい身構えてしまうのはこうなった後オレはなんでか殴られるとういう理不尽な経験を何度も体験しているからだ。しかし、予想に反してビンタもなければパンチも降ってこない。おや? と不思議に思いを見ると身動きせずずっとオレの胸の中にいた。 この反応をする女子は初めてだな、と思いながらゆっくりを離す。途端、ふわりと甘い香りがしてなんでかオレの胸をざわつかせた。 俯いたままの彼女の表情は見えない。少し気まずい空気を壊そうと「ってば、けっこうドジだなー」と笑って言おうとした。しかし、それは途中で止まった。がバッと顔を上げたと思ったらとんでもないことを言い出したからだ。 「は?」 最初何を言われたのかわからなくて、混乱したまま聞き返す。 「ナルトくんの匂いが好きなのっ。アカデミーの頃からずっと気になってて……だから」 息継ぎを忘れたかのように早口で喋るはオレが理解するまで待つ気はないらしい。興奮気味にどんどん言葉を吐いていく。 「だからナルトくんの匂いを嗅がせてほしいのっ!」 「ちょ、ちょっと」 理解はまったくできていないが、最後のセリフに反応してとっさにの口を塞ぐ。さっきまで任務で、解散とは言われたが、そこらにチラホラ仲間がいたりする。騒がしかったのかさっきのの声が聞こえたからなのかこっちをチラチラ見つめる視線を感じてカーっと顔が熱くなっていく。 「こ、こっち」 の口から手を離す代わりに今度は腕を掴んで人気がないとこに引っ張っていく。特に抵抗もなく大人しく付いてくるは心ここにあらずなのか、どこかぼーっとしていた。 人気のないとこと言っても、咄嗟のことに動揺して思いつかなかったオレは結局一番自分が安心できる場所。自分のアパートに来ていた。まあ、ここなら急な任務が入らない限り誰も来ねぇだろうし、何よりバッタリ誰かに遭遇するということが避けられる。 ゆっくり息を吐いて家の鍵を開け、キレイとは言えない自室にをあげた。 状況が飲み込めていないのか、はぼーっとしながらうろうろと視線を漂わせている。どう、話を切り出せばいいものかとを見つめれば漂っていた視線と衝突した 。瞬間ドクンと心臓が跳ねる。 「あー、えっと……さっきのは冗談?」 もしかしたらオレをからかってるのかもしれない。が冗談を言うイメージがなかったからつい焦っちまって自分の家にまで連れてきちまったけど。もしそうならカッコわりぃ。 「ご、ごめんなさいっ」 それまでぼーっとしていた彼女がハッと覚醒して頭を下げる。 ああ、やっぱり冗談を言ってただけなのか、と間に受けてしまった自分が一気に恥ずかしくなった。 「い、いきなり抱きしめられたから混乱して」 「いや、別にいいってばよ」 そうか、混乱。混乱してたのか。それでもあんな冗談は言わないほうがいいと思うけどなと思いながら乾いた声で笑う。なんかちょっと、ほんのちょっとだけど悲しいような寂しいような変な気持ちに襲われて苦笑いしか作れない。そんなオレに気づかずは続けて口を開いた。 「混乱して順番間違えましたっ」 ……ん? 「最初は違う話で盛り上がって仲良くなるとこから始める予定だったのに」 なんであそこで躓いちゃったの私のバカーとは今にも崩れ落ちそうなくらいに落ち込んでいる。 「えっと――言ってる意味がオレちょっとわかんなくて」 つまりどういうことだってばよ。そんなは泣きそうな顔でオレを見た。 「さ、最初は一楽の話で盛り上がって仲良くなれたらいいなって」 仲良く、仲良くってことはあれか。 「あー、つまりオレと友達になりたいってことか」 んなこと直接言われたことねぇからなんか照れんなぁと頬をかけばはそうじゃなくて! とすぐさま否定した。そんな強く否定されると傷つくんだけど。 「と、友達というかその……もっと親密というか。……に、匂いをかげる間柄になりたいんですっ!」 が言っていることがさっぱりだ。 「に、匂いって」 そういえば、匂いがどうとかさっき言ってたかもしれない。 「アカデミーの頃、たまに席が隣になったときとか。すれ違ったときとかに香ってくるナルトくんの匂いがなんとなく気になって」 ポツリとこぼずの言葉に目が点になる。 あの頃、全然喋ったことがないと思っていたけど、席が隣になったことがあったとは……やべぇ記憶にねぇ。 「気になったらもっと嗅いでいたいなって思うようになって。でもどうすればいいのか全然わからなくて、そうこうしているうちにアカデミー卒業してなかなか会えなくなっちゃったし。それでも同じ里にいるんだし、いつか機会がくるかなって思ってたらナルトくん修業で里を離れたりして」 どんどん落ち込むの声にオレはどう返事をすればいいのかわかんなくて焦る。 「ひ、久しぶりに会えた今日が最後のチャンスだと思ったの」 俯いていた顔をあげたと目があって、瞬間心臓がドクン、と大きく鳴った。まっすぐオレを見つめるは今までオレが知ってた彼女とどこか違う気がする。それはただ単にオレが彼女のことを深く知っていなかったからかもしれない。けど、まるで今初めてという子に会ったみたいな、そんな感覚に襲われた。その途端、オレのを見る目が大きく変わった。 不安そうにオレを見る瞳は少し潤んでいて妙に色っぽく感じる。少し開いた唇は少し赤くて無性に触ってみたくなった。さっき触れた体の柔らかさを思い出して自然と顔が熱くなる。 固まったまま何も言わず黙っているオレを見て、は何を思ったのか顔をいきなりクシャっと歪めた。「引いた? やっぱり引いた?」と涙が今にも溢れそうな状態になっていて慌てて両手を大げさに振った。 「いや、そうじゃなくて……その、びっくりして!」 「本当はもっとお互いの距離が縮まってそれからさり気なく匂いが嗅げたらなって。匂いを嗅がせてなんてはっきり言うつもりなかったのに」 ついにポロポロ涙をこぼし始めたを見てピシリと固まってしまう。ど、どうしたらいいんだ。どうやったら泣き止んでくれるんだ。たいして良くもない頭をこれでもかってくらい回転させて思いついたことを深く考えもせずにオレはそのまま口に出した。 「に、匂いなら嗅がせてやっから!」 その途端、の涙がピタリとやんだ。 涙のせいで少し赤くなっている瞳がオレをジッと見つめる。変にドキドキしながらもう一度口を開く。 「匂いなら嗅げばいいから。だから泣くなってばよ」 「い、いいの?」 弱々しく確認をとるにはっきり頷いた。 「いいってばよ、それくらい」 お前に泣かれるよりは、そう思ったけど口にはなぜかできなかった。 オレは別に女の涙に弱いってわけじゃねぇんだけど。がさっき泣き始めたときはなんでかすっげー焦ってしまった。なんでなのか自分でもよくわかんなくてモヤモヤしていると、が小さく「失礼します」と顔を近づけてきた。その拍子にサラリと流れた髪に目がいく。 匂いを嗅いでいいと頷いたところでオレとは奥の部屋のベッドを椅子代わりに座っていた。時間ははっきりとはわからないが部屋は少し暗かった。やけに静かで、そのせいなのか自分の心臓の音だけはやたらうるさく聞こえた。オレにどんどん近づいてくるの気配に心臓は早く大きく動いているのが嫌でもわかる。自分でもどうすればいいのかわかんなくてただ、にこの心臓の音が聞こえませんようにと祈るばかりだ。 オレの首筋に顔を近づけてスンスンと小さく呼吸をするを感じて、緊張と恥ずかしさから、まるでここに来たばかりのみたいに視線をウヨウヨと漂わせていた。 その時トンッと柔らかな体が寄りかかってきた。それに勝手に体が反応して熱がバーっと上がっていくのがわかる。 びっくりして顔を向けるとが頬を小さく染めて「ごめんね」と呟いた。 「い、いや大丈夫か?」 「うん。ちょっとこの体勢が思ってたよりキツくて」 お互い隣同士に座っているからなのか匂いを嗅ぐとなれば少しキツイのかもしれない。 「あー、つかまっていいってばよ」 「えっ」 小さく驚いた彼女を見て慌てて「がよかったら」と付け加えた。「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて」 ギュッとオレの腕を掴む体温がひどく落ち着かない。けど、このままでいてほしいと思った。スンスンとまた嗅ぎ始めたにチラリと視線を向ける。 匂いを嗅ぐのに夢中な彼女の顔は見えないから、どんな表情をしているのかはサッパリだが一生懸命嗅いでる姿がなんだかかわいいと思う。どうしても触れている体の感触に自分とは違う甘い匂い。なんだか全てがたまらなくて不意にその体を抱きしめたい衝動にかられた。無意識にその細い腰に手を添えると、それに気づいたの驚いた視線とぶつかる。未だ赤いままの頬を逆の手で撫でる。予想よりも柔らかな頬はどんどん赤く染まっていく。 「な、ナルトくん、あの」 なぜ触れられてるのかわからないは目線をうろうろさせてからまたオレを見つめてきた。恥ずかしさからか少し潤んでいる瞳も濃く染まっている頬も全部がめちゃくちゃかわいく見えるのはなんでだろう。柔らかな感触をもっと知りたくて腰を引き寄せ顔を近づける。 「え、あの」 どんどん密着していくお互いの体温にふわりと香る甘い匂い。はオレの匂いが好きだと言っていたけど、オレはの匂いのが好きだな。甘くて優しい香りはひどく心地いい。そう思うとが匂いを嗅ぎたいなんて言ったのもわかる気がする。さすがにオレからはこんな甘い匂いはしないと思うが。 柔らかな体を抱きしめて頬に唇を重ねればの体がピクンと跳ねた。一度してしまえば簡単にたかが外れた。引き寄せた手に自然と力が入る。頬、耳、首筋とが戸惑って何も言わないのをいいことに何度も唇でなぞる。その度にくすぐったいのかピクピクと体を反応させて息を吐く彼女をめちゃくちゃにしたい気持ちになった。 「あっ」 の頬に触れていた手が今は彼女の太ももを撫でていた。それを止めるように彼女の柔らかな手が被さる。 「そ、のあまり撫でられるとへ、変な気持ちに」 なっちゃう、と掠れた声で呟くにゾクリと体の奥が震えた。 喉をゴクリと鳴らして彼女の耳元で囁く。 「変な、気持ちになっていい」 ならいい。とならもっとこうしていたい。他の女の子と関わってもこんなことをしたのはが初めてだし、したいと思ったのも初めてだ。この気持ちがなんなのか。オレでもやっとわかった気がした。はきっと特別なんだ。今まで会ったどの子よりも。だけがオレの特別なんだ。なんで今まで気づかなかったんだろう。 もうすっかり暗くなった部屋。窓から入るかすかな光のおかげで真っ暗闇ではないが、の表情はわかりにくい。それでもの動揺は雰囲気でわかったし未だオレの手の動きを阻止している彼女の手は熱く震えていた。――と、ふいにその手がギュッとオレの手を握ってきた。ゆっくり指を絡ませて握り締めるお互いの手はどっちも熱い。彼女にならって自分も手に力を少し込める。 それを合図にオレはまた彼女の首筋に顔を埋めた。唇でなぞり間に吸ってみたり。その度に小さく揺れる体に自分のが熱くなっていくのがわかる。 小さな体はオレが少し体重をかければ簡単に後ろへと倒れた。腰を支えていた手でするりと太ももを撫でながら首筋から胸元にかけて口付けていく。 「な、るとく、ん」 甘い声でオレの名前を呼びオレの手と服をギュッと握るに言葉にならない気持ちが一気に溢れた。さっきよりも濃くなった甘い香りとうまく呼吸ができないせいで頭がクラクラする。思考がうまく働かずとも本能のままに少し前から触れたかった唇に自分のを重ねた。柔らかさが自分のを通して伝わってくる。もっと感じてみたくて自然と唇が動く。それに合わせるようにの唇も動いて、隙間から漏れる吐息にゾクリとした感覚が体を走る。もっと、もっとほしい。その欲望を無理やり押し殺して唇を離す。ゆっくり体を起こせばが不思議そうにオレを呼んだ。 「ごめん、その……こういうのって好きなヤツとするもんだよなって思って」 ちゃんと自分の気持ちを伝えていないのに深く触れるときっと後悔する。ここまでしておいてなんだけど。軽い気持ちやノリでこういうことをしているとには思ってほしくなかったし、にもそんな気持ちでしてほしくなかった。匂いだけじゃなくてちゃんとオレのことも好きになってほしい。 そう考えて口にしようとしたとき、小さく声を押し殺したような音が聞こえた。顔がうまく見えなくてはっきりとはわからないが、これは――。 「?」 「ひ、どい。だってさっき変になってもいいって、言ってくれたのに」 ひっくと小さく声をもらして泣き始めたに気づいて心臓が嫌な音を立て始める。 「……いや」 そうじゃなくて、と否定しようとするが先に彼女が口を開いた。 「期待させといてやっぱり好きな子がいるからもうできないなんて」 ひどいよ、と最初は殺していた声も隠さず大きく泣き始めた。握っていた手が離れオレをバシバシ叩いてくる。力はたいして強くないが、の涙にダメージを受けていたオレはひどく混乱した。 「ちがっ、オレはが」 「バカ。ナルトくんのバカ。キライ」 ガーン。の言葉が強くオレの胸に刺さった。そんなオレに気づかずは泣きながらバカとわめいている。に嫌われてしまった。そのことがズキズキと胸を痛める。それでもオレは彼女に言わなくてはいけない言葉がある。 「……オレはが好きだ」 オレの突然の告白にの泣き声がやんだ。 「う、うそ! だってさっき好きな子がいるって……」 「好きなヤツとすることだって言ったんだってばよ。……はオレの匂いが好きなんであってオレのことが好きなわけじゃねぇだろ」 そう言えばは急に静かになった。 「だから、その……ここまでしといて今更だけど、には好きなヤツとしたほうがいい、と思う。けど……」 「……け、ど?」 「けど、やっぱし他のヤツとはしてほしくない、とかも思う」 暗い部屋がありがたかった。きっと今のオレの顔は見せられないくらいに赤くなってる。 「あ、のね」 ポツリとが口を開く。 「私、ナルトくんの匂い好き」 それは知ってるけど。 「なんというかすごく落ち着くし、できればずっと嗅いでいたいくらい好きなの」 「あー……それはサンキュー?」 ここでお礼を言ってもいいのかわからなくて最後が疑問形になってしまった。 「けど、それはナルトくんが好きだからっていう前提があってね」 のそのセリフに驚きすぎて言葉を失う。 「初めはなんかいい匂いする人だなって……きっかけは匂いだったけど。そこからナルトくんが気になって……」 叩くのを止めていた手がぎゅっとオレの服を握る。 「だから匂いだけじゃなくてちゃんとナルトくんが好き」 ナルトくんが好きになったら匂いはもっと好きなったけど。 そう言い終えた次には、ハッと慌て始めた。 「さっきのキライは違うの。ナルトくんに他に好きな子がいるんだって思ったら悲しくって……つい出ちゃったの」 ごめんなさい、と落ち込んだの声。どうしよう。嬉しすぎて言葉がでない。唇が震える。 「だから、ナルトくんに今こうやって触れることができて本当に嬉しくて幸せで……あれ? 私なにを言ってるんだろう。ちゃんと伝わってる?」 大丈夫、伝わってる。 そう言いたいのにいろんな気持ちが詰まって言葉がでてこない。なんか今のオレ泣きそうだ。自分の気持ちをうまく伝えられない言葉なんて無意味だ。それでもオレはどうしても溢れてしまう気持ちを伝えたくて何も言えないかわりに震える唇を彼女のに重ねた。 *** 「ナルト、あんた今日これから暇でしょう? 付き合ってあげるから何か奢りなさいよ」 サクラちゃんに「あー」と歯切れの悪い言葉を返す。 「なによ、あんた用事でもあるの?」 「……ちょっとな」 そう言って目線を逸らす。 オレの目線に釣られてサクラちゃんもそちらに視線を向ける。 「あら、じゃない。どうしたの?」 こちらにゆっくり歩いてきたにサクラちゃんが不思議そうな顔をした。 「えっと、ナルトくんと約束してて」 の言葉にサクラちゃんが「ええっ」と大きな声をだした。 「え、ちょっと待って。もしかしてあんた達って……そうなの?」 いきなり声を高くしたサクラちゃんから思わず目を逸らす。 「なによ、ナルト。こういうことに興味がないフリしてやることやってるんじゃない」 オレにだけ聞こえるように声を落としたサクラちゃんはどこか楽しそうだ。こういう時どう言えばいいのかわからず変に照れてしまう。 「そっか最近妙にそわそわしてたのはのせいかぁ」 意味ありげな目線にオレは黙って顔を赤くさせるしかできなかった。 「……わりぃんだけど今日はちょっと」 「いいわよ、別に。後でちゃっと話してくれるならね!」 「サクラちゃん」 顔が思いっきりニヤついてるってばよ。これは後でぜってー色々聞かれんな。 「さっき、サクラちゃんなんて言ってたの?」 「えっ!」 あの場にいたらサクラちゃんだけでなく他の仲間も気づいて色々言われそうで、を連れて慌ててオレの家までやってきた。部屋について一息入れてるとが少し不安そうに瞳を揺らして訊ねてくる。 「いや、別にたいしたことじゃねぇって」 笑ってそう言うがの表情は変わらない。 いや、でも本当にたいしたことじゃねぇんだけどな。なんでそんな不安そうな顔をしてるんだ? 「ナルトくんって前からサクラちゃんと仲いいよね!」 「へ? あーそうかな?」 の突拍子もない言葉にんーと昔を振り返る。……どっちかっていうとオレはウザがられてたと思うけど。今もなんかあると拳が飛んでくるし。これって仲いいってことなのか? 「えっと、サクラちゃんは……」 「あのさ」 悪いとは思うがの言葉を遮る。 「なんかよくわかんねぇけど、今はサクラちゃんの話じゃなくてと話したいんだけど」 気まずそうに口ごもるの手をギュッと握る。 「今日は……いいのか?」 不思議そうに見つめてくるはまだどこか不安げだ。 「匂い、かがなくて」 ちょっと恥ずかしくて目線をから外すが、それは少しの間だけだった。すぐにがギュッとオレの手を握り返してくれたから。 「かぐ」 小さく呟いてオレの胸に顔を埋める。力いっぱい抱きしめたい気持ちを押さえてできるだけ優しく抱きしめた。 くんくんとオレの服に鼻を擦りつけて匂いをかぐの頭を撫でれば気持ちよさそうに目を細める。うるんだ瞳で見上げられると苦しいくらいに心臓が締め付けられた。たまらず、の唇に吸い付いた。音を漏らしながら何度も重ねると息苦しいのかが小さく吐息をこぼした。それが余計にオレを煽る。 「ご、ごめんね」 唇を離した途端、いきなり謝りだすになんのことだとハテナを浮かべる。 「サクラちゃんの話ばかりして」 「ああ」 それは別に謝る必要なんて全然ねぇんだけど。 「う、羨ましかったの」 恥ずかしそうにそう言うの顔が赤いのはさっきしたキスだけのせいだろうか。 「仲いいなってずっと思ってて。前に比べたら少しはナルトくんに近づけたかなって思ってたけど二人見てたら全然だなって」 なんとなくの言いたいことがわかって、口元がにやけてしまう。笑ってしまうのを堪えて彼女の名前を小さく呼ぶ。 「オレ、サクラちゃんとはとするようなことしねぇってばよ?」 匂いを嗅がせたりなんてしないし頭も撫でたりもしない。もちろんキスだってしたいと思うのはだからだ。 「オレはサクラちゃんよりのほうが一番近いとこにいると思ってるけど」 の頬を撫でればまた気持ちよさそうに目を細めた。 「次はオレの番」 そう呟くとの首筋に顔を埋める。はオレの匂いを嗅ぐのが好きだがオレはの柔らかな体に触れるのが好きだ。もちろんオレとは違う甘い匂いも好きだが。 白い肌に唇でなぞり片手で太ももをなぞれば、恥じらいながらもは小さく声をもらす。この反応もすげぇオレをそそる。もっと乱れたが見たくて聞きたくて何度も耳元で囁く。 「、愛してる」 こんなことを言うのもにだけだ。 |