1.アンタはこの任務の間に、ソレを知るのかもね シカマルくんたちが潜入している村へ行くにあたって、服だったり日常すぐに必要なものであったりと、綱手様といのちゃんが中心になって準備をしてくれたのはいいのだけど……こ、これ……私が着る……の? 私やナルトくんが準備すれば、普段と変わりばえがなさ過ぎてすぐにバレちゃうと説得されてお任せしたのはいいのだけど……さすがにここまでは考えていなかった。 ワンピースやショートパンツ……脚も腕も胸も出そうなものばかりで、正直不安…… こ、こんなのばっかり着てたら……ナルトくんに変に思われないかな? 胸ばかり大きくなってアンバランスな体は、私のコンプレックスなのに…… ナルトくんのお色気の術を見れば、綺麗なボディーバランスに思わず憧れてしまう。 術なんだけど、ああいう綺麗な体のバランスが素敵だな……って。 た、多分……り、理想……なんだよね? うぅ……その理想からは程遠いような気がする…… 「何やってんのよ、ヒナタ」 「いのちゃん……こ、これ……」 「何?ふつーでしょ?ふつーっ!ナルトはもう準備できちゃってるわよ?」 「えっ!?」 「ほら、早く着替えなさいって!」 いのちゃんにぐいぐいと本日分の服装と言って渡されたものを抱きしめ、私はもうどうにもならないと諦めて、いつもの任務服を脱ぎ、いのちゃんが準備してくれた服に袖を通していく。 ふんわり広がった、ゆったりなドルマンスリーブが特徴のダークパープルカラーのドルマンタートルカットソーに、黒のティアードキュロット。 それに黒のタイツと黒のニーハイブーツ。 何とか着替えた私を出迎えたいのちゃんは、上から下まで眺め、うんうんっと頷き、私の足元のニーハイブーツを見て一言。 「ソレ、ここの上を折り曲げて下げるとまた表情変わるし、ファーつけてもイイカンジだから、服によって替えなさいよ?ショートブーツもそうっ!あと、ローファーと……あー、もー、パンプスとか色々つけたいっ!あと、バッグも入ってるからっ!」 「え、あ……う、うん……」 「いい?アンタは今回ちゃーんとオシャレして、いつものアンタとは違うんだってところをアピールしなくちゃならないの!」 「い……いのちゃん……あ、あの……」 「なあに?」 「わ、私……できる……かな」 「何だったらナルトに見てもらいなさいっ!ナルトーっ!ちょっとーっ!!アンタの奥さん見てやってーーーっ」 ふぇっ!? お、奥さんっ!? い、いのちゃん、ま、待ってっ! 焦っている私を他所に、どこか顔を引きつらせて頬を掻きつつ入ってきたナルトくんは、いのちゃんに文句を言おうと口を開いてから、視野に入った私を見たまま固まってしまった。 あ……や、やっぱり……変なんだ…… ナルトくんが固まっちゃったよ、いのちゃん。 思わず眉尻が下がっているのを感じながら、私は助けを求めるようにいのちゃんを見れば、彼女はふふふっと笑っている。 「どうよ、アンタの奥さんの出来は」 「……べ、別人……みてェ……すっげーな、いの」 「美人でしょ?」 「ああ、すっげー綺麗……」 ……え? 何を言われたかわからず、私は呆然とナルトくんを見つめて気づく。 彼もいつもとは違う姿をしていた。 白のVネックニットカットソー、濃黒のストレートデニム、その上に黒のミリタリージャケットと黒の靴……デニムに隠れて見え辛いけど、ブーツなのかな……シンプルな感じ。 ただ……ナルトくんらしくないというか……モノトーン……というより、黒のイメージ。 唯一色があるのは、シルバーの大きめなバックルが目立つダークレッドのベルト。 か、カッコイイけど……うん、すっごくカッコイイけど、オレンジ色がないナルトくんに違和感かなぁ。 「ヒナタの洋服はパッと見、カラフルっぽいけど……オレってば地味ってか、黒と白ばっかじゃん」 「ヒナタは地味、ナルトは派手ってのが定番でしょ?だから、その反対なのよ。まあ、あまり派手過ぎるとどっかの誰かさん着てくれないかもしれないから、コレでも抑えたの」 「でも、ヒナタすっげー似合ってるってばよ」 「そうなのよ。なのに、この子ったらオシャレしないしっ!」 「勿体無ェな……」 「アンタも!こっちが、ライダースパーカーとかジャケットとか、コートとか色々準備してるの普段着として着こなして見せなさいよ!?インナー系は、アンタのリクエスト通り、トレーナーを多めにしてあげたんだからっ!」 「おうっ!……でもさ、畑仕事してるときは、やっぱトレーナーとかパーカーとかダウンのほうがいいんじゃねーの?」 「それも考えて入れてあるわよ。ったく、ホントにバレないようにやんなさいよね」 「ああ、任せろってばよ」 ニシシッといつもどおり笑うナルトくんと、不安な顔になる私。 どうしよう……本当にうまくいくのかな…… 不安な顔をしていれば、ナルトくんが近づいてきて、私の目の前でピタリと止まる。 ち……近い…… 視線を少し上げれば、ナルトくんが私を真っ直ぐ見ていて、首を少しだけ傾げて見せた。 「ヒナタから感想がねーんだけどさ……オレ似合わねェか?」 少しだけ不安そうに寄せられた眉。 そして、その瞳の奥には不可思議な色が宿っていて、思わずその瞳の色に触発されたような感じで、私は思い切り首を左右に振る。 似合わないなんて、とんでもないっ! 「う、ううんっ!す、凄くカッコイイですっ」 思わず握りこぶしを作って言ってしまえば、近づいてきて私を見下ろしていたナルトくんは驚いた顔をしてから、ニッと笑って見せてくれた。 あ……そ、その笑顔……好き……かも…… 「サンキュ」 「い……いえ……そ、その……」 思わず真っ赤になって俯いてしまった私に、ナルトくんの笑う気配。 直視はできないけど……でも、喜んでくれたなら嬉しい。 「アンタたちさ……夫婦なんだから、もっと親密さを持ちなさいよね」 いのちゃんの言いたいことはわかるけど、や、やっぱり……は、恥ずかしい。 すごく……ナルトくんが近くてドキドキするし……。 「ヒナタ」 「は、はいっ」 慌てて顔を上げれば、ナルトくんの優しい笑顔があって、それだけで心拍数は上昇してしまう。 胸がいっぱいになって、泣きたくなる……どうしたらいいのかな、こんないっぱいいっぱいになってしまう私が、ナルトくんと二人きりで任務をこなすことは出来るのかな? こんなに……胸がいっぱいなのに…… 「頑張ろうな!……でも、無理だけはナシだ。何でもオレに言え……いいな。ほ、ほら……こういう時って、旦那に頼るもんなんだろ?」 「う、うん……えっと……そ、そう……します。ナルトくんも……ね?」 「……ああ、ヒナタにちゃんと言う」 二人して顔を見合わせて笑っていると、1つ咳払いが聞こえて、私たちは思わずそちらへ視線を向ければ、さきほどからいるいのちゃんは勿論のこと、綱手様やシズネさん、テンテンさん、木ノ葉丸くんたち、イルカ先生までいらっしゃってて……え、えっと……ど、どこから……聞いて…… 「ま、この調子なら問題無さそうだね」 ニンマリ笑った綱手様に、私たちは何も言えず、顔を見合わせて苦笑を漏らすしかなく、いのちゃんが楽しそうに笑い、すぐにナルトくんは木ノ葉丸くんたちに囲まれてしまって、その場は賑やかになる。 皆に囲まれているナルトくんを見ながら、私は隣に立っているいのちゃんに声をかけた。 「私……できるかな」 「アンタ以外に出来るヤツなんていないわよ」 「……え?」 「ナルトの奥さん。アンタ以外に出来る女なんて、この世界、どこを探してもいないわよ。自信持ちなさい」 いのちゃんがとても優しく、ニッコリと笑って、私の肩に手を回してくれる。 優しいいのちゃん。 いつもありがとう…… 「ヒナタ、ナルトはアンタを見てるのよ。ほら……」 いのちゃんに促され視線をそちらへ向ければ、人に囲まれながらも、チラリ、チラリと視線が合う。 え? そう、気のせいかな……って思ったのに、視線がしっかり合ってしまって……その度に、心臓を射抜かれるような、優しい笑みを浮かべてくれる。 何故…… 胸が痛くなるような、そんな優しすぎる笑みをくれるの? 勘違いしちゃう……そんな笑顔見せないで、でも……その笑顔が欲しいって思ってしまう。 苦しくて目尻に涙が浮かぶ。 こんなことで泣いちゃダメ……こんなことで傷ついちゃダメ。 「ヒナタがどう考えているかわからなくはないけど……どうしてアンタを見ているのか、どうしてあの笑顔を無意識にくれるのか……アンタはこの任務の間に、ソレを知るのかもね」 「……いの……ちゃん?」 「ヒナタ、覚悟しなさいよー?アンタの相手にしようとしている男は、とんでもなく独占欲が強いかもだから」 目尻に浮かぶ涙を拭い、パチパチと目を瞬かせていのちゃんを見つめる。 独占欲? 誰……の? 「……え?えっと……え?」 「ヒナタっ!」 そうれはどういう意味……と、いのちゃんに問いかけようとしたところで、ナルトくんの大きな声がそれを遮った。 そして、人を掻き分け私の前に来るとぐっと顔を近づけ覗き込むように私を見る。 「どうした?……いの、お前なに言ったんだってばよ」 「なーんにもー?そんな心配なら、傍に置いておきなさいよ。自分の奥さんでしょ?」 「言われなくてもそうするってばよ」 むっとした顔をして私の腕を引っ張るナルトくんと、くすくす楽しそうに笑っているいのちゃん。 いのちゃんが私を一瞬見て、ウィンクをしてくれたあと、手を振ってくれる。 私に見えていなくて、いのちゃんに見えているものがあるのかな…… 「ヒナタ、頼むからさ……」 「え?」 「傍……離れんじゃねーよ」 ぼそりと呟かれた言葉。 小さな小さな呟きは、私にしか聞こえなかったのか、心臓が止まるような衝撃を覚えつつ、ナルトくんを見上げる。 大きく見開いているだろう、私の目を見ながら、ナルトくんがどこか拗ねたように視線を逸らせてから、耳まで赤くなって私だけに囁くように、こちらも小さな声で呟く。 「オレの奥さん……だろ」 「う……うん」 引っ張られていた腕の手は、自然と下がって私の手を握り、握り合いながら微笑みあう。 いのちゃん、私、頑張るよ。 ナルトくんが私を奥さんだって言ってくれた。 それだけで十分頑張れる。 そして……いのちゃんが言ってくれた意味を、私なりに見つけてみせるね。 周囲の人たちに冷やかされて赤くなりながらも、遠くでサイくんの隣で優しく微笑み、私を……私たちを見ているいのちゃんに、そう心の中で語りかけた。 |