名を呼ぶのを許していただきました 本日はリーさんがオススメしてくれた草原にみんなでお出かけ。 いのちゃんやサクラちゃん、そしてテンテンさんと頑張って作ったお弁当をランチにご馳走して漸くひと心地つく。 皆思い思いの行動をとっているんだけど、私は隣で眠るナルトくんが気になって動けずに居た。 ずっと不眠不休で過密な任務をこなした後なのに、皆に付き合ってこうして出向いてきたナルトくん。 家で休んでいればいいのに……と、皆に言われていたけど、ナルトくんはこうしてみんなと騒いだりするのが大好き。 だから、こうしてわざわざ出てきたんだと思う。 ねぇ、ナルトくん、無理しないで? ふわりと風に揺れる髪を何気なく撫で付けて見ると、ナルトくんの口元がゆるんで嬉しそうに顔が柔らかな表情を見せてくれた。 眠っているナルトくんが、こんな綺麗に微笑むなんて……見れた私は役得かもしれない。 大好き 大好きだよ、ナルトくん。 そんな想いを篭めて、ナルトくんの頭を優しく撫でる。 この想いを一度は口にしてみたけど、きっとうまく伝わっていないのだろうと思う。 あの時は、死を覚悟したから言えた。 けど……今は、あの頃の勇気が持てない。 意気地なし。 唇を噛み、滲みそうになる涙を堪えて真っ青な空を見上げた。 雲ひとつ無い青い空は、まるでナルトくんの瞳そのもの。 「綺麗……だなぁ……」 眼にしみるほど、綺麗な蒼。 晴れ渡る空は、私の愛しい色を宿していて好き。 黄金の太陽と、蒼い空。 彼そのものの色。 ナルトくんが聞いたら、笑うかな……? こんなにも、アナタが好きです。 空を見上げ口元に笑みを浮かべた私の耳に、キバくんとシカマルくんの声が届いた。 「ヒナタ!」 「避けろ!!!」 え? ハッとしてそちらを見れば、大きな蟲。 シノくんの蟲ではなく、どうやらこの場所を根城にしている蟲らしく、2mほどの蜂のような体をしているけれども、その尻尾はサソリのようで、滴り落ちる液がジュッと草を焼いた。 ナルトくんはまだ眠っている。 私が何とかしないと! キッと睨み付け、突進してくる大きな羽音を立てる蜂のような蟲。 ピキピキと眼の周りの血管が浮き白眼が発動させ八卦に捉えた私は、チャクラを急激に練り上げて、ナルトくんの体までちゃんと守護するように範囲を広く取る。 「守護八卦六十四掌!!」 弾き飛ばされた蟲はかなりの重量があったようで、弾き飛ばしても大した距離を稼ぐことも出来ず、私の守護壁が切れる合間を縫って尻尾を振り上げる。 滴り落ちる毒。 一撃を食らっただけでも動けなくなるだろうと予測できたけど、引くわけにはいかない。 後ろにはナルトくんがいるんだもの! 疲れてしまっているナルトくんに、怪我なんてさせられない。 腕一本犠牲にする覚悟で、私は前へ飛び出そうとした瞬間、肩に強い力を感じて後方へと引っ張られた。 「ひゃっ」 思わず漏れた悲鳴、だけど、私の顔の横からヌッと突き出された腕は見覚えがあって、腕の先を凝視すれば螺旋丸……と、少し形状が違うモノ。 だけど、それは確実に蟲の体を貫き、びくびく動くソレを面倒そうにナルトくんの尻尾が弾き飛ばした。 ……尾獣化……してる? 「フン、他愛も無い」 ナルトくんの声ではない、誰かの声……これが、ナルトくんの中にいる、確かクラマさんの声? 「この女を傷つければ、ナルトがうるさくてかなわん。滅多なことをしてくれるな」 面白くなさそうにそう呟くと、クラマさんは私の背後でふぅとため息をつく。 「ヤレヤレ、ゆっくり昼寝もできん」 くはーっと眠そうな欠伸を聞いて私は振り向こうとしたけれども失敗する。 ぬっと私の顔を覗き込む真紅の瞳。 瞳孔が縦に割れて、いつものヒゲみたいな痣は濃くなっている。 「怪我は無いだろうな」 「は、はい……あ、ありがとう……ございました……え、えっと……クラマさん……ですよね」 「ふむ……ヒナタならば名を呼ぶのを許してやろう」 ニタリと笑って言うクラマさんは、とても上機嫌みたいで私の様子をジッと見て、満足したのか顎を肩に乗せてきた。 うあ……ナルトくんではないとわかっていても、心臓がっ 「ワシもナルトも連日の激務で眠い……サスケ。アレくらいなんとかせんか」 「すまねぇな。とっさのことでそっちに手が回らなかった」 よく見れば、サスケくんのほうにも先ほどの蜂みたいな蟲が二匹。 皆の足元にも、それぞれ大小はあるけれども、蟲の屍が転がっていた。 「くはー……眠い……」 「ご、ごめんなさい……あの、手を……煩わせてしまって」 ぺこりと頭を下げたいのだけど、ナルトくんの大きな体が私に背後から覆いかぶさっているみたいで動けない。 しかも、ナルトくんじゃないって皆わかっているのか、少し警戒している。 クラマさんはナルトくんのパートナーだから、警戒しなくてもいいのに…… 「悪いと思っているなら、ひとつ言うことを聞け」 「え……と、は、はい」 コクリと頷けば、ニタリとナルトくんの顔で笑ったクラマさんは、私の手を引っ張って木陰へと移動すると、地面をぽんぽんと叩く。 「ここがいいだろう、ヒナタここに座れ」 「え……と……あ、あの……」 「座れ」 「は、はいっ」 低い声で凄まれて、私は思わず返事をするとぺたりと座り込んでしまう。 ふかふかした草の感触と、木漏れ日。 吹き抜ける風がとても気持ちいい。 うわぁ……ここ、凄くいい場所。 「一眠りする、ナルトが起きるまでそのままでいろ」 「はい……って、え?」 私はキョトンとしてクラマさんを見ると、彼はごろりと寝転んで私の膝に頭を預け、寝心地のいい場所を確認したあと、大きな欠伸をした。 え、えっと……えーと……あ、あの……こ、これは……そ、そのっ! 「く、クラマさん!?」 「頑張ったナルトに、これくらいの褒美があっても良かろう」 「ご、ご褒美に……なるんですか?」 「なる」 「そ、そう……ですか」 もうそれ以上は何を言っても無駄な気がして、何となく固まっている皆に視線を向ければ、彼らも困ったような顔をしたあと、ため息をついて解散していく。 えっと……誰も助けてくれない……のね? 「……ヒナタ」 「はいっ」 「……夢……か?へへっ、夢なら役得だってばよ。ヒナタに膝枕してもらって……すっげー気持ちいい」 よく見れば赤い瞳はいつの間にか蒼に変わっていて、優しい笑みを浮かべている。 あ……ナルトくんだ…… 愛しさが一気に胸にこみ上げてきて、私は先ほどしていたようにナルトくんの髪をなでる。 「気持ちいいな……ソレ……ヒナタの全てがいい匂いで優しくて柔らかで……すげーな」 うつらうつらしながらも、小さな声を紡ぐナルトくんの、どんな些細な言葉も聞き漏らしたくなくて、私は耳をナルトくんに近づける。 「ヒナタ……ありがとうな」 近づけた耳に口付けられ、ひゃっと声をだして改めてナルトくんを見てみると、彼はもう夢の住人。 ナルトくんは静かな寝息をたてていて、すごく気持ち良さそう。 疲れているんだよね……ごめんね? 「守ってくれて……ありがとう」 ナルトくんの意思がクラマさんを動かしたのは理解できた。 ねぇ、ナルトくん……そんなに大切にされたら、私は期待してしまう……好きになってくれるんじゃないかって。 ナルトくんの優しさが欲しいって、いまでも幸せなのに、それ以上を求めてしまう。 ナルトくんの心は、サクラちゃんにあるというのに…… 「ヒナタ……」 甘い甘い声で呼ばれたら、それだけで勘違いしちゃうよ。 ごめんなさい、今だけ……今だけでいいの、この幸せを噛みしめさせて下さい。 ナルトくん、大好きだよ。 いつか、この想いを再び言葉に出来る時が来ると思うから……その時は、目を見て言うから、ちゃんと聞いてね。 その時まで…… 柔らかな風が吹き抜ける。 柔らかな金色の髪を撫で、幸せそうに眠るナルトくんを見つめながら、私は切ないため息をついて、それでも余りある幸福を噛みしめていた。 この後、目を覚ましたナルトくんが、真っ赤になって固まった後、何でかクラマさんと喧嘩し始めたのはまた後の話。 |