02.木ノ葉を出る前に





「アンタたち……」

 何ともいえない顔をして声をかけてきたのは、春野サクラ。

 他の忍たちの注目を浴びつつ、しかしどうしても渡さなければならない物があるが故の行動であり、本来なら係わり合いになりたくなかったのが本音だろう。

「「サクラちゃん」」

 見事にハモッた声に、サクラは大きな溜息をついて目の前まで来ると、小さな袋を2人に渡す。

「任務で何があるか判らないから師匠から、とりあえず解毒剤と鎮痛剤と傷薬に熱さまし。解毒剤は簡単な毒なら効くけど、あまり強いものは効果ないから飲まないようにね」

「サンキュー、サクラちゃん」

「ありがとう」

「しかし、アンタたちのその格好いつもと別人みたいね」

 サクラがナルトとヒナタの服装を一通り見て、素直な感想を述べた。

 歳相応とは言い難いが、どこか大人びた風体であり、どこからどう見ても似合いの恋人同士に見えるのだから不思議である。

 ナルトとヒナタも改めて自分と相手の服装を見て、少し困った顔をすると苦笑を浮かべる。

「わ、私、こんな大胆な格好……と、得意じゃ……ないんだけど」

「でも、すっげー似合ってるってばよ。普段からそういう格好……あーでも、そうなるとあーいう視線が増えるか……そりゃ困るしな、考えどころだってばよ」

「ああいう視線?」

 不思議そうに小首を傾げるヒナタに、ナルトがなんでもないと苦笑して答えると、小さくため息をつく。

「ま、ヒナタの格好はそうね、もっとお洒落すればいいのにって思うけど……何よりあんたのいつもの服装が目立つのよ、ナルト。オレンジの上下って目立ちすぎよ」

「そうかな?アレ気に入ってるんだけどな。エロ仙人が買ってくれたもんだしな」

 ニシシと笑って言う彼に、サクラは「そう」と言って頷くと、彼が裾が短くなってもあの服装を大事にしている理由が分かった気がして、それ以上は何も言えなくなってしまった。

「いつもの服装、ナルトくんらしくて……格好いいと思うよ」

「サンキュー、ヒナタ」

 本当に嬉しそうに笑うナルトに、ヒナタは少し照れながらも1つ頷き、ふんわりと笑った。

 その笑顔に少々照れながらナルトはあいている方の手で頬骨をコリコリと掻いて誤魔化すと、そんな二人の甘酸っぱいような様子を見ていたサクラが呆れたような声を出す。

「それと、何もここから手を繋がなくてもいいんじゃない?真っ赤な顔してやること?」

「だ、だってよ……ほ、ほら……慣れねェと……よ」

 あの、うずまきナルトにしては珍しく、しどろもどろにそんな事を言うので、周りの人々も目が点になっている。明朗快活の彼からは想像もつかない声は確かに聴くものを驚かせたのだが、後ろの彼女は気がつかないようで真っ赤になって俯いてしまっている。

「本当にそれで、任務……大丈夫なの?」

「だ、大丈夫だってばよっ」

「う、うんっ、頑張りますっ」

 ガバッと顔を上げて2人が同時に言い切り、サクラは苦笑するしかない。

「まぁ、大丈夫だとは思うけど、ナルト……あんた……暴走するんじゃないわよ」

「え、えっと……ぜ、善処しますってばよ」

 ギロリと睨まれ、ナルトは思わず顔を引きつらせてコクコク頷いて見せるが、後ろの彼女を直視して言い切るだけの自信は無く思わず手に力を込めた。

 サクラの言わんとしていることは判る、痛いくらいに判っている。

 しかし、健全な青年であるナルトにとっては、中々に難しい問題でもあった。

「な、何か、暴走すること……あったの?」

 ワケが判っていない天然お嬢様は、キョトンと不思議そうに訊ねてきて、問われた2人は気まずそうに視線を交わしどうしようか思案する。

「お前ら、通路の真ん中で漫才するのはやめにしねぇか?邪魔だし、注意する方がめんどくせー」

 渡りに船状態で声をかけてきたのはシカマルだったが、その後ろにはサイの姿も見えた。

「珍しい組み合わせじゃない」

「野暮用ついでだ」

 サクラがそう言うと、面倒くさそうに答えるシカマルに苦笑しつつサイが挨拶をして、フッと恥ずかしそうにナルトの後ろにいるヒナタに気づき声をかけた。

「へぇ、今日は可愛らしい服を着ているんですね」

「そうよね、服装だけ見たら、誰かと思っちゃうわよね」

 クスリと笑って言うサクラに、ヒナタは己の姿を再度チェックして真っ赤になってしまう。

 確かに普段より、かなり露出している認識があるだけに、恥ずかしいのだ。

「ああ、もしかしてナルトとデート?」

「ち、違いますっ、あのっ、そのっ、に、任務っ!任務ですっ!」

「ま、お前らにしちゃ、珍しい任務にあたったもんだな」

 サイが言った言葉を必死に否定するヒナタと、その言葉を聴いたシカマルの反応を見ていたナルトは、何となく面白くなくて口を尖らせる。

「おや?ナルト、どうしてそこで君が拗ねるんです?」

「拗ねてねーよ」

「面白い現象だね」

 そう言いつつ本を出し、読み始めるサイに冷ややかな視線をくれてやり、ナルトは大きな溜息をついた。

「ああ、なるほど。ヒナタさんに否定されたのが面白くなかったワケか」

 と、いつもなら的外れなことを言ってくれる筈のサイが、何の奇跡か見事にナルトの心中を当ててしまい、ぐうの音も出なくなったナルトは顔を引きつらせて黙り込む。

「あれ?当たった?やっぱり本もバカには出来ないね」

「サイ、そこは当ててあげない方が良かったていうか、優しさっていうか」

 サクラは額を押さえて呻くと、シカマルがいつものように「めんどくせー」と呟いた。

「え、え?あ、あの……に、任務は任務だけど、否定って……あれ?え?」

「あー、良いんだヒナタ。お前のせいじゃねー!コイツが悪い!!」

 と言って、ナルトはヒナタから手を離すとサイの首を左腕を回して締め上げる。

「ぐっ……苦しいよ、ナルトっ……八つ当たりっていう言葉、知ってる……かいっ」

「うっせーっ!」

「あーもー、ジャレてんじゃないわよ!ナルト!アンタは早くヒナタと任務へ行く!サイとシカマルは師匠に用事なんでしょっ!さっさと行くっ!」

 サクラがそう怒鳴ったのビクリと体を震わせ反応したのは、やはり班員として長いナルトとサイ。

 じゃれていた腕を解き、サイも用件を済ませようとナルトに何か短く言い巻物を渡すと、それをベルトの装着部分に外からはわからぬよう入れてしまう。

 それからここで殴られてはたまらないとでも言いたげに、それぞれの待ち人の場所へと戻り、ナルトは徐にヒナタの手を握る。

 それもごく自然な動作でなされ、ヒナタはキョトンとしているがそんなことお構いなしのナルトは、サクラとサイとシカマルに短く挨拶を交わして即効で外へと向かう。

「あ、サクラちゃん、サイくん、シカマルくん、行ってきますっ」

 ナルトに引きずられるように連れて行かれながら、ヒナタは空いている手で3人に手を振ると、曖昧な顔で手を振り返され小首を傾げながらも外へと連れ出されてしまった。

「ナチュラルに手繋いでるんじゃないわよ」

「ナチュラルでしたね」

「ていうか、あいつ等とっととくっ付いちまえばいいのにな……めんどくせー」

 残念ながら3人の呟きは、ナルトとヒナタには聴こえなかったが、その場にいた忍たちも同様のことを思っているというのは、何となく空気やら表情やらで判った。

「まぁ……あの2人なら、恋人同士っていう点で疑うヤツいないんじゃない」

 サクラの止めの一言に、一同は心から頷くのであった。





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