わたしのぜんぶ 「鏡は素手で割ると半端なく痛ぇぞ」と言って、ただ偶然通りすがりの彼は、鏡を今まさに素手で割ろうとしている私を止めてくれた。 その時は私も頭に血が上ってたから、「知るか」と素っ気なく返して、彼の話に耳も傾けずに私は鏡を殴り割ったけれど。 殴り割ってから案の定、後悔した。 だって、本当に半端なく痛かったから。割れた破片が拳に突き刺さり血が溢れ、すると徐々に落ち着きを取り戻して言って、冷静になった時。それまでは感じなかった痛みがどっと押し寄せてきたんだ。 「あん時はマジで痛かった・・・。あれ、これ私死ぬんじゃね? とまで思った」 「だから言ったべ。『痛ぇ』って。なのにお前って奴は・・・」 「ハハハ・・・。すんません。あの時は、マジでお世話になりました、トムさん」 彼、トムさんは、私の言葉に、呆れた風に笑って「本当にな」と返してくれる。 あの時は痛かったし、バカな事したなぁと思う。でも、あれが切っ掛けで私はトムさんと知り合うことが出来たのだから、今となっては良い思い出の一つなのかもしれない。 「トムさーん」 「なんですかー、暇人ニートの夢さん」 「むっ・・・私は暇人でもなければニートでもねーし。つか、この私のどこに暇人要素があると言うのですか!? 無いじゃん! 私って完璧!!」 「ばっかじゃねーの。大体なぁ、ここはお前の家でもねぇんだから・・・」 トムさんが何かぐちぐちと言い始めたから、私はきゅっと口を閉じて聞かぬふり気にしないふり。 知ってるからね。こういうのって、気にしたらその時点で私の敗北が決まってしまうってことを。 「立派な社会人なら仕事の一つや二つ・・・」 聞こえない、聞こえない。あー、あー、あー。 でも、この人はこうやって私にぐちぐち言ったりするけど、結局は私を追い出したりせずに置いておいてくれる。 だからこそ、私みたいなのに懐かれるんだよ。なんて口が裂けても言ってやんないけど。 「トムさん、トムさん」 「あ? 今度はなんだよ」 「だーいすきっ!」 「は・・・?」 「世界で一番ずっとずっとずぅっとトムさんが大好きだよ!」 トムさんは、 私の世界を変えてくれた人。 私の事を救ってくれた人。 私を変えてくれた人。 私を支えてくれた人。 私の大好きな人。 私の、全てな人。 *アトガキ* 突然のトムさん夢。 全ての元凶はきっと英語のプリントだ。きっとそう。 【あの鏡を割ったのはトムさんですか?】 【いいえ、ちがいます。あの鏡を割ったのは私です。】 \(^o^)/ [しおり/戻る] |