根っこは一緒



 森の奥深く。そこには儀式場のような所があった。大きい樹の木の葉で光も余り射していない場所。円を書くように造られた石畳には、魔方陣が描かれている。勿論完成した状態ではない。
そこには古くから異世界に繋がる扉というモノがあって、自分はそこの守護者。とはいっても気がついたらなっていただけだし、扉は見たことがない。形が無いものかも知れないのだが特に気にしない。
 毎日暇で暇で仕方がないのだが、珠に五月蝿いのが2匹『向こう』の世界からやって来るのだ。
「やぁフィチ!元気にやってる?」
このように。
「来たか…」
空気中から身を乗り出すように現れる2人。半身が消えたかの様に見える。
「待ってた?楽しみにしてた?」
金髪碧眼の少女。名はイルヴァ。明るく元気と言えば聞こえはいいが、端的に言えばとんだお転婆。黒い翼が生えた有翼人。
「お土産持ってきましたよー!」
白髪翠眼の少女。名はレオナ。イルヴァよりは丸いが発想は彼女の方が恐ろしい。白い翼の有翼人。
 唐突に紹介をしたが、彼女達は『向こう』の世界から扉を守る守護者。同業者だ。
「相変わらず薄気味悪い場所ねー。」
「うるさい静かにしろ。」
イルヴァは聞いているのかそうでないのか分からない様子で、御神木と呼ばれる樹を横目で見る。そこには自分と同じように色素の薄い女、チズナが眠っていた。
「あぁーチズナちゃんね、成る程成る程」
面白そうに見ながら頷くイルヴァ。後ろのレオナもくすくすと笑っている。
「フィチも随分とまるくなったよねぇ。前は私達が来ると必ず斬ろうとしてたのに。」
「だねぇ。誰であろうとくぐった奴は処分する、なんて言ってたのにね」
「余計なお世話だ。用事済ませてさっさと帰れ。」
「まぁまぁ、お土産ありますから〜」
そう言うとレオナはどこからか大きな鞄を出してきた。反射的に怪訝な顔をする。
「フィチが喜びそうなモノ〜」
袋の中身は紅茶。だった。
「『こっち』だと結構高い茶葉なのよー」
「フィチ好みのを探すのに苦労したよ〜。」
レオナから缶を受け取り、側面の表示を見る。少し古風にアレンジされた筆記体で書かれていた。『向こう』とは世界は違えど言語は同じである。
「セカンドフラッシュのダージリン…しかも純粋な…『向こう』にこんなものがあるとは…」
「紅茶好きとしてまぁ当然よ」
『こっち』の世界では人の好みにより美味しく飲めるをモットーとしたブレンドの品物が多い。産地などでの違いを楽しむ飲み方をする純粋な茶葉が少ないのだ。ちなみに自分は後者派である。
「んで?いつも言ってるマスカテル…フレーバー?が凄く良いって」
「あぁ、だろうな…これは最近手に入れた陶器のティーポットを使うか…」
「また始まったよ…フィチのやる気モード」
「ほんと丸くなったねぇ…」

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 私は紅茶の匂いと、普段聞き慣れない話し声に目を覚ましました。
 フィチの明るい声、相手は『向こう』の守護者さんかな?ここに来る且つフィチと仲良く話せるのはその二人しかいないから…
私は起き上がり匂いの方向へと向かいました。やはりフィチとイルヴァ、レオナがお茶会をしていました。普段より心地のよい紅茶の香りが森を覆っています。
「あ、チズナちゃん起きた?」
「おはよう〜」
「おはようございます二人とも」
 机を見るとこの間手に入れた陶器のティーポットを早速使っていて、余程気分が良いんだなと思いました。青色の鈴蘭とアラベスクの模様が気に入った様で、あの冷血漢がいつも眺めていた位です。
「やっぱり私フィチ好みの紅茶は苦手かな〜おいしい?のかよくわかんない」
「苦味が濃いよね…香りはいいんだけど…」
カップには綺麗な色をした紅茶が入っています。イルヴァの事だからフィチ好みの茶葉を買ったのかな。私もフィチ好みのは苦手。
「この間飲ませたモノと風味を比べながら飲むんだ。ただ味わうだけではこの紅茶は楽しめない。香りからゆっくりとだな…」
「んなこと言ったって覚えてる訳無いでしょ!前来たの半年前!」
「味覚と嗅覚の記憶くらいしておけ。紅茶好きなんだろ」
「だから飲み方の好みが合わないから〜〜」
 イルヴァはミルクが欲しい!と言いますが、フィチは一向にそれを許しません。そのやり取りを見るうちになんだか久々に可笑しくなって、楽しくなって、

「同じ守護者で紅茶好きなのに、こうも違うんですね」

なんて。笑顔で言ってやるのです。
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