ショートノベル | ナノ


ベタだけど


おめでとう。
そう言ってやれば、目の前の恋人は笑って「ありがとう」と喜んだ。


「悪いな、今キツくて・・・。プレゼント、なにも用意できなかったんだ」

「ええよ、そんなん。俺は進と一緒に居るだけで幸せやから」

「蔵・・・。悪いな、本当。次は絶対・・・」


言いかけた俺の口は、蔵の唇に塞がれる。
触れるだけのキス。すぐに蔵の唇は離れて行って、蔵は小さく困ったふうに笑った。
「謝らんで」と言った蔵の唇を、今度は俺が奪う。


「んっ・・・」

「なぁ、蔵。ベタ、だけどさ」


唇を離して、そっと蔵の耳元で囁く。
「プレゼントは俺。・・・ってのじゃダメかな?」なんて。
ベタで、クサくて。
ピクッと小さく肩を跳ねさせた蔵も、小さく笑いをもらして「ほんまにベタやなぁ。クサイで、進」と俺の頭を軽く叩いた。


「でも、それが一番嬉しいわ。ありがとう、進」

「・・・誕生日おめでとう、蔵ノ介」

「んっ・・・耳元で囁かんといて。進の声はゾクゾクすんねん」

「好きなくせに」

「っ、バカ進。・・・大好き」

「知ってる」

「進は?」


心配そうに俺を見上げる蔵がなんか面白くて、小さく笑ったあと、俺は蔵のおでこにキスをして「そんなの・・・」なんて口を開く。


「愛してるに決まってるだろ? 蔵ノ介」


ベタだけど

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