小説 | ナノ



アロマなあの子
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「遊作。それ、どうしたの?」

カフェナギに着くと、店の前のテーブルに大量のホットドッグの山が置いてあった。遊作はホットドッグを頬張っていて、気持ち悪そうな顔をしている。

「おー、ちょうど良かった!尊、手伝ってやってくれ!」

デュエルディスクから体を出してアイが手を振る。

「それ、全部試作品なの」
「みょうじさん!」
「こんにちわ。穂村くん」

車の中からみょうじさんが出てきた。手にはコップが握られていて、それを遊作に渡した。そして遊作の目の前に置かれているホットドッグの包み紙をまとめて丸める。

「これ、遊作一人で消費してたの?」
「草薙さんには世話になってるし…」

遊作は水を流し込み、またホットドッグを頬張る。大量のホットドッグの山をよく見ると、一つ一つ挟まっている具材やソースが違っていた。

「こないだお前がハンバーガー渡したせいだぜ?」
「えっ」

こないだ草薙さんにお世話になったお礼にハンバーガーを渡した。そのときアイにホットドッグ屋にハンバーガー渡すのは駄目だろうと言われた。しかし、草薙さんはライバル店の味を知っとかないとと笑って受け取ってもらった。

「僕も手伝うよ」

大量のホットドッグの山から一本のホットドッグを手に取る。あれが火種なら僕が悪い。手を貸すのは当然だ。

「無理しなくてもいいのよ?遊作も大丈夫?持ち帰る手もあるんだから」
「…俺は自分の意思でやっている」
「草薙さんもあんなにムキにならなくっても良いのに」

みょうじさんは車の方を見て、困った顔で言った。草薙さんは店の中でパンの表面を焼いている。

「まさに犬猿の仲ね」
「え、」

ホットドッグの包み紙を剥がす手が止まった。

「ほら。ここのお店のロゴに犬がいるでしょ?で、あっちは猿がいる。犬と猿。犬猿の仲!」

ニコニコしながらみょうじさんは説明してくれた。
だ…、駄洒落。あのみょうじが駄洒落を言った。普段の振る舞いから予想できない意外すぎる彼女の発言に戸惑ったのは僕だけじゃなかった。遊作とアイも目を丸くしてる。

「なまえ!ちょっと来てくれー!」
「はーい!私行くね。後で穂村くんの分の飲み物持ってくるわね」

草薙さんに呼ばれてみょうじさんは店の中に戻っていった。気のせいだろうかその小走りする背中は、少し気分が上がっているように見える。

「えーっと…。みょうじさんって駄洒落や落語好きだったりする?」

僕は恐る恐る遊作に尋ねる。しかし遊作は黙って首を横に振った。


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