ショートノベル | ナノ


私だけのカイロ


寒くて、擦り合わせていた両手にはぁっと息をかける。


「寒いよアレーン」

「僕も寒いですよ。と、いうか。夢さん・・・その厚着でまだ寒いと言いますか」

「うん」

厚着・・・なんて言ったって。厚手のインナーに厚手のパーカーに厚手のコートにマフラーに手袋に帽子に耳あてにホッカイロを装備してるだけじゃないか。
雪の降ってる、氷点下の地域に来てるんだから、これくらいでは寒くて当然じゃないか。と私は心の中で愚痴ってやる。


「寒い」

「僕には、とても暖かそうに見えますけどね」

「さーむーいー!」


真冬にこんな地域で任務なんてサイアクだ。
きっと、ホームにいる連中はぬっくぬっくしてるに違いない。


「帰ったら覚えとけよぉ・・・コムイの野郎・・・!」

「夢さん、口が悪いですよ。これくらい我慢してください」

「むり!」

「はぁ・・・」


我が儘を言ってるってことくらい自分で理解してる。
でも、寒いものは寒いのだから仕方がない。
冷え性に真冬の寒い地域へ行けなんて、自殺してこいって言ってるようなものなんだぞ。
アレンは溜め息を吐いたけど、溜め息を吐きたいのは私の方だ。


「アレン」

「今度はなんですか」

「私の事を抱きしめなさいよ」

「・・・はぁ?」

「寒いから、アレンの体温を私に頂戴って言ってるの」

「・・・僕から体温をって・・・。僕を殺す気ですか、貴女は」

「煩い。早くして。これは先輩エクソシストからの命令ね。ほら、早く!」

「まったく・・・。仕方のない人ですね、貴女は」


―――あ、また溜め息を吐いた。帰ったら、みたらし団子の串でベッドを串千本のサボテンにしといてやる。ざまぁみろ。
内心ニヤつきながらも両手を広げれば、アレンがそっと抱きしめてくれた。
私はそのままアレンの背中に腕を回してギュッと抱き着く。
―――ああ、温かい。やっぱり人のぬくもりが一番だね。


「温かいですか?」

「うん、すっごい温かい。アレンはー?」

「普通ですかね」

「えー、なんでなんで? アレンも温かいでしょー?」

「だから、普通ですってば」


素直じゃない奴め。とか小さく呟きながらアレンの胸に顔を埋める。
やっぱり、温かい。生きた人の持つ独特なこの温もり。これが一番落ち着く温かさだと、私は思う。
ぎゅうっと抱きしめて、私は顔を埋めたままアレンに声をかけた。


「ねえ、アレン」

「なんですか?」

「温かい」

「そうですか。それは良かったで、」

「私以外の人にこんなことしないでね」

「・・・え?」


頭上から、間の抜けた声が聞こえたが、気にせず続ける。


「アレンはずうっと私だけのカイロでいてよね」


アレンの体温が一番落ち着けて、安心するから。そう呟けば、少し間を置いてから、ぎゅうっとアレンも私を抱きしめて「はい」と返事をしてくれた。


「それくらい、いいですよ」


そして、一呼吸を置いて。


「その代り、夢さんも僕以外の人に、こういう事を求めないでくださいね」


僕だけが貴女をずっと温めてあげますから。なんて。
本当、無駄に紳士力を持った似非紳士の少年だこと。
でも、そんなアレンも嫌いじゃないから。
私は当たり前のようにこの言葉を贈るの。


「当然よ」

私だけのカイロ


*アトガキ*
最近くそさむいですな。
コートとマフラーの装備は外せませぬ。

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