ショートノベル | ナノ


きっかけスイッチ


「ねえ、弦一郎っ!」

「む・・・どうした、夢」

「今日は何の日か知ってる?」


突然俺の前に現れ、笑顔で質問してくる従妹の夢。
俺の前に突然現れたことには触れず、俺はまず夢の質問について考えてみた。
が、カレンダーを見ても、11月11日と書かれているだけで、その下にも何にも書いているはずもなく、答えはわからなかった。


「・・・今日は何か祝い事でもあるのか?」

「もぉー・・・やぁっぱり知らないんだー。祝い事なんかじゃなくて、今日11月11日はポッキーの日なんだよ!」

「ポッキーの日・・・?」

「そう、ポッキーの日!」

「夢、ポッキーとは何だ?」

「・・・・・・はあ?」


夢の口から発せられたポッキーという言葉がわからず、夢に聞いて見れば、意味がわからないとでも言いたげな表情で溜息を吐く夢。
な、なんだ・・・?知っておらねばならぬ事だったのか・・・?
そう心配していたら、夢が赤い箱を何処からか取り出した。


「・・・まあ、弦一郎がポッキーを知ってるなんて思っちゃいなかったけど、まさかねえ・・・。いい?弦一郎、これがポッキーよ!」


そう言って赤い箱から小さな袋を取り出し、夢はその袋を更にあけ、その袋から細い棒状のものを取り出し、俺の目の前に突きつけてきた。
どうやら、お菓子の様だった。
・・・そういえば、丸井や赤也などが部室で食べていた様な気が・・・


「これがポッキー、か・・・」

「そう、これがポッキー。・・・って、ホント弦一郎ってふるいわよね。今時ポッキー知らない中学生なんて、そうそう居ないわよ」

「う、うむ・・・そうなのか」

「・・・まあ、いいわ・・・はい、弦一郎口あけて」

「・・・?」


ポッキーとやらのチョコの掛かっていない部分を咥え、チョコの掛かっている部分を俺の口元に差し出し顔を近づける夢の、言葉の意味がわからず、思わず口をあければ、俺の口にはポッキーがはいってきて、
夢の行動に驚いていれば、ぽきっぽきっという音と共にだんだんと近付いてくる目を瞑った夢の、整った顔。
そして、夢の顔が間近まで近付いてきたことで、咄嗟に目を瞑った、その時。
俺の唇に触れた、やわらかいもの。
今何がおきているかなんて、目を開け確認しなくても、すぐにわかった。
俺は今、夢と、接吻をしているのだ。
そっと夢の唇が離れていったと同時に目を開けば、妖しくニヤリと口角をあげ笑う夢の顔が目に映って、これでもかと言うほど、俺の顔が熱を持った。


「な、な、な、」


"なにをする!?"と、怒鳴りたくても、
上手く言葉を紡げず意味もない言葉を発していれば、クスクスと笑い出す夢。
その夢に、更に顔に熱が篭るのがわかった・・・が、それより更に、次の夢の言葉と行動により、俺の顔は熱が出たんじゃないかと思うほど、熱くなる。


「ふふ、大好きだよ、弦一郎」


笑顔で告げ、今度はポッキーも何もない俺の口に口付けてきた夢に、俺の思考は、爆発した。


「じゃーね、弦一郎」


それはもう清々しい笑顔で夢は去っていく。
でも、その時の俺には、夢の笑顔でさえ、頭に入らなかった。
そして、その時俺の心に芽生えた新しい感情にさえ、俺は気がつけなかった。

(き、キエェェェェェェェェェェェェェェッッ)

これは単なるきっかけ。
あの時芽生えたこの気持ちに気付くのは、
あと、・・・

お題提供元[確かに恋だった]様

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