ショートノベル | ナノ


大きな子供


カチ、カチ、カチ。
静かな部屋で聞こえるのは、時計の秒針が動く音。と。
紫原がもしゃもしゃとまいう棒を貪る音。
夢は、溜め息を吐いた。


「むっくん、課題やらないの?」

「めんどいし」

「じゃあなんで私の家に来てるのよ」

「夢ちんと課題一緒にやりたかったからー」

「・・・課題やらないの?」

「俺(お菓子以外)なんも持って来てねーし」


また、溜め息。
夢は紫原に向けていた視線を、課題に戻す。
埒があかない。


「別にいいけどさ、私の邪魔しないでね」

「・・・俺、邪魔なの?」

「え」


課題から紫原へ。
突然変わった紫原の声のトーンに気づいて夢が紫原を見やれば。
食べかけのまいう棒を手に、シュンとした様子の紫原。
紫原に項垂れた犬の耳と尻尾が見えたのは、夢の見た幻覚か。
捨てられた仔犬のような様子の紫原に、当然夢は慌てる。


「ちょ、そんなこと言ってないじゃない!」

「だって、邪魔って夢ちん言った・・・」

「それは、課題してる私の邪魔しないでって意味で・・・ああ、もう・・・」


今度は、「はぁ・・・」と大袈裟に溜め息。
紫原の肩がビクッと飛び跳ねる。
怒らせてしまったのだろうかと紫原は思ったのだろう。


「夢ちんっ」

「邪魔だったら、むっくんが来た時玄関で早々に追い返してるわよ」

「え?」


言うや否や、優しく微笑んで夢は紫原の頭をその微笑み同様に優しく撫でた。
瞬間、明るくなっていく紫原の表情。


「夢ちん大好き!」

「ぐえっ・・・わ、わかったから離しっ・・・」


2メートルを越した巨大な紫原に抱きしめられ、夢は苦しさから紫原の背中を叩く。
しかし、紫原は夢を離す気はないらしく。
夢は思わず、苦笑。

大きな子供
(むっくん、そろそろ離してくれないと私天国に昇っちゃう)
(えーそれはダメだし)
(うん、それなら離そうね)
(それはやだ)
(我が儘ね)

*アトガキ*
さあ、むっくん・・・!
私の胸に飛び込んでおいで・・・!!
あれ、私潰される・・・?

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