ショートノベル | ナノ


口には出さず、現代風に


「足が痛いよ、臨也さん」

「見ればわかるよ、夢ちゃん。すごい傷だよねぇ」

「あ、今笑ったな。こんにゃろー、ノミ蟲め」

「追い出そうか、夢ちゃん?」

「やだやだぁ。ごめんなさい、臨也さん」


感情の籠らない謝罪の言葉。
クーラーの効いた部屋。臨也はパソコンに向かい、夢はお菓子を食べながら携帯片手にソファに寝そべり、互いに理由は違えど笑顔だった。
そもそも、臨也は夢の話を真剣に聞いてはおらず、夢も臨也に軽く声をかけちょっかいをかけているに過ぎないのだ。
互いに怒ってもないし、謝る気すらない。


「そろそろ帰ったら?」

「どこに〜?」

「学校じゃないの? 高校生」

「あ、それもそうだね。私、高校生だった。でも、やだよーう。めんどくさい」

「そう」

「臨也さんも外に出たら〜? 引きこもりぃ」

「俺は仕事してるんだよ。それに、この後池袋に行って静ちゃんで遊んでくるんだ」

「うわー、平和島さんかわいそー」


"可愛そう"とは言え、やはり心何て籠らず所詮棒読みである。
しかし、夢は「そっかー」とつぶやいて、やはりソファでスナック菓子を食べケータイ片手にごろごろ。
動く気は、帰る気は全く無いようだった。
今時アナログとも言える、所謂"ガラケー"を巧みに操り、流石今時とも言える速さでケータイを操作する夢。
『何をしているのだろうか』という疑問は、臨也は持たない。
そんな疑問、愚問なのだ。そもそも、臨也にそんな疑問が浮かぶはずがない。
なぜなら。


『俺といるのに他の男の名前を出すなんて酷いね、夢は』

『うるさい。先に他の人の名前を出したのは臨也さんでしょ。バーカ』


そんな内容の短い会話を、臨也はパソコンで。夢はケータイで行っていたのだ。
メール機能を使って。
外はギンギンに太陽がアスファルトを照らす。
しかし、外の風景など気にすることもなく二人はメールでの会話を続けた。
そこには、口にでは二人が出さないような言葉も含まれる。


『嫉妬なんて可愛いね』

『臨也さんだって嫉妬したじゃん。臨也さんも可愛いよ。だーいすき』

『俺はこんなに夢を愛してるのに、夢は大好きなのかな?』

『はぁ? ばっかじゃないの。私だって愛してるよ。やっぱり、臨也さんの嫉妬って可愛いよね。あと、それヤンデレっぽいよ。素敵』

『俺を可愛いなんて言うのは君くらいだよねえ、本当。それに、俺は新宿の素敵で無敵な情報屋だからね。素敵なんて、当然だろう?』

『それもそうかー』

口には出さず、現代風に


■あとがき■
暑いですねぇ・・・。
学校にも、クーラーがつくべきだと思うんですよ。

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