小説 | ナノ



遊戯王
2/27



「あっあの!受け取って…下さいっ、」
「ああ…チョコだね。ありがとう。大切に頂くよ」

部室に入ろうとすると、顔を紅顔させる女子生徒からチョコを受け取るなまえの姿があった。この光景を見るのは何度目だろう。いや何年目、と言うのが正解だろう。チョコを渡した女子生徒は口をモゴモゴさせて何かを伝えようとするが、なまえにお礼を言って私の存在に気づかず、小走りで出ていってしまった。

「また貰ったのね」
「葵…見ていたのかい?」
「ええ。…それ全部チョコなの?」
「ああ。まだ全部中を見ていないけど手作りのもあるからそっちから先に頂かないと…。」

なまえの隣にある椅子に大きな紙袋が置いてあった。中身が全部チョコとなると、もはや何人に貰ったのだろうと興味がある。

「ケーキとかの焼き菓子は早めに食べた方がいいわよ」
「そうだね」

このアドバイスを言うのも何回目だろう。
みょうじなまえは幼い頃から礼儀正しく、優しかった。男子の中に並んでもおかしくない高い身長。女子にしては低い声。スポーツをするのが好きだからか髪はショート。以前体育で足をくじいてしまった同じクラスの女の子をお姫様抱っこで運ぶことができる筋力。ここまで説明すれば分かるだろう。なまえはモテるのだ。特に女子に。なまえが外を歩けば女性から声をかけられるのはよくあることで、校内を歩けば女子の制服を着ていても女子生徒から告白されることもある。こんな女性にモテる要素を詰めて育ったせいか、バレンタインと言う日は毎年チョコを貰う側になるのだ。特に友達チョコではなく本命チョコを。

「今年は箱でラッピングされているのが多いからね。袋が破れなければいいんだけど…」
「しょうがないわね」

私は鞄から降り立たんで入れていた紙袋を取り出し、なまえに渡した。

「二重にしたら破けづらいでしょ」
「ありがとう。葵」

微笑んで受け取るなまえに不覚にもときめきかけた。

「そうだ葵、ハッピーバレンタイン」

なまえが私の前に小さな袋を差し出した。

「これ…」
「朝の内に渡そうと思ってたんだけど、なかなか葵の元に行けなくてね。…いや、これは言い訳だ。遅くなってしまってすまない」

なまえから貰ったチョコを眺め、大切に抱えた。

「私も…なまえに渡したいのがあるの」

お兄様以外の人…なまえの為に用意したのに渡せなかったチョコ。チョコを溶かして固めて粉砂糖を振りかけて、チョコペンで模様を描いただけの平凡なチョコに上手にできなかった不格好なラッピング。取り出したのはいいが、いざ渡すとなると恥ずかしいし緊張する。なまえは私の手とチョコが入った小袋を一緒に握った。

「ありがとう…葵から貰えるなんて嬉しいよ。食べてもいいかい?」
「い、今食べるの!?」
「うん。一番最初に葵から貰ったチョコを食べたい。駄目…かな?」
「いいけど…」

なまえはラッピングのリボンをほどき、中身のチョコが露になる。

「可愛い。なんだか食べるのがもったいないな」

そう言いながらもなまえはチョコを一粒取り出し、口に運んだ。


[back]