意外と凄い人に認められていたりする




ナルヒナ+カカシ+α



「あ……」

 不意に漏れた声は小さく、誰にも聞き取れないだろうと思われたが、その声と同時に金色の髪の青年が振り向いた。

「どうした?ヒナタ」

 地面にしゃがみこんでいるヒナタの前に、ナルトは屈みこんで顔を覗き込んだ。

 ナルトが屈みこんだ勢いで巻き起こった風が、ヒナタの前髪を揺らしたが、彼女はそんなこと気になりもしないように呆然と目の前の彼を見つめる。

「ん?どうしたんだってばよ」

 他の面々が一楽へと歩いていく中、本来一番最初に駆け込みそうなナルトが目の前にいる事実も信じられないが、それよりも折角いのに結ってもらい留めてもらった髪飾りが、どうやら劣化が激しく壊れてしまい、地面に落ちたのだ。

 手を伸ばすことも出来ず、ただ髪飾りを見つめていたヒナタの目の前で、ナルトは無造作に手を伸ばして拾い上げる。

「さっき結ってもらったばっかなのにな」

「う、うん……久しぶりに出したからかな」

「前から持ってたのか」

「うん、母様の形見なの」

 微笑ながらそう言うと、ナルトの目が一瞬見開かれ、それから悲しげに伏せられた。

「大事に大事に仕舞っていたから、劣化しちゃったんだね……もっと着けてあげればよかった」

 後悔は後から悔やむものだとはわかっていても、何となく切ない。

 悲しいというより、切なくて零れ落ちそうになる涙を必死にこらえていたら、不意に目の前に影が落ちた。

「……え」

「さ、先に行ってるってばよ!」

 形見の髪飾りをヒナタの手に乱暴に握りこませると、バタバタ走っていくナルトの耳が後ろから見てもわかるほど赤い。

 そして、一瞬何があったのかわからなかったが、唇を掠めたぬくもりが信じられず、自然と唇を指で覆い隠してしまった。

「え?」

 再度同じ言葉を呟いたヒナタは、目を瞬かせてナルトの後ろ姿を見送る。

 じんわりと顔が真っ赤になるのを認識しながら、立ち上がれずにいると、その腕を誰かが引っ張った。

「道端でなにやってんの、ホント場所選んだほうがいいよ」

「かっ、カカシ先生!?」

 見ていたんですかと続けようとして、思わず口ごもる。

 どう見ても「シッカリみーちゃった♪」と言いたげな顔をしている彼に、ヒナタはどうしていいかわからず、あわあわと言葉にならない声を出した。

「ま、ナルトは考えナシで、公衆の面前でもお構いなしだから、苦労するよ?」

「え……と……で、です……ね」

 全身真っ赤に染まりそうな勢いで頷いたはいいが、ヒナタは手の中にある形見を思い出し少し寂しげな顔をした。

「先生、形見って……悲しくなるだけじゃなく、時々勇気をくれるんですよね」

「そうだね」

「私は、両親の望むような子ではなかったかもしれませんが……でも、それでも認めてくれる人がいる。幸せだと思います」

「ああ、ヒナタは本当に人を見る目があるよ」

「皆がナルトくんを認めてくれる」

「今はソレが当たり前だが、昔はそうじゃなかった……ヒナタが一番知ってるでしょ。イルカ先生に聞いたよ」

「え?」

「誰よりもずっとナルトを見ていたのは、ヒナタだってね」

「そ、そう……ですか」

 恥ずかしそうに頬を赤らめつつも目線を合わせて返事をするヒナタに、カカシは嬉しそうに笑った。

 恥ずかしがりやで内気なのは、いまだ変わる気配がないけれども、やはりナルトと共にいて変わったと思える。

 真っ直ぐ誰の目でも見るようになったのは、大事な進歩だ。

「さ、早く一楽行かないと、ナルトが痺れ切らすよ」

「は、はいっ!」

 形見の髪飾りを大事そうに懐に仕舞いこみ、ヒナタは慌てて走り出す。

「カカシ先生も早くっ」

「おやおや、さっき泣いてた子が、もう笑ってるよ」

 小さな声でそう呟きながら、カカシはヒナタの後を少しだけ歩調を速め歩き出す。

 その瞬間に視野の端によく知った人が見えて、驚き再度見る。

 木漏れ日の中、とけ込むようにいたその人は、優しい笑みを浮かべヒナタの背を見ていたかと思ったら、カカシに視線を移した。

「倅が惚れるだけあるよね」

 そんな声が聞こえた気がして、カカシは苦笑を浮かべる。

「ええ、そうですね」

 光にとけていくその人の笑みを忘れないように脳裏に焼きつけ、カカシは振り返り自分を待っているヒナタに追いつくために、再び歩き始めた。

(意外と凄い人に認められてるよ、お前さん)

 カカシの苦笑の意味が分からず首を傾げるヒナタに、カカシは笑みを深めるのであった。
  






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