小説 | ナノ



恋せよ乙女
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「ふぁ〜あ……眠い!」

お昼になりドローパンを持って屋上で寛いでいた。
珍しい事に今日の屋上には誰もいない…ラッキーだけど明日は嵐が来るな。
しかし、浮かれている私に悲劇が起きたのだ…

「天上院くん…こうして目を閉じていると今も君の鼓動が感じられる…。優しく…暖かく…まるですぐそばに君が寄り添っているようだ…」

謎のポエムが聞こえた。
私はその声の主に心当たりがあったので少し覗いた。
ああ…やっぱり…。

「ずっとこいしていられたら俺はどんなに幸せだろうか…。ああ…天上院くん…」
「とんだロマンチストね!」
「はっ!!なまえ!?貴様!いつからそこにいた!?…まさかとは思うが…今のを…?」
「ええ、最初っから全部聞いていたわよ!」
「なにっ!?全部聞いていただと!!今すぐに忘れろ!さもなければ、俺は貴様を始末せねばならん!」
「わっ…!」

謎のポエムを言っていた万丈目は忘れろ!と、私の肩を強く揺らした。

「ちょっ…頭痛い!?」

強く揺らされ頭がガンガンする。
ここは嘘でも言って乗り過ごさないと…!

「誰にも言わないわよ!」
「…誰にも言わないだと?本当だろうな?
貴様の口が固いことは知っているが」

万丈目は私の肩から手を離して腕を組み、少し考えた。
通じたか…?

「…だからといって安心できるか!」

駄目でしたー!

「 こうなったら、仕方があるまい。なまえ!貴様には手伝ってもらうからな!」
「何を?」
「な、何をって…決まっているだろう。………だ!」

万丈目は顔を赤くして下を向いてボソボソ話した。

「えー?ボソボソして聞こえない!ハキハキ喋って!」
「だから。………だ!」
「?」
「あ〜気の利かんヤツめ!」

え…私何で逆切れされてんだろ?
と思ったがぐっと我慢。私偉い。

「俺の恋の成就をだ!」
「恋の… 成就…? 」
「ようやく理解したか」
「…はぁ!?」

全然意味わかんない!皆さん聞きました?私、クソポエムを聞かされて強制的に手伝わされそうになっております!!
何で私が恋のキューピットにならなくちゃいけないのよ!?なんかムカついてきた。凄く殴りたい!

「嫌よ!!断るわ。
だいたい私があんたに…」
「さて、この俺の崇高な気持ちをどうやって天上院くんに伝えるかだが…」
「聞けぇ!!」

私の言葉を無視してお構いなしに万丈目はよく分かんないことをベラベラ喋り続ける。あーあ、絶対に自分の世界に入っちゃってるよこの人…。

「なまえ!黙って聞いていないで、貴様も一緒に考えるんだ!」
「えー…」

考えろって、何を考えればいいんだ?とりあえず万丈目の長所を探そう…。あ、駄目だ。万丈目の良いところなんて思い浮かばない。
すると後ろから声がした。

「う〜ん。どうやら僕の出番のようだね」
「ア、アナタは…」
「恋に悩める子羊よ。君たちの頭上に何が見える何が見える?」

頭上?万丈目と私は少し考える。

「空…天?」
「二酸化炭素…酸素?」
「馬鹿か。気体は目に見えんぞ」
「あ、そっか」
「んんんんんんんんんんん。んん〜〜〜〜〜〜〜ジョイン!!!」

吹雪先輩がいきなり大きな声を出すものだから私は反射的に耳を塞いだ。

「っるさ…!」
「ふ、吹雪さん…」
「そう!悩める恋のお助け人!
天上院吹雪とは僕のことさ!」

吹雪さんはいい笑顔で白い歯を出し、親指を立てる。
そして、万丈目に優しく微笑みかけた。

「万丈目くん。君が思い悩んでる相手は明日香のようだね」
「ど、どうしてそれが!?」
「簡単なことさ」
「え、まさか吹雪先輩透視を…?」
「 なまえちゃん同様。僕も君の独り言を聞いていたのだからね」
「えっ…」
「そっちですか!?」

数十秒前の私のドキドキを返してほしい…

「君の明日香への思い。全て聞かせてもらったよ」
「すみません…妹さんなのに」
「謝ることはない。ボクはいつでも、恋するものの見方だよ」
「…」

恋するものの見方…か、
私も吹雪さんに相談したら…

「なまえちゃんと一緒に全力で君の恋を応援しようじゃないか!」
「って、やっぱり私も入るんですか!?」
「本当ですか!?」
「本気にするな!!」
「ぐふっ…!」

耐えられなくなった私は、万丈目の腹に拳を入れ、吹雪さんが止めに入る。

「落ち着いてよなまえちゃん!」
「退いてください吹雪さん!さもないと私、吹雪さんのお腹に蹴りを入れてしまいます!」
「う…それは困るけど。別にいいじゃないか、暇でしょ?」
「暇だからってこんな下らない事の手伝いはしたくないです!」
「…なまえちゃん、万丈目くんの目を見て」
「目?ですか…」

チラッと万丈目の方を見てみた。
よっぽど痛かったのだろうか、目が死んでいる。

「この純粋な目を見て感じないかい!?明日香に対する気持ちが伝わってくるだろう?」
「いや、違いますよね!?例えるなら!死んだ魚の目をしてますよね!?」

この目は絶対真っ直ぐじゃない!
地球が破壊されても違うって言える!

「じゃあ、何が不満なんだい?」
「それは…」

だって、これが成功したら…

「なまえ、俺からも頼む…」

万丈目はふらつきながらも私の前に立ち、頭を深く下げる。

「天上院くんの親友であるお前がいれば百人力だ…」
「っ…!」

やめてよ。どんな時でもお礼を言わないあんたが私なんかに頭下げないでよ。
こんな本気な目で頼まれたら…

「分かったわよ!協力するわよ!!」
「本当か!?」
「流石なまえちゃん!!」

断れないじゃない。

「改めてなまえ、そして吹雪さん…いや、師匠!この万丈目準に力を貸してください!」
「もちろんだとも!」

吹雪先輩も万丈目も私が協力すると言う前よりやる気に満ちた目をしている。あーあ、これで後に戻れないわ。

「そうと決まれば、すぐに行動開始だ」
「万丈目くん、なまえちゃん。ボクがお膳立てをしておくから、君たちは少し時間を潰しておいてくれたまえ」
「はい!よろしくお願いします!」
「はーい…」

吹雪先輩が屋上から姿を消し、私と万丈目の二人っきりになる。万丈目は子供のように目を輝かし私に話しかけた。

「やったぞ!なまえ!恋の魔術師と言われる吹雪さんが味方になってくれるのだ!俺の思いが天上院くんに届く日はそう遠くない!」
「それは良かったわね…」

今一言で言うなら疲れた。体力的にも精神力的にも…
私の気も知れないで万丈目は気持ち悪い笑い声を出していた。

「ふっふっふ。待っていてくれたまえ!天上院くん!」

その様子を見て私は大きなため息を出す。また自分の心に嘘ついた。


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