ショートノベル | ナノ


かわいいひと


「あ・・・」とギャリーが呟いた。
私は首を傾げる。


「どうしたの? ギャリー」


声をかけて見た。
でも、ギャリーは「うーん」と考え込んだまま言葉を返してはくれなかった。
―――そんなに悩むようなことを思い出したのかな。
それから少しして、ギャリーは溜め息を吐いて私を見る。
どこか真剣な雰囲気だったから、私は不思議と鼓動が早くなる。・・・けど。


「夢、少し家に戻ってもいいかしら?」

「え? うん、いいけど・・・。どうして?」

「ちょっと・・・傘を忘れちゃって」

「・・・傘?」

「ええ。ほら、今日は雨が降るって予報だったじゃない? だから、傘を取りに戻ろうか迷っちゃってて・・・」


拍子抜けだったような気もした。
―――いや、確かに、傘は大事だけど。
耐えて耐えて。どうにか耐えようとも思ったけど、無理みたいだった。
私は「ぶふっ」と汚くも噴き出してしまう。


「あはははっ・・・、おなかっ、いたぁっ・・・ふふふっ」

「え!? ちょ、何笑ってんのよ、夢! 笑い事じゃ無いのよ!」

「だってぇっ・・・ふっ、くくっ・・・あはははははっ! もっ・・・、ギャリーかわっ、かわいいっ・・・」

「なっ・・・、もっ、バカ夢! もう知らない!」


―――あーあ。もう。
ギャリーはわからないのかもしれない。
顔を真っ赤にして怒っても。「バカ!」とか、「もう知らない!」とか言われても。
私には可愛く見えて仕方がないってことを。
―――本当に・・・。

あなたは、かわいいひと。

かわいいひと


■あとがき■
雨はイヤっスなぁ・・・。

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