5. 甘くとろけるような 力強く抱きしめられる。 「……好きだ、ヒナタ……」 ボーッとして働かない頭を奮い立たせ、言葉にならない声を紡ぐ。 「…………な……くん……」 「……ヒナタ……」 「………ど……して……?」 私の言葉が伝わったのか、ナルト君は、少し力を緩め、目線を合わせてきた。 「ヒナタ、お前の本当の気持ちが知りてぇんだ……。」 その言葉に、途端に涙が溢れだす。 「……ごめ……なさい。……私……ちゃんと……ナルト君と……サクラちゃんのこと……祝福……出来なくて……」 「ヒナタ……その事なんだけどさ、」 「……ちゃんと……ナルト君を……諦めるから……」 「ヒナタ!」 強い口調で名前を呼ばれて、体がビクッとなる。 顔を見ると、そこには、怒ったような、苦しいような、切ないような表情をしたナルト君が居た。 「お前が何を見たか聞いたかは知らねぇが、サクラちゃんとは仲間以外のなんでもねー。……それと、」 フーッと息をはき、視線をまっすぐ私に向ける。 「それとな、ヒナタ。お前だけは、オレを諦めるなんて言わねーでくれ。」 「ナルト君……」 「ヒナタが好きなんだ。やっと気付いたんだ。……遅ぇかもしんねーけど、オレはお前を全力で取り戻す。」 「…………えっ?」 「『えっ?』てヒナタ、キバの事……好きなんだろ?」 「……な、仲間として……なら……。」 「だって、お前、この前一緒に帰ったときに、八班での任務に嬉しそうにしてたし……。」 「う、うん。同じ班の仲間だし……。」 「今日だって、何だかわかんねぇキバからの誕生日プレゼントに、顔を真っ赤にしてたし……。」 「あ、あれは!……キバ君のプレゼントが……な、ナルト君……だったから……。」 「はぁっ!?んーじゃあ、キバに『あーん』してやったのは、怪我を口実にって訳じゃねぇってのか?」 「うん。説明した通り……だよ。」 「じゃ、じゃあ、オレの言葉を遮って、逃げようとしたのは?『触れないで』って言ったのは?」 「だ、だって……ナルト君のことが、サクラちゃんとお付き合いしたんだって思ってもすぐに気持ちを切り替えるなんて出来ない訳で……。ナルト君の優しさや暖かさにこれ以上触れたら、想いが増して、私はナルト君とサクラちゃんに迷惑かけるだけだからと思って……。」 「……………。」 「……………。」 「……は、ははっ……じゃあオレは、勘違いして、イラついたりモヤモヤしてたのかってばよ。」 「……ふふっ……私も、ナルト君とサクラちゃんの事、勘違いしてたんだね。」 「あー、それ。何でヒナタは勘違いしたんだ?」 「あ、あのね……今日、商店街の宝石店で、楽しそうに選んでるナルト君とサクラちゃんの姿を見てしまって……。」 「……そっか。その理由なら、コレだってばよ。」 ポケットからナルト君が取り出したのは、小さな箱。 そこには、綺麗な石のついた可愛いネックレスが入っていた。 「お、オレさ、誕生日プレゼントとか選ぶの初めてで、何にしていいかわかんねーでウロウロしてたら、たまたまサクラちゃんと会ってさ、一緒に選んでくれるっつーから、それで……。」 そう言うナルト君の頬は赤くて、一生懸命考えてくれた事に、涙が溢れだす。 「あ、ありがとう……ナルト君……うれし……」 「お、おぅ。……そうだ!ちょっと待ってろよ。」 ナルト君は、不器用ながらにネックレスの留め具を外して、私の首につけてくれた。 「うん、いいな!ヒナタ、誕生日おめでとう。」 泣いていた私の頬にかかった涙を手で拭ってくれ、笑顔でお祝いしてくれた。 ナルト君、大好き。 さっきまで押さえつけようとしていた想いが、堰を切って溢れだし、ナルト君の背中に手を回してキュッと服を掴んだ。 「……ありがとう……。こんなに幸せな誕生日は、初めてで……。」 優しく背中に回された手。 頭を撫でられ、ギュッと抱きしめられる。 「ヒナタ、大好きだ……。」 甘く低く囁かれる声に、全身が痺れる……。 ……!? ……そ、そう言えば……なな、ナルト君が……わわわ、私の事、好きって……!!? そそ、それに……私……な、ナルト君と……き、き、キス、したの!!!!? 全身真っ赤になり、い、意識が…… 「……はふぅ」 ……………………………………。 「……た!おい、ヒナタ!」 はっ! 「な、ナルト君!」 「ヒナタ、どうしたんだよ?急に気絶するから、すぐに起きなかったら、家まで運ぶか考えてたとこだってばよ。」 「ご、ごめんなさい。……あ、あの……ナルト君……。」 「ん?どうした?」 「……す、好きって……私を?」 「ああ。ヒナタが好きだ。」 「ど、どうして、突然……」 「突然って事でもなかったんだけどさ……。まぁ、気付いたのは……突然か……。ヒナタがオレの隣から居なくなるって思ったら、すげぇ苦しくなって、かっ拐ってでも傍に居てほしいって思ったんだ。」 「傍に……?」 「ああ。」 「居て、いいの?」 「ヒナタに居てほしい。」 「……本当に、私でいいの?」 「ヒナタじゃなきゃダメなんだ!オレが好きだって命懸けで言ってくれたお前が、心変わりしたかと思ったら、心臓の辺りがズキッてなってさ、無理矢理にでも取り戻したくて……そ、そんでオレ、ヒナタにチューしちまったってのか!?」 「……あ、え?あの……私に聞かれても……。」 「お、オレ……。ヒナタ、初めてだよな?無理矢理とか、すまねぇ……けど、謝りたくねぇ……。」 「あ、謝らないで。あの……は、初めてだけど……急にだったけど……な、ナルト君、優しくしてくれたし……私、嬉しいって思ったから……。」 「ちょっ、お前、そんな事……あーっ、でもな……ヒナタ!無理矢理奪ったのは謝る。でも、お前がほしくてたまらねぇ気持ちには違いねーんだ。今だって……違うな、さっき唇が離れたら瞬間から、またしてぇって思ってる。」 ナルト君……嬉しい……。 は、恥ずかしいけど……応えなくちゃ……。 「あっ、と……え、……そ、その……ど、どうぞ……。」 目を見ていられなくなって、いつものように俯いてしまった。 「お、おぅ。……そそ、そんじゃあ、チューすんぞ。……スー……ハァ……。い、いくぞ!……さん…にぃ…いち……って、あーっ!もう、オレが緊張してどーすんだってばよ!ちょっと待ってくれな。」 ギュッと硬く目を瞑る。 さっきみたいに、突然奪ってくれていいのに……。 ナルト君……。 私を好きだって言ってくれた……。 夢みたい……。 ……あ! わ、私、ちゃんとナルト君の目を見て伝えないといけないことがある。 …………えいっ! 頑張って顔を上げて、深呼吸していたナルト君の目を見る。 「な、ナルト君!わ、私……ナルト君の事が大好き……です……。」 突然の告白に、驚いた顔をするナルト君。 「……あ、あぁ。知ってる……。突然、どうした?」 「あ、あのね、今度はちゃんと……ナルト君に……まっすぐ向き合って、言いたかったから……。」 ナルト君の顔が笑顔に変わり、ギュッと強く抱き寄せられた。 「ヒナタ、お前すげぇ可愛いな。ありがとうな。大好きだぜ、ヒナタ!」 「私も……ありがとう、ナルト君。」 少しだけ、力を緩めたナルト君と、見つめ合う。 恥ずかしくって、少し俯いた。 「ヒナタ、覚悟して顔上げろ。」 む、無理……だよ。 首を振って、出来ないと伝える。 「……じゃあ、そのままでいい……」 ギュッと目を瞑ると、少しして、唇に優しく触れる感覚。 ドキドキ激しく鳴る心臓とは反対に、優しく、緊張を解きほぐすような、甘く柔らかな口付け。 誘われるように、自然と顔は上を向き、ナルト君の求めに応じて動く唇。 少し離れて、見つめ合い、引かれるようにナルト君の唇を求めると、同じように私の唇を求めるナルト君が居て……。 唇を絡めては少し離れ、角度を変えては重なりあい、何度目かで離れた時に、妖艶に見つめてくるナルト君が居て、ドキッと心臓が跳ねた。 「……ヒナタ……色っぽいな。」 そう言うと、ナルト君は指先でゆっくり私の唇の輪郭をなぞりだした。 ゾクゾク震える体。 力なんて入らなくて、ナルト君の服にしがみつく。 なのに、目はナルト君から離せない。 じわりと涙に滲む目。 のぼせたように熱い体。 「可愛いな。ヒナタ……愛してる……」 ナルト君の指が、下唇の真ん中辺りで止まり、親指と人差し指で軽くつままれ、そのまま口付けされる。 少し開いた唇に、ナルト君の舌がゆっくりと入ってきた。 始めは唇の内側を軽くなぞるように…… 徐々に口内へと進められ、舌でナルト君の舌を感じる。 「……んんっ………ふぅ…ん……」 声にならない声が漏れる。 ……もう、ダメ…… ……ナルト君…… ……優しく甘い口付けに……とろけてしまいそう…… 暫く続いた口付けの後、ゆっくりと離れていくナルト君の顔は、上気していて……すごく……色っぽい……。 ぽーっと見惚れていると、ナルト君がククッと笑った。 「誘ってる?……ヒナタ、足んねーか?」 「えっ!?あ、ち、違っ……」 軽く触れた口付けは、わざとチュッと音をたてて、すぐに離される。 「悪ぃな、ヒナタ。これ以上は、オレが止まんなくなっちまう。」 「……そ、そうなの?」 「おぅ。今だって抑えるのに精一杯だってばよ。今日、ここでって訳にいかねーだろ?」 「……う、うん。」 力強く抱きしめられる。 「なぁ、今日は門限とか、大丈夫か?」 「……今日は、外食してくるって言って出てきたから、あと一時間くらいは大丈夫だよ。」 「そっか。じゃあさ、何か食いに行かねーか?さっき食いそびれたからさ。」 「あっ、ご、ごめんなさい。……私のせいで……。」 「いいんだって。ヒナタが逃げ出したから、いっぱいチューできたしな。」 「そ、それは……あ、う、……はい。で、でも、ごめんなさい。」 「んー。そんなに反省したいなら、一個お願い聞いてくんねーか?」 「ど、どんなお願い?」 「キバが食った肉が食いたい。……いや、肉じゃなくていいから、オレに『あーん』して食わせてくれよ。」 「えぇっ!ど、どうして?」 「『どうして?』じゃねーってばよ!オレはあれだけは許せねーんだ。オレより先にキバの野郎が、ヒナタが『フーッ』して冷ました肉を、旨そうにクチャクチャクチャクチャ喰いやがって……。あーっ!思い出しただけで腹が立つ!!」 「ナルト君、やきもち……焼いてくれてるの?」 「ぁあ?その通りだ!お前の男は、格好よくて優しくて強いなんて大したもんじゃねぇ!エロくて嫉妬深くて独占欲の塊みたいなヤツなんだってばよ!!今さら嫌いになっても、離してやんねーからな!」 顔を赤くして、プイッと横を向き、拗ねてるナルト君は、なんだかとても可愛くて愛しくて……。 思わず、ナルト君の髪に触れ、よしよしするように撫でる。 「うん。離さないで……。どんなナルト君も、ナルト君だから大好きなの。嫌いになんか、なる訳ないよ。」 ナルト君の顔が、笑顔に変わる。 ……嬉しい……。 つられて笑顔になってしまう。 「ご、誤魔化されねーぞ!行くぞ、ヒナタ!」 撫でていた手を取られ、手を繋いで駆け出した。 この前の帰り道と同じように、指を絡めて……。 こんなに幸せな誕生日は、産まれて初めてで……。 ありがとう、ナルト君。 ……あ、……愛して……います……。 |