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 全部知りてェって思うんだ   (愛しい時間  〜side ヒナタ〜)









 買い物を済ませて帰ってきた私たちは、アパートの大家さんに荷物だけ片づけてくると軽く挨拶をしてから、部屋の中へはいると手に持っていた荷物を早速片づけ始める。

 ナルトくんがガサガサと大きな音を立てて荷物の中から、今すぐ必要なサツマイモを無言で取り出し、視線だけで受け取れと語り渡してくるのをひとつ頷いて受け取ると、それを確認した彼は目を細めて笑い冷蔵庫へと向き直り、手に抱えた荷物に集中したようだった。

 慣れた手つきでテンポよく食材を冷蔵庫へ収納していく。

 その作業中にも、先ほどの買い物であったことや目についたものについて、ごく当たり前の会話を交わす。

 何気ない普段の風景の一部。

 外へ出る時も一緒で、家の中では同じ空間で同じ時を過ごす。

 そんな当たり前のことが嬉しくて、だけど反面切ないのだと唇をかみしめた。

 任務であるからこそ、今がある。

 普通にありふれたこの時間を共にいる……それがどれだけ幸せなことか、彼にはわからないのかもしれない。

 ……ううん、そうじゃないよね

 それを今まで一番望んでいたのは彼自身であったはず。

 なのに、その相手が私であって良かったのだろうか……もしかしたら、サクラちゃんとの時間を過ごしたかったかもしれない。

 私の身勝手な思いが彼の貴重な体験を……いえ、本当は過ごしたかった人との時間を奪ってしまったのかもしれないと思うと、とても胸が苦しかった。

 何気ない幸せを共有できる最初の人になれた喜びと、彼が望んでいる人が他にいるのだという切なさ……

 いままで感じることがなかったこの思いは、見ているだけで良かったころと何が違うというのだろうか。

 誰よりも傍で、今見ているのは自分であるはずなのに、それだけで良かったはずなのに───



「やっぱまだ休んでたほうがいいんじゃねェか?」



 ハッとして顔を上げると、いつの間にか目の前で心配そうに私の顔を覗き込むナルトくんの目と目が合い、その苦しい色を宿したままの瞳を見られてしまったのかもしれない。

 ナルトくんの眉間に皺が寄り、私の目をジッと覗き込む。

 その視線の強さに、私は言葉を失って半歩後ろへ下がったが、キッチンに遮られてそれ以上動くこともできなくなっていた。

 先ほど渡されたサツマイモを両手に持ったままの私から、それを取り上げてしまってカウンターへ置くと、目線を逸らさないまま動かさないままナルトくんは私の表情を一片たりとも見逃すまいとするかのように青い瞳の色を強める。

 この瞳に弱い。

 特にこの瞳は、何故か自分のすべてを見透かしてしまいそうで怖いと感じた。

 この胸の奥底にある、醜い感情を知られてしまったら、きっと私はそばにいることも出来なくなってしまう。



「オレは……そんなに頼んねェのかよ」



 え?

 ぼそりと低くかすれた声で紡がれた言葉に、私は思考を一瞬停止してしまった。

 何が頼りないのだろう、何に対してそう思ったのだろうか……

 そこまで思考を巡らせたのはいいのだけど、青い瞳が揺れたのを見てしまって、再び思考が止まってしまう。

 何故そんなに苦しそうなのか、何故そんなに悲しそうなのか───



「悪ぃ……何でもねーってばよ!ったく、しょーがねェよな。お前だって色々考えて言いたくねェことだってあるのによ」



 ナルトくんの言葉だけが耳に流れ込んでくるというのに、その真意も、どこからきている言葉なのかもわからず、長年見つめ続けてきた人の予期せぬ言葉に、自分が見てきた彼はなんだったのだろうかと改めて感じてしまった。

 見ているだけではわからない。

 理解できない彼というものがあることを、この時初めて感じた。



「なる……く……ん?」

「でもさ、全部知りてェって思うんだ」



 青い瞳の奥に今まで見たこともないような色を宿しながら、口をいったん結んで一度だけ視線を逸らして目をギュッと閉じたあと、意を決したように瞳を開く。

 その瞳の奥の知らない色はそのままに、ただ、何か迷いのようなものだけは綺麗さっぱりと消えていた。



「オレ……お前が考えてることも思ってることも感じてることも知りてェって思うんだってばよ。ワガママだよな……だけど、そう思っちまうんだ」



 困ったように笑うナルトくんの……私がはじめて見る表情。

 何を思って言っているのかわからない、けれど、ワガママだというのなら、それは私のほうだと思う。

 だから否定したかった。

 その苦しんでいる表情を和らげたいと願う思いのまま、出来る限りの微笑を浮かべた。



「……ヒナ?」

「違う、ワガママなのは私のほうだよ」

「ばーか、お前がワガママなんてありえねーよ」



 さらに寂しそうに笑ったナルトくんの表情に、私は泣きそうになってしまう。

 知らないから……

 アナタは知らないから……

 私の中にある、こんな感情を知らないからそう言えるの。

 もし知ってしまったら───



「お前にそんな顔させたいワケじゃねーんだ。だから、頼むからそんな無理して笑わねェでくれ……そんな泣きそうな顔しねェでくれってばよ」



 優しく優しく頭を撫でられ、こんな優しい人を悲しませる自分が嫌で仕方がない。

 ねぇ、ナルトくん、すべてを知って私のこの心の奥底を知ったとき、アナタは変わらずいてくれますか?

 そんなもんって笑い飛ばしてくれますか?

 いつものような明るい笑顔をくれますか?



「ばあちゃんが待ってるから、早く行かねェとな!変なこといって悪かったってばよ」



 笑って誤魔化し玄関のほうへ歩み出す彼の背中は、さっきより小さく見えて、胸がぎゅっと締め付けられる。

 心の底から笑っていて欲しい。

 誰よりも幸せであってほしい。

 それが、その隣にいるのが私でなくてもいい……きっとそれを見ているのも辛いし苦しいと思うけど、それでもナルトくんが笑っていてくれるなら、幸せだと感じてくれるなら、私の痛みや苦しみはこの際見なかったことにすればいい。

 きっと欲張りになってしまった私への罰なのだから……



「お前が何を考えてるかはわかんねェ」



 玄関で背を向けたまま、履物を目の前にして立ち止まったナルトくんの澄んだ声だけが響く。

 我知らずぎゅっと手に力がこもる、だけど耳は彼の言葉を一言一句聞き逃すまいと音を拾い続ける。

 だって、彼の言葉はいま、私に向けられているものなのだから……



「だけど、オレはお前と一緒にこうしていられて嬉しいんだ」



 驚き目を見開いた私は、いつの間にか下がっていた視線を上へあげる。

 顔だけこちらを振り向き微笑むナルトくんの瞳とかち合い、私は滲みそうになる涙を必死にこらえて唇を噛みしめた。

 そうでもしないと、涙がこぼれそうだったから。

 私もだと伝えたい、なのに言葉が出てこないもどかしさを覚えながら必死に頷いて見せると、ようやくナルトくんは満足そうに微笑んで私に向かって手を差し伸べる。



「行くぞヒナ、ばあちゃんが待ってるってばよ」



 その手をとるために前へ歩みを進めたはずなのに、手はすり抜けて彼の背中にぎゅうっと抱きついてしまう。

 我慢しきれず零れ落ちた涙の意味を、彼はわかっているだろうか。

 きっとわかっていても、知らなくても、聞かずに優しく受け入れてくれる。

 人の痛みに敏感で、とても優しい人だから……



「……ま、ちょっとくらい待ってくれるか」



 そう言って、ナルトくんは自らのお腹あたりに回っている私の手を優しくほどく。

 思わず「あっ……」と漏れた言葉を聞いてなのか、くるりと反転して私を見たナルトくんは、ニヤリとどこか意地悪な笑みを浮かべてから掴んだ私の手を自らの背中の方へと回すよう促してから、ぎゅうっと抱きしめる。

 少し苦しい、だけどちゃんと加減をしてくれている腕の力。

 抱きしめられているから苦しいのか、それとも……沢山の想いが詰まった胸が苦しいのか……



「こうした方が落ち着くだろ」



 悪戯が成功したような、そんな響きを宿した声が聞こえ、口元に自然と笑みが浮かぶ。

 本当にかなわないなぁ。

 この世の何よりも安心できるぬくもりに包まれ、その優しさに守られて、言いようのない幸せと安堵感、そして少しの痛みを覚えた。



「ヒナ……大丈夫だ。オレたち2人なら、きっと何でも越えて行けるってばよ……それがたとえ、変えられない過去の痛みであったとしても……だ」

「過去の……痛み……」

「きっとこれからオレたちが向き合うのはソレだって思う。ソレだけじゃねーけど、ソレと向き合うことになるってわかってる」



 彼が言おうとしていることを漠然と感じながら、私は彼の胸に額をこすり付ける。

 きっとナルトくんが抱える不安の一部を、いま吐露してくれているのだと思うから……



「互いに苦しい時がある。ヒナの抱えてる苦しみがなにか、オレはまだわかんねェ。だけど、一緒にいたらきっと大丈夫だって思えるんだ」

「どうし……て……」

「ほかの誰でもねェ、ヒナだから……オレは大丈夫だって思える」

「なる……く……ん?」

「お前で良かったってばよ。オレの奥さんがお前でさ」



 他意のない言葉なのだろうか、それともたくさんの想いを込めた言葉なのだろうか。

 いまの私にはそれすら判別はつかないけれど、でも……



「私もナルくんで良かった……アナタ以外は無理だから」

「そっか……そっか!」



 ニシシシッと笑う声が聞こえて、その笑顔が見たくて顔を上げようとするのに、さらにぎゅっと力強く抱きしめられて顔すらあげられない。

 見たい笑顔がそこにあるとわかっていたのだけれども、まぁいいかな……という思いが浮かび、そのぬくもりに導かれるように彼の胸に頬を預ける。

 彼の少しだけ早くなった心音に首を傾げながら、私はその絶大な安堵を与えてくれるぬくもり包まれ、ゆっくりと目を閉じた。












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