小説 | ナノ



アロマなあの子
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「なまえは何でリンクヴレインズでデュエルしないんだ?」
「だって遊作も草薙さんも頑張ってるじゃない。勿論アイちゃんもね。そんな中、私一人だけのんきにリンクヴレインズで楽しくデュエルなんて出来ないわ」

なまえは困った顔をしながら答えた。

「別にいいんだと思うんだけどなぁ。あの二人も気にしないと思うぜ?」
「周りの気持ちじゃなくて、私の気持ちの問題なの」

なまえは、いたずらっ子の様な笑顔をしながら、人差し指で俺の頭を小突く。

「んー?人間って難しいな」

なまえに言われた考えは理解できなかった。やりたいならやればいいのに。人間の気遣いはAIの俺にはまだ理解できない。俺は人間らしく顎に手を当た。

「そう言えば!遊作となまえは、いつ知り合ったんだ?」
「そうね…。いつだったかしら?でも小さい頃はよく遊んでいたわ」
「ええ!アイツが!?」
「ふふっ。遊作だって昔はもっと笑っていたのよ」
「えー…」

あのいつもムスッとした遊作が笑うなんて想像できない。試しに想像してみると背筋がゾッとした。

「…あの事件が無かったら、きっと今も…」

なまえがぽつりと呟いた。蚊の鳴くような小さい声だったがはっきり聞こえた。
あの事件。それはロスト事件を指している。

「なまえ…」
「あ、今の話遊作には内緒よ?」
「誰に内緒なんだ」

横から聞き慣れた男の声が聞こえた。声が聞こえた方に顔を向けると、そこには遊作が立ってる。なまえは珍しく冷や汗をかいていた。

「あ、あら。遊作じゃない…」
「オマエいつからいたんだよ!」
「今戻ったんだ。それで、なんの話をしてたんだ」

なまえの方を見るとなまえと目が合う。なまえはきょとんとしていたが、目を細めて優しく微笑みかける。

「秘密よ。ね?」
「ねー」

なまえに合わせて俺も笑う。

「ほら、そろそろ草薙さんの所に行きましょ?」

なまえは立ち上がり、自分の鞄を持つとドアの方に歩いていく。

「オマエ。なまえの事もっと大切にした方がいいぜ?」
「なんだ急に」

「別に〜」と、答えてデュエルディスク内に戻った。
遊作の幼少期に笑っている遊作を見ていたなまえ。遊作の幼少期に苦しんでいる遊作を見ていた俺。AIだけど、こんな事口が裂けても言えないぜ。


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