17.カジンとウタ 「ナルト!ヒナタっ!」 降り注ぐ漆黒の輝きが消えたと思ったら真っ白な空間も消え、いつの間にやら湖の岸辺に一同揃って立っていた。 まるで狐につままれたような、何か長い夢から覚めたような面持ちで顔を見合わせていると、遠くから聞きなれた声が聞こえ、ナルトとヒナタはそちらを見やる。 湖に通じる一本道から、綱手とカカシとサイ、それに後ろからまだ誰かが駆けて来るのが見えた。 「あ、綱手のばあちゃん」 「カカシ先生、サイくん……あ、いのちゃんたちもいる」 何となく懐かしい面々に、苦笑して出迎えようとしたのだが、それよりも後ろから猛スピードで大きな声を出して叫ぶ男が走ってきた。 「カジンさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」 「あ、煩いのが来た」 「何だよカジン、あのおっちゃん知り合いか?」 ナルトが指差してそう言うと、カジンは「まぁな」と曖昧に答え苦笑する。 「な、ナルトくん……あの人……唄の国の使者さんだった人だよ」 「あぁ、唄の国の……は?」 カジンに問い詰めようとナルトが動くその前に、男がナルトとカジンの間に割って入り、男は跪きカジンの両手を握り男泣きに泣き始める。 「カジン様!駆け落ちなんぞと言う意味も無いことをお止めください!ウタ様との事は父君も御承知されました!どうぞ、どうぞ、国へお戻りくださいっ!!」 「え?」 カジン、ウタ、ナルト、ヒナタの4人からそれぞれ、意味合いの違う「え?」という言葉が放たれ、カジンとウタは次の瞬間抱き合い歓声を上げた。 「やったぞウタ!」 「カジンっ!!」 「あー、出来れば説明して欲しいってばよ……」 ナルトは呆然とその様子を見ていたが、やっと追いついた綱手が苦笑して説明しはじめる。 「つまり、カジンは唄の国の国王の1人息子っていうワケだ。どうも結婚を反対されて、駆け落ちしようとこちらへ来たのはいいが、事件に巻き込まれてしまったらしい」 「……マジかよ……」 「済まないなナルト、お前を騙すつもりはなかったんだけどよ」 「い、いや、それは良いんだけどさ……まぁ、良かったじゃねーか、認めて貰えてさ」 「ああ」 和気藹々と話すナルトに、唄の国の使者が何かを言いかけたが、カジンが「友だ」と一言で黙らせてしまう。 「もう、友達だろ?俺たち」 「ああっ!勿論だってばよ!」 「んで、その友が命懸けで守ろうとした彼女さん……が、ヒナタさんだっけ?」 「は、はいっ……え、あ……ち、ちが……え?」 目をパチクリさせてナルトとカジンの間を、せわしなく視線を彷徨わせて言葉を捜しているヒナタに、カジンとナルトが笑い、ウタはヒナタに悪戯っぽく笑いかける。 「なーによ、『私は誰が何と言おうと、彼を信じています。彼はきっとやり遂げてくれます……もし、それでもダメなら、一緒に死んでもいい。最後まで共に、戦い続けます』って言い切った凛としたアンタとは別人みたいじゃないの」 「ひゃあぁぁっ!!」 ヒナタは悲鳴を上げてウタの口を慌てて塞ぐが、後の祭り。 真っ赤になったナルトとあんぐりと口を開いた木ノ葉の面々、そして次の瞬間カジンが、さも面白そうに笑い出した。 「すっげぇ!お前ら似たようなこと言ってんだなっ!」 カジンのその言葉に過剰反応したのは、真っ赤になっていたナルト。 目を見開き、ヤバイという言葉を顔に貼り付け、慌ててカジンに視線をやると、彼はニヤニヤと笑みを浮かべていまにも何かを語るべく口を開きそうである。 「ゲッ!言うなっ!!カジン!言うんじゃねってばよーーーーっ!!」 「オレの記憶力は抜群だぜ!一言一句違える事なく、覚えてるっ!」 「変な特技持ってんじゃねーっ!てか、覚えてんじゃねェってばよっ!」 慌ててカジンを止めようとするナルトと、面白がって逃げるカジン。 「へぇ、そっちの彼氏は、何て言ったの?」 ウタが真っ赤になっているヒナタから逃れ、カジンに尋ねると、カジンが大声で怒鳴るようにウタに聞かせてやる。 「確かなっ!『ヒナタがオレを疑いオレを殺すなら、オレはそれを受け入れる。世界中で誰よりもオレを信じてくれるヒナタに疑われるなら、オレはそれだけの男だったってことだ。テメーの女一人満足に守ってやれねーんなら似合いの最後だ』ってさぁ!」 「やるー、色男―っ!」 「だああぁぁぁぁ、言うんじゃねーって言ったろうがあぁぁぁっ!この!カジン!!待ちやがれェっ!!」 カジンとウタに良いようにオモチャにされているナルトは、恥ずかしさを誤魔化すためにカジンを追いかけ、カジンもケタケタ笑いながら逃げる。 男二人が湖岸を走りじゃれている姿に、一同は苦笑を浮かべるばかり。 「だってさ、良かったね」 悪戯っぽくウィンクしたウタに、真っ赤になったヒナタはもう何も言えなくて、だけど幸せそうに笑みを浮かべた。 「ふぅん、ということは……何だいお前たち、恋人のふりじゃなく、本当に恋人になっちまったってワケか」 今までのやりとりを聞いていた綱手がニヤニヤしてナルトとヒナタを見て言うと、ナルトは言葉に出来ない何かをつっかえさせたように動きを止め、ギギギギッと軋んだ音が出そうなほどぎこちなく綱手を見る。 「えっと……あ、あの……そ、その……なんだ……」 いつものヒナタの専売特許のような、見事なつっかえぶりを披露して、ナルトは真っ赤な顔で片手で口元を覆い呻く。 「ふーん、やっぱりそうなったワケね」 納得とカカシがニヤニヤ笑いながらも、救助に当たっている忍の指示をしつつ顎に手を当てて頷いて見せ、サイも同じように笑顔を貼り付けながら「やっとですか」と、呟いた。 「収まるところに収まって良かったじゃねーか、ナルト」 「本当に良かったわね、ヒナタ」 シカマルといのの言葉に、ナルトとヒナタは顔を見合わせ、苦笑を浮かべ小さく頷いた。 周りの人たちは随分とヤキモキしていたのだと、この時になってやっと気づいたナルトは、心の底から感謝していた。 彼女の存在は、まさに奇跡。 そう、それを感じていたのは、多分ナルトだけではないのだと、そう思うととても幸せで、とても嬉しかった。 「ナルト、これは友情の証として貰って行くぜ。お前みたいに大事な女の為、戦う気持ちを失わないようにな」 ナルトのクナイを見せニヤリと笑うカジンに、ナルトは大きく頷いた。 「おう!カジンならやれるってばよ」 「それと、コレ……故郷に返してやってくれ」 懐から出した砂の隠れ里の額宛を大事そうにひと撫でした後、ナルトに手渡す。 ナルトも目を細め、それを受け取りながら無念だったろう男の事を思い、拳を握り締めた。 「ああ、必ず……砂に返してやるってばよ」 「おう」 二人は互いに顔を見合わせ笑うと、握りこぶしを前へ突き出しそれをコツンと互いの拳に当てて別れを惜しむ。 「俺たちの結婚式には、二人で来てくれよ!チビすけも、元気でなっ!」 唄の国の重鎮たちに連れられウタと共に去っていく後姿を、手を振り見送る。 どこかサッパリとしたようなカジンの顔を見て、ナルトはあの二人なら大丈夫だろうとヒナタと顔を見合わせ笑った。 どうやら、唄の国は当分安泰らしい。 そう思わずにはいられない、ナルトとヒナタであった。 |