11.状況がわかれば 後は動くだけ 「ここ……は?」 「新入りさん、大丈夫か?」 ナルトが意識を取り戻した時、腕の中にいたはずのヒナタの姿はなく、冷たい漆黒に彩られた空間の中、だだっ広い部屋で倒れていた。 数人の男がそこにはいて、どうやら行方不明になった男たちであることは確かであるようだ。 「あんたたち、恋唄町で行方不明になったっていう人たちか」 「その1人になったんだよ、お前さんもな」 皮肉げに言ってくる黒の髪で茶色の瞳の男は、面白くなさげにフンッと鼻を鳴らす。 周囲の男たちは妙にうつろで、声をかけてくる男以外は、どうも心ここにあらずの状態である。 「まともに口きいてくれるの、アンタだけっぽいな」 「他の連中は、心が壊れはじめてんだよ。しかたねぇさ」 「心が壊れる?」 「そのうち分かる。自分の女が信じられなくなるんだ、どんどんな……」 シニカルな笑みを見せてくれる男に対し、ナルトはとりあえず溜息をついて立ち上がった。 「オレはうずまきナルト、あんたは?」 「俺はカジン」 「よろしくな」 「……変なヤツだな、こんな場所に閉じ込められたってのに、パニックにもならないで自己紹介なんざ」 「オレがここから絶対に出してやるってばよ」 「そう言った忍が数週間前にも居たが、そいつも壊れて死んだぜ。相手の女が先に壊れちまって殺されたようなもんだ」 「…………」 ナルトは目つきを険しくして、カジンが遺品だと差し出した額宛を見る。 木ノ葉の額ではなかったが、砂隠れの里の額宛だった。 「……コイツは我愛羅に返してやんねーとな……」 額宛を撫でてそういうと、カジンが驚いた顔をしてナルトを見つめる。 「お前も、忍……なのか?」 「おう」 「そうか、でも期待はできねぇな。お前、そんな強くなさそうだし」 「それはひでーってばよ!……で、状況分かってるだけでいい、教えてくんねーか」 「ああ」 カジンが言うには、恋人は全く違うところへ幽閉されているようで、その恋人が自分たちを疑い傷つけば、それは痛みとなり体に伝わる。 しかも、男たちは女たちを助けるために、この部屋を出れば様々な試練を受けねばならず、受けたダメージや傷は女に痛みとして伝わるらしい。 互いに痛みを受ければ受けるほど、お互いを信じられなくなるという連鎖を生み、いずれは闇へ落ちて憎しみ合うようになり自滅するのだそうだ。 「えげつねーことしやがるだろ」 「けどよ、憎しみ合わせるには効率的だと思うぜ」 カジンがシニカルに笑って言うと、ナルトは意外と冷静にそう言い服に仕込んでいた黒と赤い巻物を数本開き、慣れた様子で指を噛み切ると血判を押す。 ぽぽんっと軽快な音を立てて、巻物の中にある額宛やクナイや起爆札や手裏剣などが出現し、いつも使っているホルスターとポーチも封印されていたらしく、その中へ手際よく詰めていく。 そしてぞれを装着すると、いつものように額宛を額にあてて後ろの紐をグッと締める。 自らが忍であると引き締まるような思いのまま、ナルトは指先にかすかに痛みが走ったのを感じ、ヒナタも準備をはじめたのだと確信した。 「ナルト、お前不用意に怪我なんてしたら!」 「オレたちは、そんな軟な絆で結ばれてねーよ。アイツも準備はじめたんだな、痛みがあった」 驚いたようにナルトを見るカジンに、ナルトはニシシと笑う。 「ヒナタはそんじょそこらの女じゃねーからな。アイツは強い、それにオレをこの世界の誰より信じてくれてるってばよ」 どこの誰が聞いても、しっかりとした惚気に聞こえる内容なのだが、何故かそれはとても勇気づけられる気がして、カジンは思わず悪態をつくように呟く。 「惚気てんじゃねぇよ」 「ち、違う、惚気じゃなくってっ!」 先ほどまでの雰囲気とはがらりと変わり、真っ赤になって慌てるナルトに、カジンは呆気に取られたあと笑い出す。 「お前って面白いな。そこで真っ赤になるか?普通」 「だ、だってよ……」 恥ずかしそうに頬骨のあたりを指先でコリコリ掻いて、ブツブツ呟くナルトを見ながら、そんな彼がココロの底から信じ、そして守ろうとしている相手に、純粋な興味が湧いた。 「お前の彼女ってのも、見てみたくなったな……オレもアイツ助けてやんねぇと」 「おう!」 ニシシシと笑って元気よく応えると、ナルトは周辺に視線を走らせ、そして声を張り上げる。 「ここで待ってろ、ぜってーに助けてやる!」 宣言するナルトに、生気の篭らない目をした男たちは各々小さく頷くだけで動こうとはしなかった。 多分、これは女性の方でも言えることだろう。 「女のほうも、その試練ってやつ受けるのか?」 「それは分からない。動けないほうが不安を煽るんじゃないか?」 「ジッとしてるほうが、性にはあわねーな。ヒナタなら動き出すか……それとも、女たちを守るほうに専念するか……て、アイツは守るほう専念だな、どう考えても」 ナルトは色々ヒナタの行動パターンを考えて見るが、彼女が弱者を放っておいて動くことは無い。 いくらナルトの助けになりたいと願っていても、か弱い女たちを見捨てることはないだろう。 そんな彼女だからこそ、ナルトは惹かれたのだから。 「んじゃカジン、クナイ一本預けておくってばよ。何かあった時のための護身用だ」 「あ、ああ」 ズシリと感じる重みに、カジンはそれをグッと握り、前を見据える。 クナイを渡したナルトは念のために居残り組みを守る目的で影分身を配備すると、カジンの方を見て最後の確認とばかりに声をかけた。 「別にここにいてもいいんだぜ?オレ1人でも大丈夫だってばよ」 「いや、もう後悔はしたくない……あの忍の人も1人で行って、結局帰ってこれなかったんだ」 もしかしたら、ここで知り合った中でとても仲良くなったのかもしれない。 その仲の良くなった者が殺され、帰ってこれなくなった事実と、共に行けば良かったという後悔に苛まれる様子を見て、ナルトは口元に笑みを浮かべる。 本来なら危ないからここに居ろと言うのが正解なのだと分かってはいたが、その友の無念と自分の女を守りたいという気持ちがわからなくはなかったナルトは、己が必ず守り共に行く事を決意した。 「そっか、じゃぁ行くか!」 「おう!」 二人は扉の前へ立ち、それぞれその扉を左右に開け、前へ一歩踏みだしたのであった。 |