ショートノベル | ナノ


ポッキー


ポキッ、ポキッ、と口にくわえたポッキーを口内で綺麗に、確実に、細かに負っていく進は、一定の長さまですると、指でチョコのコーティングされていないところを摘み、ポッキーを口から出した。
そして、ポッキーをじーっと見つめ、進は一時停止。
そんな進の行動の一部始終を見ていた跡部は、首を傾げる。
―――何をしてるんだ?
まあ、不思議に思っても仕方がないだろう。突然、跡部が仕事をする生徒会室まで押しかけて、クーラーが一番当たるソファの上に寝そべったと思えば。この進という男は何を言うでもなくポッキーを食べ始め、そしたら、何本目かのポッキーを食べていたと思えば、急に手を止めポッキーを見つめて。
こんな行動を一部始終見ていて、不思議に思わない人間などいるのだろうか。
―――いや、いないだろ。つか、勝手に入ってきて、こいつは一体何を・・・。
そろそろ、本気で怒鳴り散らし追い出そうか。そんな思考に跡部が至った、その時だった。
生徒会室に入ってから漸く。進は口を開く。


「ポッキーてさ、エロいよね」

「・・・は?」


ズケズケと我が物顔で生徒会室に入ってきて、漸くの第一声。
それは、なともまあ、摩訶不思議で意味不明の言葉で。
遂に跡部は、既に皺の寄っていた眉間を摘み、頭を悩ませた。
心の中で、微かにSOS。
―――誰か、コイツの通訳を呼んで来い・・・!! 助けてくれ、樺地・・・!!!
しかし、頼みの綱である樺地は現在不在。どこかで寝ていて部活をサボっているであろうジロー探しに出ているところ。
助け何て来るはずもなく、跡部の災難は続く。


「ねぇねぇ、景ちゃん。ポッキー頂戴って言って」

「・・・なんで俺様が、」

「言ってくれたら、僕ちゃんとこのまま家帰ってあげてもいいよ?」

「とりあえず、上から目線を止めたら言ってやらないこともないぞ」

「むっ・・・景ちゃんのくせに偉そうにしないでよ」

「ここ(生徒会室)の窓から追い出してやろうか」

「ごめんなさい」


生徒会室のある場所。それは、3階廊下の突き当たり、最奥の部屋。
いや、場所は関係ない。問題は、階数だ。1階や2階なら、まだ案外いけるだろう。しかし、3階ともなれば、そんなところの窓から追い出されれば、最悪の場合死に至る危険性も出てくる。
流石の進も、こんなことで死ぬのは勘弁、といったところか。
しかし、跡部はやはり不思議でならなかった。そもそも、進の言動行動には予測など不可能だと言う事は理解はしていたが。


「・・・どうして、俺様にそんなことを言わせたがるんだ、お前は」

「えー?」

「そんなこと、俺様に言わせてなにに、」


「何になるんだ」と言おうとした。が、しかし。
そんな跡部の言葉は、次の進の言葉に見事に消し去られることになり。
遂には、跡部の沸点のメモリを吹っ切る事へとつながるのだった。


「そんなの、景ちゃんのその声で言ったら完全に下ネタにしか聞こえないからに決まってんじゃん!!!!」

「・・・・・・」


プッチン。何かが、切れた音が聞こえた気がした。

ポッキー

(進待ちやがれぇええええええええ!!!!!)
(イヤだぁあああああああああ、待てって言われて待つバカはいないんだよ、バーカぁああああああああ)
(アーン!?)

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