天空の太陽 地上の太陽




 黄金の太陽が空の真上で燦々と輝き、この日木ノ葉でこの時期には珍しい最高気温をたたき出した。

 さすがに露出を好まない日向ヒナタもこの日ばかりはどうしようもなくて、ノースリーブのワンピースに着替え、普段は出さない肩や胸もとや膝を晒し、ホッと息をついた。

 日に焼けることを知らないかのような白い肌は、太陽のギラギラとした日差しをも跳ね除けるかのように輝いた。

 本日の予定はなく、外に出るのも億劫だったが、予約していた書物が入ったと連絡を受けたので、仕方なく屋敷の外へ出て歩き始める。

 日よけの日傘を差して、じりじり焼きつく路面を歩いていると、見慣れた人物が前を歩いていた。

 声をかけようかどうしようか迷っていると、その人は右へ折れ曲がり、ヒナタの行こうとしている道を先導するかのようで、思わず嬉しくなってヒナタは微笑んだ。

 黒いTシャツから覗く程よく日焼けした肌は、最近また筋肉がついたのだろうか、男らしさを感じさせたし、無造作に歩いている歩調は追いつくのに必死になるくらい早い。

(また身長伸びたのかな……歩く速度も早くなったし、足も……なんか……追いつかないよね)

 少し寂しさを感じながらも、ヒナタは必死に追いつこうと小走りになる。

 熱いこの気候で、小走りなんてなにやっているだろうと、自嘲しながらも追いかけることをやめない。

 それは、ずっと小さな頃から続けていたことのように思えたし、まだ追いつかないのかという落胆すら感じさせた。

(ナルトくんっ)

 声をかければいい、なのに声が出ない。

 勇気が足りない、ただ声をかけるだけ……なのに……と、ヒナタは涙が滲みそうになるのを必死に堪え走る。

 完全に見失ってしまって、ヒナタは立ち止まると、はぁはぁと荒い息を繰り返してから唇を噛み締めた。

(まだ……追いつけないんだね……)

 目を閉じて、悲しげに息をつく。



「道の真ん中で何やってんだ?ヒナタ」



「……え?」

 不意に聞こえてきた声に驚き、日傘をずらしてそちらを見ると、店の中からアイスを持って出てきたナルトを見つけた。

「へぇ、今日は何かいつもと雰囲気が違うってばよ……って、オイ、泣いてんのか?どうしたんだ!?」

 驚いてヒナタの傍に駆け寄ると、日傘を邪魔だと言わんばかりに払いのけ、ヒナタの頬に手を添えて上を向かせる。

 真っ青な空と同じ色をしたナルトの青い瞳が、ヒナタの瞳を覗き込み、不安げに揺れる。

「何かあったのか?あ……こ、コレ食べてちょっと落ち着けってばよ!」

 ぐいぐいヒナタの手をとり引っ張っていき、近くにあったベンチに座らせると、ナルトは手に持っていたアイスキャンディを二つに割って、片方を渡した。

「あ……ありがとう……」

「いや、別にいいんだけどよ」

 心配そうな顔をしつつ、アイスが溶ける前に食べてしまわなければと、かぶりつくナルトを見て、ヒナタは柔らかく微笑む。

「ほら、食っちまえって」

「う、うん」

 ベンチに並んで座ってアイスをシャクリと一口食べ、その冷たさに自然と笑みが漏れた。

 優しくその姿を見つめ、ナルトは満足そうに微笑むと、自分のアイスを大きな口を開きまた一口食べる。

 暫く無言でアイスを食べ、そして手にしていた棒を袋にいれてゴミ箱に捨てると、ナルトはヒナタの顔を覗き込んだ。

「何かあったのか?」

「う、ううん……も、もう……大丈夫」

「オレには言えねェことか?」

「ち、違うの……あ、あの……わ、私……勇気が……ないなって……」

 不意に漏れた言葉に、ナルトは首を傾げたが、静かに首を振った。

「お前が勇気ねーっていったら、木ノ葉の連中みんな臆病者だってばよ」

「え……?」

「お前ほど、勇気のある奴はいねーよ。それはオレが認めてる」

 ニカッと真上にある太陽に負けない笑みを浮かべ、ナルトはヒナタを見つめた。

「いちいち落ち込むな、お前は強ェーんだから」

 いつか聞いた言葉を再度言われて、ヒナタはナルトを見つめる。

 互いに絡む視線に、息をするのを忘れていたヒナタは不意にナルトの視線が横に動いたのを見て首を傾げる。

 視線の先にあったのは、日傘。

「そういや、この黒傘なんだ?」

「あ、これは日傘なの、日差しを遮るもので、この下は少し涼しいんだよ?」

「へぇ……」

 そう言いながら、立ち上がり日傘を差したヒナタの日傘の中に顔を突っ込むと、ナルトはふーんと呟きヒナタを見つめる。

 そっとその手から日傘をとり、ナルトが差す。

「少し涼しい気がするってばよ」

「う、うん」

 ヒナタにしてみれば、体温の高いナルトがすぐそばにいるだけで暑いし、違う意味で己の体温も上がって熱いのだが、そんなことお構いなしに、ナルトは笑う。

「ふーん……結構いいかもしんねーな」

「え?」

「コレさ……こうやって使えるってばよ」

 こうやって?と問い返そうとした瞬間、影が落ちて唇を掠める柔らかな感触に、ヒナタは目を見開く。

「へへ……な?これなら誰にも見られないだろ?」

「……な、ナルト……くん……」

 回らない思考と舌がやっと音を紡ぎ出すが、そんなヒナタの様子に気を良くしたナルトは意地悪な笑みを浮かべて笑うと小さく呟く。

「もう一回」

「え?……ん」

 炎天下の道ばたで、そんな太陽の日差しに負けない二人は、ゆっくりと再び日傘の下で唇を重ねる。

「ヒナタ、大好きだぜ」

 満面の笑みで告げられる言葉に、ヒナタは微笑み、太陽のような彼には、きっと天の太陽すら敵わないのだと思った。

「私も、大好きだよ、ナルトくん」

 灼熱の太陽に当てられたのか、するりと出た言葉に驚き彼を見ると、彼も驚いた顔をしてヒナタを見つめ幸せそうに笑ったかと思うと、日傘で隠すなんてそんなことを考える余裕もないように三度目の口付けを交わす。

 今度は、先ほどよりも深く、長く……。

 空の太陽より、地上の太陽のほうが暑いねと誰かの呟きが聞こえた気がしたが、聞かなかったことにして二人は幸せな気分で手を取り合う。

 もう天の太陽の灼熱の日差しは気にならない。

 目の前の太陽の熱に当てられて火照った身体をどうしようかと、ヒナタは苦笑するのだった。





(地上の太陽の熱は引く事も知らず…)














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