小説 | ナノ



遊戯王
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デニスから呼び出され、紅茶とマカロンを食べながら話を聞いていた。

「ルリ?」
「ああ。君も探すの手伝ってくれない?」

内容は今の言葉通りプロフェッサーの御命令により、エクシーズ次元からルリと言う少女を連れてくるのを手伝えって事。私とデニスは特別仲が良いと言う訳でもなければ悪いわけでもない。別に頷いても良いが、ここで簡単に頷くのは気に入らない。まず、エクシーズ次元まで足を運ぶのが良くない。私の不利益になる頼み事じゃなくてもわざわざ別次元に行って手伝えってのはあまりにも頭が高い。

「何で私が…」

私は立ち上がり、デニスに背を向けた。これ以上話を聞く義理はない。金属製のドアノブに手を伸ばす。

「でもなまえ。そこのマカロン…食べたよね?」
「うっ…」

伸ばした手を止めた。確かに食べた。小さな小皿の上に置かれた五個のマカロンを全て食べた。そして紅茶も全て飲み干した。ここに来てデニスに席に誘導され、置かれていたマカロンを見て「これってたべていいの?」と聞き、「ご自由に」と言われた。食べていい、あげるではなく自由にだ。なるほど汚い奴だ。

「ま。まあ、良いわ。手伝ってあげる。退屈しなさそうだし」
「ホント?助かるよー!」

デニスはニコニコしながら心にもない言葉でお礼を言う。改めてコイツ嫌いだと実感した。

「ふーん。ここがエクシーズ次元」

周りを見れば高い長方形やドーム状の建物ばかり。そして人、人、大勢の人。デニスとここに着いて、早速二手に別れた。まあ、島の上にあるアカデミアとは違ってここはかなり広そうだから効率を考えればそうだろう。にしてもデニスの奴、よく一人で探していたわね。案外根性あるのね。少しだけ見直してやろう。

「(さて、どうやって探し出そうか?)」

考えながら歩き始める。とりあえず人に聞くしかないが、ルリと言う少女ってだけの手がかりじゃもの足りなさすぎる。デニスの奴め。もっと何か聞いていないのか?服装や髪の特徴とか。あっ、しまった。待ち合わせ場所聞いていない。やっぱり見直すのは取り消そう。無能め。歩く足を止めた瞬間、背中に何かがぶつかり、階段から落ちた。

「いでっ!」
「すまない。大丈夫か?」

幸いちゃんと受け身をとれていたが一瞬膝に痛みが走った。見てみると膝を擦りむいるが血は出ていない。後ろを振り向くと、男の子が立っていた。

「階段に人がいるんだから気を付けて降りなさいよ!」
「ぶつかったことは謝る。申し訳ない。…しかし、急に立ち止まる君にも問題があるじゃないないのか?」
「うっ…」

八つ当たりとは言え、正論で返され言葉が詰まる。ったく。あの時マカロンを無視出来ていればこんな所来なかったのに。

「膝、擦りむいてるじゃないか」
「チッ。こんなの別に良いわよ」
「いや、せめて傷口を洗い流さないと…。近くに公園がある。歩けるか?」

そう言って男の子は手を差し伸べた。しかし私は相手の好意を受け取らなかった。

「一人で立てるわよ」

私はその手を無視して一人で立ち上がる。男の子に付いてって歩くと公園に着いた。蛇口をひねって、水が放出される。私は膝を曲げて、水で膝の傷口を洗い流した。最低限の面積にしか水を当てなかったが、膝を伸ばすと水滴が重力に従い下に垂れてく。

「使ってくれ」

男の子はズボンからハンカチを取りだして私の前に差し出す。

「それじゃあハンカチ汚れるじゃない」
「君に怪我をさせたのは俺のせいだ。これくらいの事はやらせてくれ」
「あっそ。なら遠慮なく」

男の子からハンカチを受け取り、脛に流れた水を押し当てるように拭き、膝の傷口に当たらないように回りだけを拭く。さて、どうしよう。血は出なかったとは言え、ハンカチをそのまま返すのは流石に駄目だろう。拭いた水にばい菌や膿が含まれてない訳じゃないし。けど「洗って返す」と言うのも、またこの男の子に会える訳でもない。私がハンカチを黙って見ていたのに気づいた男の子は手を出して私を見つめる。これは返せと捉えて良いのだろうか?また少し悩むと男の子の配慮に甘えることにしよう。私はハンカチを渡した。

「あ。その腰のケースって」
「これか?」

ハンカチをズボンにしまうのを眺めていたら、男の子の腰に四角い箱が付いてるのに気づいた。男の子は箱を開けるとカードの束が入っていた。間違いない。これはデッキだ。

「あんたデュエルするの?」



「ふーん。なかなか面白いデッキじゃない」
「なまえのデッキもよく考えられてる。しかし、上級モンスターを入れすぎじゃ…」
「ふん。その為のこのモンスターと魔法カードよ」

ユートが決闘者と分かり、それからは話が弾んだ。デニスの話通りこの次元の人は、融合召喚をしない変わりにエクシーズ召喚をする。デッキに入れていた融合関連のカードは伏せていた。幸い融合モンスターがなくても、私のデッキはエースと呼べる上級モンスターがいる。ユートとのデュエルの話は楽しかった。

「今日は本当にすまなかった」
「もう気にしてないわ。それに、あんたとデュエルの話ができて楽しかった

公園の時計を確認した時はすでに四時を指していた。ユートはそろそろ帰らなくてないけないらしいので座っていたベンチから立ち上がる。

「ねえ、やっぱりハンカチ私が預かってて良いかしら?ちゃんと洗濯して返させて欲しいわ」

また会えるって訳じゃないけど、出来れば明日もまた会いたい。ルリを探す事を忘れてないけどこのハンカチはユートと話す口実にでもなれれば良いかなと思う。

「そうか。ならなまえが預かっててくれ」

ユートからハンカチを受け取った。

「じゃあ、また」
「ええ」

ユートの背中を見送り、私も振り替えって歩き出す。地面を見て思う。さあ、どうやってデニスと合流しようか。問題が戻ってしまった。

「あっ!なまえ!」

顔を見上げると、数メートル離れた前にデニスが立っていた。デニスは私に駆け寄り、笑みを浮かべる。

「デニス…」
「どう?瑠璃は見つかった?」
「悪いけど何も分からなかったわ」

まあ、本当は今日一日ユートと話していただけど。流石にそんな事言えない。

「なまえはここに来たの今日が始めてだし、しょうがないか。じゃあ、明日もよろしく!」
「ええ。分かってるわよ」

適当に返事を返すと、デニスは驚いた顔で瞬きをした。

「何よ?」
「へぇ…。以外だね。てっきり嫌な顔すると思ってた」
「べっ…、別にいいでしょ!ほら帰るんでしょ。私のデュエルディスクじゃ帰れないんだから早くしなさいよ」

デニスの脇腹を膝で小突いて急かした。



しばらくエクシーズ次元に行ってルリを探す日々が続いた。私は時々ルリを探すフリをしてユートに会っていた。もちろんちゃんと洗濯したハンカチを彼に返した。ここに来てから…、いやユートと話してから毎日が楽しい。アカデミアにいる時は周りの人は全員ライバルで、デニスですら気を許してない。デュエルが強くなくては生き残れない。そんなピリピリした中で日々を過ごしていた。でも、ユートと話している時は違う。彼と話している時は心の底から安心して、楽しく話せる。デュエルをしたこともある。アカデミアの人とのデュエルとは違ってデュエルが楽しいと感じられた。

「やあなまえ。久しぶり」

廊下出歩いてると後ろから声をかけられ、振り向くとプロフェッサーの命令でシンクロ次元にいたはずのユーリがいた。

「ユっ、…ユーリ。帰ってたのね」

一瞬ユーリの顔がユートに見えて戸惑った。よく見ると二人の顔はよく似ている。さっきみたいにパッと見たら間違えてしまいそうだ。久しぶりに再会したユーリは私の顔を見ると、手を顎に当ててじろじろ覗く。

「何よ?」
「なまえ何か変わった?最後に会った時に比べると、表情とか色々丸くなった気がする」
「そうかしら」

私は適当に促した。するとユーリはジャンプするように一歩下がり、今度はニコニコした笑顔で話し出す。

「デニスから聞いたよ。アイツの手伝いでエクシーズ次元に行ってるんだってね。いやー、とんだ災難だったね?」
「ええ、そうね」

別にユーリがその事を知っていても驚かない。ユーリは私よりも人脈が狭いくせにいろんな情報を得ている。例えば私が昇格した事を話してもいないのに知っていたり、誰もいない廊下を一人で歩いてた時に転けた事だったり。正直気持ちが悪い。

「…もしかして友達でも出来た?」
「なっ!」

予想外の言葉に思わず声をあげた。しまった。これじゃあ自白してるのと同じじゃないか!

「ぷっ。アハハハ!ないない!そんなのあり得ない!君に友達が出来たなんて!」

腹を抱えて無邪気に笑うユーリ。腹が立つ。

「ねえなまえ。君だって知ってるはずだろ?あの次元がどうなるのか」
「それは…」
「君も行くんだろ?…友達の故郷を破壊するなんて悪趣味だね」

そう言い残すとユーリは私を横切って歩いて行く。勿論分かっていた。でも考えたくなかった。ユーリの言葉が頭にいつまでも残る。右手で拳を作り、強く握った。

「私はっ…!」
「わあ!」

勢いよく振り替えると、そこにはデニスが立っていて、声をあげて驚いた。ユーリの姿は見当たらない。

「いきなり大声出さないでくれよ。ビックリしたじゃないか!」
「デニス…。何の用なの?」
「実は昨日瑠璃を見つけていたんだ」
「は!?だって…、昨日っ…」

エクシーズ次元からアカデミアに帰る時、必ずデニスと情報交換をする。その時私は何も言われなかった。

「ごめん。ちょっと言い出せなかった」

そう言えば昨日帰る時、デニスの様子がおかしかった気がする。

「ってな訳でお疲れなまえ!後は僕一人で出来るから!」

あ…。そうだ。瑠璃が見つかったって事は、もう私がエクシーズ次元に行かなくていいんだ。

「そう」

目線を反らし、前髪をいじる。落ち着きなさい私。考え直すのよ。私はアカデミアの誇り高き戦士。滅ぼされるエクシーズ次元の人になんか情を入れるな。ユートの事は忘れてしまおう。どうせもう二度と会わないんだ。



どこかで建物が崩れる音と人の悲鳴が聞こえる。近くで火が上がっているから、普段より少し暑く感じる。砂埃で目と喉がおかしくなりそうだ。

「まっ、待ってくれ…。頼む…」

目の前で地面に這いつくばる男の声を無視して、デュエルディスクを光らせる。その光に包まれた男は消え去り、代わりに男が写っている一枚のカードがある。それを拾い、別のデッキケースにしまう。

「ようなまえ。今の何人目だ?」

物陰から蒼い服を着た男が出てくる。名前はなんて言ったっけ?

「さあ。数えてないわ」
「流石エリート様。雑魚はいちいち数えてないってか」

鬱陶しい。早くどこかに行ってほしい。男を無視して歩き始める。後ろから足音が聞こえるから男も付いて来てるのだろう。

「俺は三人カードにしてやったぜ。どいつもこいつも相手にならねえ。そう言えば、この近くに奴等の避難場所があるらしいぜ。俺はそこに行く。なまえも行くか?」
「遠慮しとく」

「吊れない女だ」と男は呟いた。私は立ち止まり、そのまま声を出した。

「ねえ。アンタの名前…、何だっけ?」
「なっ!」

その後男は何か吠えて、どこかに行った。全く。雑魚はアンタよ。辺りを見回す。崩壊した建物と炎が燃え盛って、砂埃と火の粉が舞う。以前来たエクシーズ次元とは大違いだ。もうこの辺りには人はいない。場所を移そう。そう思い、体の方向を変えた。

「ユっ…!」

目を大きく見開いて驚いた。慌てて走り出す。
間違いない。今ユートがいた。まだ生きていた。カードにされていない。心の底から何かが溢れそうになり、走る足の速度が上がる。崩れかけている建物を背に隠れて、様子をうかがう。

「まだこの辺に人が生き残っていたとはな!」
「チッ!ここにもかっ…」

さっきの青い服の男だ。二人はデュエルディスクを構え、デュエルが始まる。男が一方的に攻めてるように見えるデュエルだが、全然相手になっていない。結果はユートの勝利に終わった。

「(良かった…)」

ほっと安堵の息を吐いた。そして同時に一つの疑問が浮かび、嫌悪に襲われた。良かった?なぜ私は安心しているんだ?ユートはエクシーズ次元の人。つまり私達の対象者。心臓がドクンドクンと大きく音を鳴らす。この前忘れると決めたじゃないか。なのになんでっ…!なんで!

『ぷっ。アハハハ!ないない!そんなのあり得ない!君に友達が出来たなんて!』

ユーリの言葉が甦る。そうだあり得ないんだ。私には友達なんて必要ない。自分以外は敵。心の中で疑問の処理を続ける。力が抜けて体がよろけた。倒れまいと踏ん張ると、砂利が擦る音が出た。

「誰だ!」

その音はユートの所まで響いたらしく、気づかれた。こんな、こんな思いするなら。

「(もういっそのこと…)」

この手でカードに。足を一歩出し、また一歩出す。何度か繰り返すと、足元にあった建物の影が消える。

「お前はっ…!」
「久しぶりね。ユート」


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