青天への願い 4




 くったりと眠りに落ちたヒナタを、先ほどの二人とは違う木の幹へ凭れ掛けさせて、ナルトは振り返ると、真っ赤な顔をした子供たち。

「てわけで、ヒナタはちーとばっかし休息が必要だ。本来なら病院へ連れて行きてェところだけど……ま、ここは譲歩してやるってばよ。これからはオレがお前たちを見てやっから、任務の続き頑張れってばよ」

「せ、先生!!その前に質問が〜っ!!」

 ビシッ!と手を上げたミウにナルトは『ん?』と首を傾げて見せれば、興奮したように顔を赤らめて目を輝かせている様子に嫌な予感を覚えつつも先を促してみると、彼女は嬉しそうに声を張り上げた。

「ナルト先生とヒナタ先生は、恋人同士なんですか〜っ!?」

「だから、何でお前らにプライベートなこと言わなきゃなんねーんだって……」

「だって、ヒナタ先生がナルト先生好きなのは気づいていたから、応援してたんだもの〜っ」

 ジタバタしながらそういうミウに、ナルトは困ったような顔をしつつヒナタの横顔を見る。

 くったりとしているその姿。

 この会話は、聞こえてはいないだろう……と、ナルトはチラリと考え、そして思案した。

 別段教えても問題はない。

 しかし、極度の恥ずかしがり屋なヒナタである。

 部下に知られたと知ったら、真っ赤になって泣いて暫く口をきいてくれないかもしれない。

 どんな困難や試練だって、笑って越えられる自信があるナルトではあるが、ヒナタに口をきいてもらえないなんて事は、とても耐えられそうになかった。

 ある意味ナルトの長い沈黙は肯定したも同じようなものである。

 付き合っていないなら、悩む必要などなく、即答で否定すればいいだけの話だ。

「ヒナタには……内緒だからな……」

 低く呻きそういった言葉に、一同はコクコクと必死に頷く。

「ヒナタはオレの恋人……っつーか、近い将来結婚……も、考えている相手だってばよ」

 ボソリと小さく呟いた言葉に、子供たちは目と口を大きく開き言葉無くナルトを見つめると、その視線に耐えかねて僅かに赤くなりながら視線を逸らせたナルトを見て、それが事実なのだと知る。

「な、ナルト先生とヒナタ先生が……け、結婚!?」

「まだ正式にじゃねーよ、プロポーズもまだだしな」

 アオイはビックリしながらそう呟けば、ナルトは苦笑を交えてそう答えてくれた。

 トキもランも同じように驚いた顔をしつつ、どことなく二人を見比べ納得したようなカンジであり、ミウは嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねている。

「良かった〜っ!ヒナタ先生の永遠の片想いで終わるかと思って、ひやひやしてたの〜っ」

「……そんなにヒナタ態度に出てたのかってばよ」

「だって、ナルト先生の名前出ただけで、ほっぺた赤くなるんだもの〜」

「へへっ、そっか……嬉しいってばよ」

 ニッと笑って見せるナルトに、ミウとランは顔を見合わせふふと笑い、アオイとトキはそんな嬉しそうな二人を優しい目で見つめた。

「んじゃ、お喋りはココまでだ。とっとと本日分の任務終わらせるってばよ」

「はいっ!」

 元気の良い3人の声と、コクリと頷いたトキの様子に、ナルトは笑みを漏らしながら、真剣な表情で話し合いこの広い面積の草むしりをどうするか対策を練っている若き忍たちを見る。

 昔の己の姿を思い出しながら、ソッとヒナタの隣に座り込み一同を見渡せば、どうやらミウが鉤爪を出し構え、ランもクナイを持ち、ナルトの引いたラインと同じくらいの範囲を刈り込んでいく。

 トキとアオイもそれに習い、反対側から刈り込んで行き、それが繋がった瞬間、風向き、方位、全てをランが読み、立ち位置を決めるとアオイがその外側を水遁の術で濡らし、トキが火遁で内側の草に火をつけた。

 それぞれが得意とする術を使い範囲を割り当ててしている様に、ナルトは苦笑を浮かべる。

(オレたちより優秀かもしんねーな……な、ヒナタ。こいつ等が中忍になる日も近いかもしんねーぞ)

 優しし笑みを浮かべながらナルトは、ヒナタの頭を優しく撫でたあと、火の粉が周囲にまき散らないように注意深く様子を伺いながら、何気なく配置しておいた影分身たちがフォローすべく動く。

 燃え広がることもなく、トキが力加減を行えたが故に、轟々と燃え広がることもなく草はジリジリと燃えていく。

 カズラとタテハの追いかけっこの結果、ある程度の高さまで草が刈り込まれていたのが幸いしたようである。

「大したチームワークだってばよ……てか、怪我の功名か」

 大の字にのびているカズラと、タテハの二人に視線をやったナルトは苦笑を浮かべ、将来頼もしい下忍たちを見つめた。

 まだ子供たちは本当の意味での忍の世界を知らない。

 部下として育てて行く上で、決して避けて通れない道がある。

(カカシ先生も、こんな気持ちだったのかもしんねーな)

 無邪気な子供たちが、命のやり取りを覚え、そして必死に生きていく世界。

 決して綺麗ごとだけでは済まない……長門の言った『憎しみに支配されている』忍の世界。

(コイツらの中に、長門や大蛇丸やマダラ……そして、アイツらみてーな歪んだ思いに支配される者が出なきゃいいな……真っ直ぐ、真っ直ぐ前を見て、強くて優しい……本当の強さを持った忍になってくれりゃいい。お前みたいに……な)

 さらりと揺れる髪に指を通し、ナルトは微笑む。

 空は晴天、風もなく穏やかな日。

 この先、子供たちとぶち当たるであろう壁を思いながら、ナルトは空を見上げる。



 その壁の先に、この純粋な心がそのままあってくれと願うように──






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