小説 | ナノ



アロマなあの子
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「客も来ないし暇だなー」
「おい喋るな」

雲一つない水色の空と、辺りに人一人いない広場。誰もいないとは言え、もし誰かにアイを見られたりもしたら大変な事になる。
俺は外でコーラをストローで飲みながら、パッドで新作のパックの情報を眺めていた。

「喋るなって言ったって誰もいないんだぜ?なまえも退屈だよな。こんな時に店番なんて」
「そんなこと無いわよ」

草薙さんは買い出しに行っていて、代わりになまえが店番をしていた。
なまえも人がいないとすれば、ウインナーを焼いてストックを作る必要がない。しかも既に、厨房の方に草薙さんが焼いといたウインナーがタッパに入っている。それをまた加熱すればいい。折り畳みのパイプ椅子に座って、隠れて文庫本を読んでいた。

「おい!今日は姉ちゃんだけいるぞ!」
「本当だ!」

遠くから少年の声が聞こえた。聞こえた方から走る足音が響き、近づいてくる。
流石のアイもディスクを中に隠れて姿が消えて、なまえは本を置いて立ち上がった。

「ホットケーキ二枚下さい!ソースは蜂蜜とチョコの一つずつで!」
「かしこまりました」

少年二人が大きな声で注文すると、なまえは笑顔で答えた。
なまえは厨房の下からラップされたボウルを取り出し、中の生地を菜箸でよくかき混ぜてから鉄板の上に流した。いつも香ってくるウインナーの焼ける匂いとは違い、甘い匂いが漂ってくる。生地を器用に裏返し、数分で焼き上がると、チョコと蜂蜜をかけてホットケーキが完成した。
少年二人はホットケーキを受け取ると走って差って行く。

「また来てね」

なまえは少年二人の後ろ姿に手を振って言う。
少年二人が見えなくなったのを確認してアイが目だけを映し出して、喋り始める。

「へー。この店ホットケーキなんか出してたんだな」
「ええ。私が一人で店番してる時だけの裏メニューよ」
「この事は草薙は知ってるのかよ?」
「勿論。じゃないとこんな事続けられないわ」
「お前も知ってたんだな」
「当たり前だろ」

「えー。なんか俺だけハブられているような感じー」とアイは目を細めた。

「遊作」

後ろを振り返ると、なまえが紙皿を持って立っていた。

「なんだ?」
「少し焼きすぎちゃったの。良かったら食べて?」

そう言いながら俺の前に紙皿に乗ったホットケーキとプラスチックのフォークを置いた。ホットケーキには蜂蜜が乗っている。

「ああ。ありがとう」

プラスチックのフォークを手に取り、ホットケーキを口に運んだ。

「にしてもお前にホットケーキなんて似合わないな」
「黙れ」


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