小説 | ナノ



アロマなあの子
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「おい藤木、知っているか?このデュエリスト」

授業が終わり、机に腕枕を作って寝ていた俺に容赦なく叩き起こして来た島が、手に持っているパッドを目の前に持ってきた。画面にはボードに乗ってスピードデュエルをしている女性が映っている。

「…誰だ?」
「新リンクヴレインズになってから現れたアロマージ使いなんだけど、すっげー強いんだぜ!今じゃブルーエンジェルと並ぶ人気デュエリスト!」
「ふーん」

島の説明を軽く聞き流しながら画面を眺める。画面内の女性はブルーエンジェルより大人びていて、長い髪を靡かせている。


「よお遊作!」
「…今日はなまえは来ていないのか?」

車の付近、次に中を覗いてもなまえの姿は見えない。

「ほら。見ろよ」

草薙さんが、広場から見える大きいモニターを指差す。

「私はフィールド魔法、『アロマガーデン』の効果発動!」

そこには、学校で島に見せられた女性がデュエルをしているのが映っていた。

「バトル!アロマージベルガモットで裏守備モンスターを攻撃!ローズマリーでトドメよ!」

勝利した女性はカメラに向かって手を降り、コメントを残してログアウトした。
暫くすると、車の中で物音が聞こえて、なまえが草薙さんの後ろから現れた。

「あら、遊作来ていたのね」
「ああ」
「お疲れなまえ。今日も凄かったな」
「ありがとう草薙さん。でも、私なんかまだまだよ」

なまえは、そう言って自分のデッキを見つめた。

「さっきのデュエルで私は相手の伏せカードに警戒しないで攻撃宣言をしてしまった。大した罠カードじゃなかったけど、デュエリストとしては未熟者。…やっぱり遊作の様にデュエルは出来ないわね」

俺が復讐を終え、暫く経ってからなまえがリンクヴレインズの始め方を俺に聞いてきた。
なまえはハノイプロジェクトの時、モニター越しで俺のデュエルを観ているのが辛かった。安全な場所でただ見守ることしか出来ない自分が情けない。そう言っていた。

「遊作。今からデュエルの相手をお願いできる?」
「ああ。構わない」

車の中に入り、鞄からデッキを取り出す。勿論ダミーデッキではなくプレイメーカーとして使っていたデッキだ。
デッキをテーブルに置いて、手札五枚を引く。

「遊作」
「何だ?」
「この数か月、リンクヴレインズでいろんな人とデュエルしてきたわ。でも、遊作とデュエルしている時が一番楽しいし、デュエルが出来て嬉しい!」

手札で口元を隠すなまえの口は、リンクヴレインズのアロマージ使いの女性より子供っぽく笑っていた。


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