小説 | ナノ



恋せよ乙女
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「万丈目くん、なまえちゃんラブレター作戦はうまくいったようだね」
「はい!師匠!」

万丈目と吹雪先輩が作戦の成功を喜ぶ中、私は一人海を見つめて不貞腐れていた。明日香が来る時間だ。あのラブレターを読んで心を動かされない乙女はいない。熱い思いは必ず明日香に届く。聞きたくもないのに嫌でも入ってくる会話。眉間に力が入る。

「さあ、なまえ。ここからは万丈目くんの舞台だ。ボクたちは影から温かく見守っていよう。健闘を祈っているよ!」
「…はい」

吹雪先輩に背中を押され優しく誘導される。ごめん、万丈目。声に出さず心の中で呟いた。吹雪先輩と物陰に隠れ、数分が過ぎる。

「待たせたな、万丈目」

万丈目じゃない第三者の声が聞こえた。聞き覚えある声に吹雪先輩は驚いた顔をしてバレないよう少し身を乗り出す。

「十代!?なぜ貴様がここに!」

万丈目の怒鳴り声が響くと同時に吹雪先輩が私を見た。

「入れる机間違えちゃいました」
「なるほど。だからずっとそっぽ向いてたんだ…」

私の言葉に吹雪先輩は苦笑いをした。
違う。間違えてない、わざとだ。私は明日香の机に入れず近くにあった十代の机に入れた。勿論悪いとは思ってる。自分が嫌なやつだと自覚してる。でもどうしても明日香来てほしくなかった。ほんの出来心でざまあみろ、と思った。しかし時間がたつに連れ、自分の行動がいかに子供だったのか理解し、自己嫌悪に襲われた。

「なんだよ。デュエルのことだったのか。翔がラブレターみたいだとか言い出すから勘違いしちまったぜ」
「どう見てもラブレターッスよ、それ」
「どどど、どこがラブレターだ!どう見ても果たし状だろ!」
「でも人生のパートナーって普通、ライバルには言わないッス」

翔と万丈目の口論の声が大きくなる。吹雪先輩は私の肩を揺らして万丈目達を指差して、出る合図を送る。気が進まなくてもこの状況は私が出なくてはならない。鉛を背負ったように重い体を動かして吹雪先輩の後に付いていった。

「おやおや…どうやらうまくいかなかったみたいだねぇ」
「なまえに吹雪さん。二人も万丈目に呼び出されてたのか」
「まぁ、そんなトコかな?」
「なまえ!どういうことだ!?なぜ、あの手紙が十代の机に…」
「ごめん間違えた」
「きっ、貴様…!」
「まぁまぁ、万丈目くん。誰にも間違いはあるものだよ。それに今、それを追求するとちょっとマズイんじゃないかな?」

吹雪先輩の説得で万丈目は少し大人しくなったが怒りが収まった訳じゃない。荒い鼻息をしたままこちらを睨んでくる。ごめんってば。笑って謝ったけど許してはくれなさそうだな。

「やっぱり、怪しいッス…わざわざこんなトコまで呼び出してデュエルなんて変だと思ってたんだ。万丈目くん何か隠しているッスね?」
「うっ!?別に俺は何も隠してなどいない!」

翔が万丈目に疑いの目を向け、万丈目はそれを否定して誤魔化す。私が言うのもなんだけど明日香へのラブレターを事を隠す必要がある?万丈目が明日香に好意を寄せてるのは回りからみてかなりバレバレだと思うのは私だけなのだろうか?

「仕方がない、教えてあげよう。この灯台には伝説があってね…」
「し、師匠!?」
「この灯台の下でタッグデュエルに勝ったペアは永遠の絆を得られるそうなんだ」

万丈目の助け船として吹雪先輩はとっさの嘘の灯台の伝説を言い始めた。

「万丈目くんはなまえの絆を深めるために普段から仲の良い君たちを対戦相手として指名したのさ」
「さあ、早くやるッス!アニキ!もちろんアニキのパートナーはボクで!」
「そっちは万丈目となまえか。へへっ、面白そうだ」
「お、おう!勝負だ、十代!」


自然な流れでデュエルをする展開に万丈目は一瞬少し焦ったが、それは本当に一瞬で当然のようにデュエルディスクを付けてデッキをセットした。私もたまか、と思いながらデッキを取り出してセットする。

「行け!フレイム・ウィングマン!フレイムシュート」
「させるか!リバースカードオープン!攻撃の無力化」

万丈目と十代の激しい攻防戦。万丈目がそこまで熱くなるのは単純に十代に負けたくないって理由だけなんだろう。分かっているがやっぱりモヤモヤする。大体、私がここまで協力してあげてるのに万丈目は人使いが荒いんだ。もっと私に感謝してもいいのでは?

「ドリルロイドでダイレクトアタック!」
「えっ、きゃあ!」

つい、考え込み過ぎてしまいダメージを受ける。フィールドを確認すると相手のフィールドにドリルロイドが一体。伏せカードは無し。フレイム・ウィングマンはいない。今度は自分のフィールドを確認する。フィールドにモンスターはいないが、伏せカードが一枚伏せられてる。これを使ってればダイレクトアタックを受けなかった。
隣から万丈目の怒鳴り声が聞こえる。

「何をやってるんだなまえ!!」
「うーん。どうやらデュエルに集中できていないようだね」

吹雪先輩が顎に手を当てて悩み始める。

「ご、ごめん」

デュエリストとして目の前のデュエルに集中しないなんてデュエリスト失格だ。きっと明日香ならこんなことしないだろう。翔のエンド宣言を聞き、デッキからカードを引く。

「手札からジェムナイトフィージョンを発動!」

手札のルマリンとクリスタを素材にプリズムオーラを融合召喚する。そしてプリズムオーラの効果を使い、ドリルロイドを破壊。トドメのダイレクトアタックでデュエル終了した。


「うぅ…やっぱりボクなんかじゃアニキのパートナーはつとまらないんだ」
「そんなことないさ、翔。次また頑張ればいいじゃないか」

十代は翔を励まして、負けたにも関わらず笑顔でこっちを向く。

「万丈目、なまえ。ガッチャ!!へへっ、楽しいデュエルだったぜ!今日は負けちまったけどまたやろうな!」
「ふん!何度やろうが結果は同じだ!」
「確かになまえちゃんがいたらアニキと一緒でも勝てないかも」
「どういうことだよ、翔?」

十代は首をかしげる。

「だって、この灯台の下でタッグデュエルに勝ったんだから これで万丈目くんとなまえちゃんは永遠の絆を手に入れたんだよ?。もう、二人は無敵のペアになっちゃったんだし勝てっこないッス」
「うんうん。最高のペアと言っても過言ではないね」

翔の言葉に吹雪先輩は頷く。

「ボクだったらもう一生、なまえちゃんを離さないッスよ」
「あはは。ありがとう」

お世辞だろうが何だろうが今の言葉はとても嬉しかった。どっかの誰かとは違いパートナーを大切に思ってくれてる。流石は丸藤先輩の弟だ。敬意がある。ナイスリスペクト。

「ね?万丈目くん」
「そ、それは…」

この流れで自分に振られると思っていなかった万丈目が冷や汗を流す。万丈目は何て言ってくれるんだろう。期待するだけ無駄だと理解しつつ、万丈目の言葉に期待して緊張する。

「ふ、ふはははは!その通り!俺となまえは文字通り最強タッグとなったのだ!十代!俺となまえが一緒に居る限りこの先、タッグデュエルでは一生お前に勝ち目などないのだ!」

案の定中身の無い言葉だった。まあ、知ってたさ。しかし知ってたからこそ腹が立つ。高笑いを続ける万丈目を横で目を細めて見る。

「それじゃあ今度は一対一でやろうぜ?」
「それは次の機会だ!俺たちも忙しいからな!」
「おう、デュエルできるんだったらいつでもいいぜ!よし、翔。さっそく俺たちもタッグデュエルの特訓だ!」
「アニキ!ボク頑張るッス!」

走ってその場を離れた十代と翔が見えなくなったのを確認すると万丈目は安堵のため息を吐く。

「なまえ。さ、さっきのは言い訳だからな。お前と一生タッグを組んでるつもりなどない。本気にするんじゃないぞ?」
「当然でしょ」
「俺の人生のパートナーは天上院くんと決まってるのだ。それを忘れるなよ!」
「私だってアンタなんかを人生のパートナーになんかしたくないわよ!」

段々声が大きくなってくる万丈目に釣られて喧嘩腰で返してしまう。お願いだからもうこれ以上言わないでくれ。分かってるからこそ自分が惨めになる。

「まあ、さっきの伝説は嘘なんだけどね。うまく誤魔化せたみたいでよかった」
「し、師匠…」
「さて、万丈目くん。ラブレター作戦が失敗したとなると…、もしかすると君のラブ・パワーがかなり減少しているのかもしれない。なまえちゃんが間違った原因もその一つかも」

吹雪先輩が人差し指をぴょこんと立てる。万丈目が過剰的に心配し始めた。

「ラブ・パワーが減少すると、どうなるんですか!?」
「う〜ん。今後の作戦は全て失敗する可能性が高いね」
「そんな!?どうにかならないのですか!師匠!」
「これは もう、最後の手段を使うしかないようだ」
「最後の手段!?それは…」

目の前の吹雪先輩と万丈目のアホな会話を黙って聞く。駄目だぞ私。この二人の会話に口を突っ込んだら駄目だ。いろいろ言いたくなる言葉を口の中に留める。

「ボク自ら、明日香を連れてきてあげるよ」
「おお!?」
「これなら確実に明日香一人を呼び出せるだろ?」
「最初からそうしてくれていれば良かったんじゃないんですか!明日香に会うはずなのに丸藤先輩とデュエルしたりラブレター入れようとしたらクロノス教諭とデュエルしたり今さっきだって十代達とデュエルする事無かったですよね!?」

おっと、思わず声が出てしまった。しかしこれはしょうがない。

「いやいや。それでは、せっかくの恋の味気なくなってしまう。ボクは万丈目くんにも色々な恋の味を知ってもらいたかったんだ」
「師匠…やっぱり感動しました!そんなにも俺のことを思っていてくれたなんて!」
「いや、自分が楽しみたいだけなのでは…」

再び行われるアホな会話を横目で見る。

「さあ、万丈目くん次で決めようじゃないか!ボクは明日香を呼びに行ってくる。その間、少し時間を潰していてくれたまえ!」
「はい!」


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