知ってるから 「はぁ・・・」なんて、らしくもないため息を吐いた明仁さんに、私は首を傾げた。 強面な顔に似合わず、凄く優しくて、繊細な明仁さん。 多分、この事実は私しか知らない・・・と思う。 「明仁さん、どうしたの?」 「夢・・・。いや、ちょっとな・・・」 困った風に笑って、私の頭を撫でる明仁さんに、「誤魔化してもダメだよ」と明仁さんのがっしりと筋肉のついた太い腕を掴んで私の頭から退かす。 すぐ、こうだ。 困っても、いつも私に頼ろうとしないで。 どうせ一人じゃ、明仁さんはどうにも出来ないのに。 喧嘩は強いくせに、さ。 「私に言って、明仁さん」 「夢・・・」 「私は明仁さんに頼られたい。明仁さんが好きだから。愛してるから。だから、ね? お願い、明仁さん」 明仁さんも私に頼ってよ。 なんて言ってしまえば、明仁さんが折れることを私は知っている。 そうだよね、明仁さん。 「・・・わかったよ。悪いな、夢・・・」 「悪くないよ。謝らないで、明仁さん」 ほら。 明仁さんの行動だって先読みできるくらい、私は。 「なあ・・・俺って見た目怖いか?」 「・・・へっ?」 「いや、だからよ。俺って見た目怖いのか?」 「えー・・・っと・・・」 真剣に。眉を垂らし言う、目の前の強面な男。 腕まくりをした太い腕には立派な彫り物。 見るからに"怖い"見た目をした男が何を言い出すかと思えば。 私は心配しただけ損だったと思った。 明仁さんからしたら、真剣なんだろうけど 。 「・・・鏡、見る?」 「・・・やめとくよ」 私の反応に、首を横に振り断ると、明仁さんはあからさまに肩を落とす。 それを見てると、なんだか悪いことをしたような気持ちになると同時に、「可愛いな」とも思ってしまう。 私は末期かもしれない。 「確かに見た目は怖いけど大丈夫だよ、明仁さん」 「・・・慰めの言葉なんて、」 「だって、私からしたら怖いどころか明仁さんはすっごく可愛いもの」 「なっ・・・!? かわっ・・・!?」 「驚いた顔だって、可愛い。さっきの落ち込んでる姿も可愛い。私には、明仁さんは全部可愛く見えるんだよ」 どうして。そう言いたそうな明仁さん。 だって、知ってるから。 見た目じゃなくて。 明仁さんがどういう人間なのかを。 怖い見た目とは裏腹に、誰にでも優しくてお人好しで誰よりも穏やかで繊細な心の持ち主で平和を愛する博愛主義者で。 実力だって見掛け倒しじゃないのに、あまりその力を好んでなかったり。 全部全部知ってるから。 だから。 「私は怖くないよ、明仁さん」 「っ、夢・・・!!」 「うん。怖くない。怖くないよ。私は明仁さんから逃げたり離れたりしないから」 だから、安心して。 私の大好きな明仁さん。 知ってるから [しおり/戻る] |