ショートノベル | ナノ


だぁいすき


トン、トン。
軽くノックをしてみる。


「・・・真黒さーん」


反応はない。
ただの空き家のようだ。
空き家ならいいよね。うん。いいよ。


「空き家なら好き勝手しちゃおうかな。ふふ。とりあえず、ここら一帯にガソリンをまいて・・・」


そこまで言いかけて。
口を閉ざす。
部屋の中からすごい物音が聞こえて、ドタドタと足音が近づいてきたから。
私はこれまでにないくらいの笑顔でドアが開くのを待った。


「いる、いるからそれはやめてくれ!」

「なぁんだ、つまらないの。おはよう、私の真黒さん」

「うん、おはよう。僕は君のものでもないし、できれば朝の挨拶はもう少し静かに穏便に行おうね? ほらほら、そんなの置いて上がってよ」

「はーい」


私は赤い、よく灯油とかが入ってるタンクをその場に置いて元気良く真黒さんのお部屋に入って行った。
え、なにが入ってたのかって? ふふ。ないしょ。


「真黒さん、私お腹すいた」

「へぇ、そう」

「うん。ねぇねぇ、真黒さん」

「なんだい、夢ちゃん」

「私すっごくお腹すいてるから、今すぐ真黒さんのだぁい好きなめだかちゃんやくじらちゃんのこと食べちゃいたいな。人を2人も骨の髄までしゃぶり尽くして食べたらお腹いっぱいになるんだろぉなぁ。ねぇ、真黒さんはどう思う? ふふふ」

「・・・今すぐ何か用意するから、そこに座っててね。絶対だよ、夢ちゃん」

「え、うそ真黒さんの手作り? やったー。わかった、私ここで一人で座って真黒さんのご飯くるの待ってるね。でも早くしないと真黒さんのお気に入りのめだかちゃん人形を食べちゃうかもしれない。食べちゃったらごめんね、真黒さん」

「わかった。手軽な物だけど、すぐに作ってくるよ」


そう言って、小走りでお部屋から出て行った真黒さんを、私は笑顔で待った。
めだかちゃんのお人形が乗ってるソファに腰をおろして足をぷらぷらと遊ばせる。
まだかなー、まだかなー。はやくー。おなかすいたー。そんなことを考えながら体をゆらゆらさせてたら、真黒さんはすぐに戻ってきた。
おいしそうな匂い。


「これくらいしか出来なかったけど」

「ううん。わたし、それだけでじゅーぶんだよ。真黒さんありがとー」

「どういたしまして」


笑って真黒さん手作りのお料理を差し出してくれる真黒さんに、私も笑顔になる。
お皿の上には、私の大好きなオムライス。
丁寧に、「夢ちゃん」ってケチャップで書いてあって、余計に私の頬は緩んだ。


「大好き、真黒さん」

「僕も好きだよ、夢ちゃん。だから、もうそんな脅しみたいなことはやめてくれると助かるな。ね、夢ちゃん?」

「ふふっ」


わかってないなぁ。
真黒さんは。
私は。真黒さんのその冷や冷やした、青くなった顔がだぁいすきなんだもん。
真黒さんも好きだけど、その顔がだぁいすき。
だから。
笑って誤魔化すんだよ。


だぁいすき



あれっ、ギャグを書こうとしたらヤンデレ?
あれ?うん?どうしてこうなった。

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