番外編 万楽にて





 白き竜の物語
 哀しみの恋歌 誕生の賛歌  番外編 万楽にて



「おっちゃーん、味噌チャーシュー大盛りでっ!」

「おぉ!帰ってきたか!無事で良かったっ!!」

「やっぱり行ってしまっていたのだな、心配したんだぞ」

「あ、ごめんな。どうしても行かなきゃならなかったんだってばよ」

 暖簾をくぐり入ったラーメン屋、万楽の中には、ラーメン屋の店主と首飾りを買った店の店主が揃っていて、どうやら心配をしていてくれたらしい。

「お前さん、その額宛!そっか、忍だったのか……てことは、お前の彼女も……」

「あぁ、ヒナタ早く来いってばよ!」

「う、うんっ」

 何やらいのと話をしていたヒナタを手招きで呼ぶと、彼女は慌てて走り出しナルトの元へ来て、万楽の店主に頭を下げ挨拶をし、それから首飾りの店の店主に気づき驚いた顔をしてから再び頭を下げた。

「何だ、お前さんたち二人とも木ノ葉の忍だったのかぁ……恋人同士だと思ってたのによぉ」

「そう思ったよ、仲良くお互いの色を身にまとって嬉しそうにしているから、てっきり……」

「い、いや……その……それは、違わねーんだけどさ……」

 挨拶もそこそこに、カウンターの席に並び座った一同を見つつ、店主たちが口々にそう言うものだから、ヒナタは真っ赤になって俯いてしまうし、ナルトも頬を赤くしながらなんともいえない顔をした。

「何だ、じゃぁおとりになるために態々ここまで来たのか?忍ってのは大変なんだなぁ」

「まぁ、解決してくれたって言うんだから、万々歳だっ!ほら、杏仁豆腐、また食べていってくれよっ!」

 それぞれの前に、よく冷えたお手製の杏仁豆腐を置く。

 すると、いのが嬉しそうに声を上げた。

「わぁ、美味しそう!おじさん、ありがとう!」

「おうおう、女の子は元気も健気も可愛いもんだ!ナルトにゃ、ヒナタちゃんが一番てかっ!」

「んぐっ……大きな声でそういうこと言うなってばよっ!!おっちゃんっ!!」

 急に話しを振られてケホケホとむせ返ってからナルトが抗議すると、店主連合はニヤニヤと笑いながらからかう姿勢のようだ。

 カカシと天然でサイも加わり、ナルトはほとほと困った顔をしていたら、隣のヒナタはやけに大人しい。

 不思議に思ってそちらを見ると、彼女は腕の中の煌にチャーシューを食べさせているところであった。

 美味しそうに頬張り、もっともっとと催促する姿に、くすくす笑い彼女はもう一枚とチャーシューを、箸で器用に裂いて、煌の口元へと運んでやった。

 ぱっくんっと食べて、簡単に咀嚼してまた飲み込む。

「かーちゃ、もっと」

「はいはい」

 どんどん言葉を覚えていく煌に、ナルトは感心しつつも甲斐甲斐しく口元へ運んでやるヒナタの姿に、思わず見とれる。

(オレとヒナタに子供ができたら、こんなカンジになんのかな……なんか、あったけーしほのぼのして、すっげー幸せだってばよ)

「とーちゃにも、あーん」

「はいはい」

 そう言って、ヒナタは小さく裂いたチャーシューを何気なくナルトの口元へ運び、ナルトは「え?」っと思ったがキラキラと目を輝かせる煌に勝てず、諦めたように意を決してパクリとそれを食べた。

「とーちゃと一緒っ」

「うん、良かったね。一緒だね……って……アレ?」

 やっとことの次第に気づいたヒナタは、小首を傾げてから恐る恐るナルトたちの方を見て、瞬時に真っ赤に染まった。

「おやまぁ、いいねー、若い夫婦みたいで」

 ニヤニヤとカカシがそう言うと、店主たちもニヤニヤと頷き、何よりいのが「あついわねー」っとわざとらしく手で仰ぎ、サイが「ナチュラルですよね」と呟いた後に、シカマルが「めんどくせー奴ら」といつもの口癖を呟いた。

「えっと……その……あ、あの……ご、ごめんね、ナルトくん……」

「謝られることじゃねーけど……ちーとばっかし、恥ずかしかったってばよ」

 ニシシと笑い、ヒナタの腕の中の煌を抱き上げると、自分の肩に乗せてしまう。

「ほら、ヒナタにもメシ食わせてやれってばよ」

「とーちゃ、ちゃーしゅー」

「しょうがねーな、ほら」

 ナルトは豪快に手でちぎって、肩にいる煌にチャーシューをやると、満足げに煌は羽をはためかせた。

「私食べ終わったから見ておこうか?」

「あぁ、助かるってばよ」

 いのの申し出に、煌を預けると。彼女は煌を腕に抱きながら、店主からおすそ分けでも貰ったチャーシューをやっているようである。

「ほら、いの、いのって言ってごらん」

「んうー……いーちゃ、いーちゃっ」

「まぁいいわ、でも可愛いわねーっ、こっちはシカマル、で、こっちがサイよ」

「シカー、さーちゃ」

「その呼び方だと、俺ってヒナタと同じ『かーちゃ』なわけ?」

 カカシが苦笑すると、煌は目をくるくる回して何かを必死に考え、大好きな「かーちゃ」と一緒にはすまいと、口をもごもご動かす。

「カカっ!」

「呼び捨て……しかも、何か今、悪意に近いもの感じた気がするんだけど……」

 カカシが頬を引きつらせると、煌は胸を張って「えっへん」とでもいうかのようにポーズをとってみた。

「サスケとサクラちゃんとき、どうするんだろう……アイツ……」

「本当だね」

 クスクス笑いながら伸びてしまったラーメンを啜り、二人は何となくカカシをからかって遊んでいる煌を見ていた。

「サスとサクになるのかな?」

「何かコンビ名みたいだってばよ」

 クスクスさも面白いと言う彼女の笑いに、ナルトは嬉しそうに微笑む。

 最近明るく笑うようになった彼女に、見惚れることが多くなったと正直に思う。

 控えめではあるが、大輪の花というより、野に咲く儚い可憐な花。

 その可憐な花が、己のものであるというこの上ない幸せ。

 ナルトは幸せを噛み締めながら、ラーメンを啜ると他愛ない話に花を咲かせ楽しい食事を終えたのであった。

「おっちゃん、また来るってばよーっ!」

「おお、いつでも来いっ!」

「彼女と仲良くなーっ!」

 店主連合に見送られ、一行は木ノ葉へ向かい走り出す。

 いつもと違う速度に、煌は一瞬驚いたようであったが、目を輝かせてヒナタを腕の中から見上げた。

「あ……大丈夫?速かったかな」

「かーちゃ、すごーっ」

「ナルトくんのほうが速いよ?私はこの中では遅い方だもの」

 腕の中の煌を気遣いながら走るヒナタに、ナルトは視線を向けて、徐に彼女の腕の中から煌を奪うと、問答無用で懐に入れる。

「ほら、ここに入ってろってばよ」

 もそもそと居心地を確かめて、大きく開いた前襟から顔を出すと、きゃっきゃ喜び風を切る感覚を味わいながら目を輝かせた。

「とーちゃ、きらも、はしってる、みたいっ!」

「そうだなっ」

「な、ナルトくんっ」

 横に並んで走りながらヒナタが見上げてくるのを横目でチラリと見て、ナルトはニッと笑った。

「こういう時は、体力スタミナ共にオレのほうがあるんだからさ、頼れよ」

「で、でも……」

「あーもー、それ以上言うようだったら、お前も抱き上げんぞっ!」

「え?ええっ!?ええええっ!!!?」

 ヒナタが驚き声を上げる中、それはそれで面白いかもしれないとナルトは素早く身を屈め、ヒョイッとヒナタを軽々抱き上げてしまった。

「な、ななななっ、ナル、ナルトくんっ!?」

「かーちゃ、いっしょー」

「ほら、煌の相手しててくれってばよ」

 懐から顔を出して喜ぶ煌と、ヒナタを抱き上げ御満悦のナルト。

「お、重いからっ!つ、疲れちゃうからっ!」

「お前な……オレのスタミナと体力ナメてんだろ……」

「え?ええ??」

「それに、誰が重いって?んなワケねーだろ、里の中でもずっと抱えて走ってやろうかっ」

「だ、だめ!そ、それだけはダメですっ!」

「じゃぁ、大人しく抱かれてろ」

「は、はうぅぅ」

 オロオロとお姫様抱っこの形で固まっているヒナタに、前方からカカシが声をかけてくる。

「いいからそのままされてなさいな、そうでもしないとナルトは突っ走っちゃうから」

「え?で、でもっ」

「ナルトが突っ走らないように、見張っててください」

 サイにもそう言われ、ヒナタは助けを求めるようにいのを見るが、彼女は完全に面白がっていた。

「いいんじゃないのー?羨ましいわー」

 ニヤニヤと、絶対に帰ったらサクラに報告するだろう勢いで言うと、人の悪い笑みを浮かべている。

「そういう時は素直に旦那に頼れ、そうしたほうが家庭は円満だぜ、ヒナタ」

 シカマルが併走してそれだけ言うと、先へと行ってしまう。

「てことだ、頼れよ、ヒナタ」

 愛しげに見下ろされ、一瞬言葉に詰まって唇をもごもごさせるが、コテンと胸に頭を預けて、ナルトだけに聞こえる声で小さく言う。

「あ、ありがとう……お、お願い……ね」

「ああ、任されたってばよ!」

 タンッと軽快に木に飛び移り、木々の間を駆けるナルトに、煌は歓声を上げ、ヒナタは普段とは違うその光景に少し怖くなって胸に縋りつく。

 腕に抱えた大事な者たちを怖がらせないように、なるべく慎重に木々を駆け抜けるナルトの姿を見ながら、カカシは内心笑っていた。

(変われば変わるもんだ。アイツにとって、あの二人はいいのかも知れないね)

 自信に満ちた、いっぱしの男の顔をして走るナルト。

 愛しげに煌とナルトを見つめるヒナタ。

 大好きな両親に守られ、好奇心いっぱいの煌。

(これから楽しみだよ、本当に……)

 いつの日か見た、ミナトとクシナを思い出しながら、カカシは同じように木々の間を駆け抜ける。

 その脳裏に浮かぶ、ミナトとナルトの姿を重ねながら───








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