はじめてのクリスマス番外編 艶宴 後編





「ヒナタを喰いたい」

「だ、ダメ……だよ」

「何で?」

「み、みんな……いるから……」

「いなかったらいい?」

「え、えと……そ、その……」

 もうどう答えて良いかわからず、ヒナタはナルトの戒めから逃れじりじりと背後に下がり、その下がった分だけナルトは詰める。

 すぐに壁に阻まれ、退路を無くした彼女は、必死にナルトを止めようと腕を突き出すが、その手を取られて口付けられ、ぞくんっと這い上がってくる感覚に体をひくりと震わせた。

「あ……だ、だめっ」

 彼がちゅっちゅっと手の甲に口付けているその先を感じ取ったヒナタは声を上げるが、一瞬遅く、指の間に舌が這い、思わず出そうになった声を、反対側の手で塞ぎ堪え、散々ナルトに教え込まれた快感が体を走り抜けるのを抑えきれずに唇を強く噛んだ。

 指の間を丁寧に舐めていたナルトは、そのまま指を口に含み、それも丁寧に舐めていく。

 静けさだけが支配する居間に、ぴちゃりと生々しい水音だけが響き、まさかあのナルトがこんなに色気を振りまきながら女を抱くとは思っていなかった男たちは、奇妙な敗北感を覚えながら顔を引きつらせ、反対に女性たちはナルトごときに色気をカンジてしまったー!と、悔しそうに歯噛みする。

 しかも、様子だけ見ていれば、ナルトがとてもヘタとは思えず、女を知らなかったし、普段はあんな感じなのだから、さぞかし自分本位に押し進め、それをヒナタが耐えているのだろうと予測していたのを悉く裏切られ、ヒナタの様子から本気で嫌がっているフシも無いことから普段の行為もこうなのだと伺えて、何となく言葉と態度を持って愛情表現をされまくって愛されているのだろうと理解できてしまえば羨ましい限りであった。

 どこか納得はいかないし、だけど正直羨ましくも感じるという、不可思議な感情に苛まれ、精神的ダメージは計り知れない。

 周囲の者たちが精神的ダメージを受けている中、口に含んでいた手に満足したのか、肘の辺りまでつつつと舌を這わせたナルトは、やだやだと首を振るヒナタに顔を近づけ、優しく淡く微笑む。

「ヒナタが欲しい……すっげー欲しい」

「だ、だから、その……み、皆がいるからダメなのっ」

 普段これほどの拒絶を受けなかったナルトは、ヒナタが嫌だという理由がわからず、眉尻と目尻を下げて、弱々しい声を零す。

「オレのこと嫌いになった?」

 これに驚き焦ったのはヒナタのほうであった。

 そんな顔や声を出させたくは無い一心で、慌てて否定の声を上げる。

「ち、違うよ……違うけど……」

「オレ、ヒナタのことすっげー好き……大好き、愛してる……もう、愛してるだけじゃ足りねェ……どーすりゃいい?どうしたら、このいっぱいの気持ち、伝えられる?」

「な……ナルトく……ん……」

 誰もいなければ、この熱い体を重ね合わせて、すぐさま高みを目指せただろう。

 体の奥底が切なく疼き、何度も彼を受けれた体は、彼の悪戯な指先を焦れたように待っている。

 はしたないと思いながらも、それでも、愛しい男にこんなに熱く求められて、感じない女はいないといえた。

「ヒナタ……」

 名を呼ばれるだけで感じることのできる体にした愛しい人が恨めしい。

「お前だけを愛してる、ずっとずっと一緒にいような……煌に弟か妹作って、家族でずっと一緒だってばよ」

「ナルトくん……」

「オレの子、産むの嫌?」

 ふるふると首を振れば、本当に嬉しそうに微笑むナルトの顔を見ることが出来て、ヒナタは泣きそうになった。

 こんなに自分を求め、こんなに愛を注いでくれる。

 いままでの見つめてきた時間がウソのように、いや、それを埋め尽くすように、惜しみない愛情が注がれて心の深い場所まで満たしていく。

「良かった……へへっ、本当は怖くて聞けなかったんだ……オレ、人柱力だろ?だからさ……得体の知れないモンを孕むんだって怖がられたらどうしようって……」

 ぽろりと零れた本音に、涙が零れ落ちそうになり、必死に堪えながら、ヒナタは、ナルトの頬に手を添えて微笑みながら小さく呟く。

「ナルトくんのバカ……そんなワケないでしょ?」

「うん……そうだよな。ヒナタがんなこと言うわけねーのに……だよな……嬉しい……オレ、すっげー嬉しい……」

 押し倒され、ナルトの体の重みを感じたヒナタは、何も言葉が思い浮かばず、ただナルトを見つめる。

 気持ちばかりは焦るのだが、彼の本当に嬉しそうな顔を見ていたら、何を言って良いのかわからない。

 首筋に埋められるナルトの顔、そして次に続くだろう衝撃に耐えるようにぎゅっと目を閉じたヒナタは息を詰めてその瞬間を待つ。

 すぐさま首筋を這うだろう舌の感触を耐えようとしていたヒナタは、中々襲ってこない感触に首を傾げてソロリと目を開くと視線を自分に覆いかぶさっているナルトへと向ける。

 完全に力の抜けた体。

 だけど、しっかりと手だけは結ばれていて、足も絡んで動けない。

「……え……と……ね、寝ちゃ……った?」

 耳を澄ませば間違いなく聞こえてくる寝息に、緊張していた体は一気に脱力し、深い深い溜息をヒナタはついた。

 それから何気なく視線を横にずらして……再び固まる。

 真っ赤な顔をしている同期メンバー。

 ニヤニヤしている大人たち。

 その中でも、1人とても幸せそうに、幸福に満ちた顔をして微笑んでくれている綱手を見て、かあああああっと顔を赤く染めたヒナタは、弱々しく呟いた。



「で、ででで、できれば……わ、忘れて……く、くださ……い……」



 もうどう言っていいかわからず、ヒナタは襲い来る羞恥心に耐えながらそれだけ言葉にすれば、綱手がニイッと笑って立ち上がる。

「さーてヤローども!私は今、凄まじく機嫌が良い!」

 立ち上がり声高らかに宣言するように言う綱手に視線を集めた一同は、どこかマズイものを感じながら、頬を引きつらせ、そして助けを求めるようにヒナタを見るが、彼女は自分の体に覆いかぶさって安らかな寝息を立てているナルトの髪を優しく撫でていた。

 そう、彼女は綱手の笑みだけで、意図を理解し、安堵したのである。



「火影命令だ。記憶を失うまで呑みな」



 ドスのきいた声で宣言された言葉は、もはやその場にいた者たちへの死刑宣告のようなもの。

 ナルトの色気と本音で、色々とダメージを受けていた一同に、それを回避するだけの余裕はなく、そして、火影の命令と言われてしまえば拒否権も無く、ただ幸せそうな二人を恨めしげに見つめながら、決死の覚悟で酒を煽るのであった──






「うーん……喉……渇いたかもしんねェ……」

「あいっ、とーちゃ」

「おう、サンキュー煌」

 気だるく体を少しだけ起こしたナルトは、差し出されたコップの水を勢い良く飲み干し、一息ついてから煌に礼を言ってコップを返しておかわりを頼むと、嬉しそうにぱたぱた飛んでいく姿を見送り、節々が少し痛いな……と、自分の状況を確認して硬直する。

 押し倒したような状態で、ヒナタを下敷きにして眠っていたのかと慌ててどこうとしたのだが、既に目覚めていた彼女は、優しく微笑みながらナルトの頬を撫でた。

「おはよう」

「あ、ああ、おはよ……すまねェ……記憶がほとんどねェけど、オレ……お前に迷惑かけなかったか?」

「大丈夫だよ……でも、1つ約束して?」

「ん?」

 優しく優しく微笑みながらヒナタはナルトを見つめて頬を撫でながら言葉を紡ぐ。

「お酒飲むの、私と一緒の時だけにしてほしいかな……でも、付き合いとかあるだろうから、外でどうしても飲むなら、一合までね?」

「……ああ、悪いなヒナタ。迷惑かけちまったみてーで」

「ううん……あ、あと……それと」

「うん」

 優しく優しく諭されるように言われているナルトは、コレは怒鳴られるより効くな……と、思いながらも、彼女の願いならば聞いてやりたいと恥ずかしげにちょいちょいと手招きする彼女の口元に耳を寄せる。

「私、ナルトくんの子供なら欲しいよ……時が来たら……必ず……ね?」

「ヒナタ……」

「愛してる」

「ああ、オレも……オレも、愛してるってばよ」

 ぎゅうぅっと抱きしめたナルトは、これほどまでに愛しい存在などいない、これほどまでに愛しい存在など知らないというかのように、胸に詰まった思いを全て乗せてヒナタの唇に口付け、足らないとばかりに彼女の体を引き起こし、腕の中へと閉じ込めた。

「とーちゃ、かーちゃ、あさから、らぶらぶー」

 コップに水を汲んできた煌は、朝から両親の愛情に満ち溢れ交じり合ったチャクラを感じて、目を輝かせる。

 全身いっぱいにそのチャクラを浴びて、煌は嬉しそうにぐーーーっと伸びをした。

「らぶらぶー、いっぱーい、きら、うれしーっ」

 煌のコップを受け取り床に置くと、煌をも引き寄せ、三人でぎゅーっと抱きしめあう。

 そんなうずまき一家を壁にもたれながら見ていた綱手は、嬉しそうに頬を緩ませ、床に転がる死屍累々は見なかったことにして視線を逸らした。

「うおっ、な、何か……すげーことになってんな……」

「う、うん……で、でも……責めないでね?ちょ、ちょっと色々あって……」

「そうなのか?」

「う……うん……わ、私が少しお願いしちゃったから……」

「うーん?まあ、お前がそう言うなら、わかったってばよ」

「ししるいるいー」

 どうやら漸く周囲の状況を理解したらしいナルトの言葉に、綱手は内心苦笑しながらも、平穏そうに見えて、何かしらを抱え葛藤しているこの一家を思い胸をいっぱいにする。

(お前たちは、お前たちの速度で歩んでいくといい……それがきっと、最良の結果となる)

 朝日に照らされ、そこだけ切り取られた絵のように光りに満ちていて、どこか現実とは離れた光景のように見えるが、実は誰よりも何よりも痛みと哀しみに彩られた道を歩んできた二人だからこそなしえる光りなのだと理解し、綱手は優しく見守り、そして再び目を閉じるのであった。








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