特別なエイプリルフール




「ヒナタ、好きだ……」

「……え?」

 場所も選ばす必死に告げられた言葉に対しての、ヒナタの反応は当たり前と言えた。

 本日は4月1日、エイプリルフールという日であり、朝からもう既にキバといのにからかわれたあとでのコレである。

 特にキバの嘘はヒナタが本気で涙目になってしまった為に、いのにキツく説教された後キバはやり過ぎたかなーという思いからヒナタといのを連れて甘味処へ来ていたのだが、そんなヒナタにトドメとばかりのナルトの言葉。

 『ナルトがヒナタのこと好きだって』と、似たことでからかったキバと、まさか同じことをするとは……

 しかも、本人がやるとは……

 と、完全フリーズしてしまったキバといの……そして、もうこれ以上は耐えられないとばかりにぽろりと大粒の涙を零し、ナルトの手を振り払って逃げるように走り去ってしまったヒナタ。

 そんなヒナタの後姿を呆然と見送るナルトに、キバといのは我を取り戻して叫ぶようにヒナタに振り払われた手を見つめ呆然としているナルトを罵った。

「この……バカーーーーーーーッ!!」

「うおっ!?」

「アンタねっ!いくらエイプリルフールといっても、いって良いことと悪いことがあるって知らないのっ!?」

「もうオレがやっちまった後でなんだけど、お前……そりゃねーよ」

 ガクガクといのに揺さぶられ、キバに唾がかからんばかりに叫ばれ、ナルトは何故こういう状況になっているのかを、少しだけ理解できたのか、二人の顔を交互に見て呟く。

 そう、聞きなれない単語があったのだ。

「……えいぷりるふーる?」

「嘘をついても良い日よ」

 何をわかりきったことを言っているのだといういのの視線を貰いながら、ナルトは眉根をぎゅっと寄せ、先ほど聞き逃さなかった言葉を今度はキバに向かって尋ねてみる。

 ことと次第によっては……と、物騒なことを考えながら、ナルトはキバを見ていた。

「なあ、キバ……『オレもやった後』って何だ?」

 ナルトの声に篭められた感情を押し殺したようなモノを感じなかったのか、キバはあっけらかんと本日自分がしでかしたことを、本当にかるーく語ってくれる。

 それがどういうことになるかわかっていないかのように……

「あー、ヒナタに『ナルトが好きだって言ってたぜー』ってさ」

 ぴくり

「……テメーのせいかーーーーーーっ!!!」

 それならば何故ヒナタがあんな反応をしたか理解できて、それと同時に嫌われたワケではないという希望が心を満たし、どうしていいかわからないが、とりあえずはこの目の前の男が原因なのだと言うことだけは理解できて、ナルトは思わず絶叫してしまう。

 思い切り胸倉を掴んで揺さぶり、このまま殴ってやりたい気になるのだが、それよりも早くキバが口を開いた。

「はあっ!?こんなもん言った者勝ちだろうがっ!つーか、お前がソレ言ったらシャレになんねーだろっ!!」

 そういう問題じゃねーっ!!と心の中で叫んだナルトは、怒りに任せてキバに向かって怒鳴りつける。

「バカヤロウっ!!誰が嘘や冗談でこんなこと言うかっ!!」

「……へ?」

「は?」

 何どういうことという顔をして、キバといのが顔を見合わせ、目を瞬かせる様子を睨みつけながらも、わなわなと震える拳をどうすることも出来ず怒りのままに殴りつけてやろうと思っていたナルトに新たな声がかかった。

 騒動を聞きつけてきた……というには自然に近づくサスケとサクラの二人に、ナルトは鋭い視線のままそちらを向けば、苦笑したサスケが唇の端を吊り上げ笑う。

「何だ、振られたか?」

「違ェーよ。もっと悪いっ!誤解されたってばよっ!!」

「で、アンタ、追いかけもしないでここで何やってるワケ?いいの?誤解されたままで」
「良いワケねーってばよっ!!……くっそっ!!キバ、テメー覚えてろよっ!!……待てーーっ!!ヒナターーーっ!!」

 二代目黄色い閃光の名に相応しい速度で消え去るように走り去ったナルトを呆然と眺めていたキバは、うん?と首を捻って見せた。

 ナルトは確か、『嘘や冗談で言えるか』と言っていなかったか……と、思考が徐々に戻ってくるに連れて、ナルトの言葉が本当のことであり、場所を選ばなかったのは色々と注文もあるところだが、その告白が本物であったというのは……嬉しいのか哀しいのか複雑である。

「嘘から出た真……つーか、オレの嘘がエイプリルフールでもなんでもなくなっちまったじゃねーかよ」

「アンタの嘘がこの事態を招いたんでしょっ!ちょっとは……」

「反省……」

「しなさいよねーっ!しゃーんなろーーーーっ!!」

 どごおっと凄まじい音と共に地面にめり込んだキバを見た赤丸は、ヤレヤレとでも言いたげな雰囲気で大きな欠伸をしてから、再び地面へと伏せた。

 いのとサスケとサクラの攻撃をまともに受けたのだから、暫くは意識も戻るまい……つまりは、暫くは昼寝が出来そうだと赤丸はうつらうつらとしはじめ、地面にめり込んだキバを放置して甘味処へ入ったいのとサクラが注文をとり、サスケも全く頼まないというのも気が引けたのか、ところてんを頼み話しに花を咲かせている二人を横目でみてからナルトの走り去った方へと視線を向ける。

(ったく、お前はタイミング悪いんだよ……とっととケリつけてきやがれ)

 そんなサスケに気づかずに、二人はどうなると思う?と恋愛話に盛り上がりを見せ始めた二人から離れたい気持ちが強くなってきたサスケの肩をぽんっと叩くカカシがいて、その隣にサイやヤマトもいてくれたのを感謝するかのように目を細めて迎え入れた。

 きっとこのあと、照れくさそうな顔をしながら、手を繋いで現れるだろうナルトとヒナタを思い、サスケは笑みを深める。

「もう少し大きな席へ移動しよう。あとから二人、来るだろうからな」

「そうね」

「確かにー」

「うん?約束があったの?」

 カカシがそう問えば、3人は意味深に笑い、それから代表していのがステキな笑みを浮かべてカカシに答えた。

「エイプリルフール知らずに告白したバカが、誤解解いて戻ってくるんですよ」

「ふーん、ナルホドね」

「そんなことをする人物が一人しか思い浮かばないのはボクだけですかね、先輩」

「じゃあ、あの店の前で埋まってる犬野郎は妨害でもしたんですか?」

「人の恋路を邪魔したから、馬に蹴られたんじゃない?」

「ことわざって本当に起こるんですね」

 興味深げにサイが言えば、いのはふふりと笑い、サクラとサスケに視線をやると、彼らもどこか楽しげに笑っていて、今日は良い日だな……と、一同は笑い合う。

 そして、話しに花を咲かせていると、店の前で小さな悲鳴と驚いた声が聞こえ、一斉にそちらを見れば、金髪の彼と蒼紫色の髪の彼女が埋まっているどこぞの男を訝しげに見つめ、しっかりつながれた手に力を篭めて寄り添い合っていた。

 どうやら納まるところに納まったなと、二人を招き入れる。

 エイプリルフールからはじまった騒動が齎した、優しく甘く、そしてどこかあたたかな日。

 まだ風は冷たいが、きっとこれから咲く花は綺麗だろうと、花見の話しなどにも話が及ぶころには、キバも復活して、いつのまにやらシノもシカマルもチョウジも集まってきて、そこにリーやテンテンやガイも合流し、流石に店の迷惑になるからと夕飯も兼ねて焼肉Qへと向かう。

 そんな日常の1コマ。

 ありふれた日のはずだけど、でも愛しい日々。

 普通の日であるのに、普通ではなくなった日。

 二人の記念すべき日。



 そして騒動の発端たる男は……



「オレ、エイプリルフールのとき、嘘つくのやめとこうかな……」

「その方が良い、何故なら……」



 そんな声が聞こえたとか聞こえなかったとか──







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