小説 | ナノ



恋せよ乙女
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「廊下の状況はどうだ?なまえ」
「うーん…。多分大丈夫」
「誰も来ていないな?よし、今のうちだ。この師匠原案の必殺ラブレターを天上院くんの机に…。これを読めば、きっと彼女も…」

万丈目は吹雪先輩アドバイスでラブレターを書いて授業が終わり、教室に沢山いた生徒が廊下に出ていき、私と万丈目以外誰もいない。

「……ああ、見える。見えるぞ!灯台の下で待つ俺の元へと駆けてくる天上院くんの姿が…」
「はぁ…気持っち悪」

声に出した通り万丈目は気持ち悪い笑みを浮かべて私が想像もつかない…いや、想像もしたくもない妄想が長く続く。授業が全て終わり今日はもう使わない教室とは言え、誰かが来てしまう。さっさと手紙入れちゃいなさいよと、言おうとした時、後ろから声をかけられた。

「シニョール万丈目そこで何をしているノーネ?」
「うわぁ!?」
「ク、クロノス教諭!?」

私も万丈目も声をあげて驚く。私達の後ろにはクロノス先生が立っていた。

「もう、とっくに授業は終わっているノーネ」

先生ならとにかく生徒である私達が授業が終わった教室にまだ残っているのは不自然である。声をかけられるのは当然だ。

「えっと…その」

私は脳をフル回転させて言い訳を考えるが焦ってテンパり何も思いつかない。

「いえ、ちょっと忘れ物を…すぐにすませて帰ります」
「!、そうそう!私はその付き添いです!」

ナイス万丈目!私は万丈目の助け船に便乗し私は付き添いですと言う。
クロノス先生は万丈目の言い訳をすんなりと受け入れたが、万丈目に重要な話があると言った。今ここでそれを受け入れれば手紙を机に入れる目的が果たせなくなる。万丈目は蹟にしてもらえませんか?と言うが万丈目にとって大切な話らしく、クロノス先生はなかなか退かない。
万丈目は小声で話しかけてきた。

「(なまえ、この手紙を天上院くんの机に入れられそうか?)」
「(え?)」

近くに机はある。入れようと思えば多分入れられる距離だ。…でもやりたくない。私が手紙を机に入れて明日香に渡る。そして万丈目は告白する。これが万丈目の理想だろうけど私は告白する彼の姿を見たくない。それに告白してもきっと万丈目はフラれる。明日香はデュエル一筋で異性との付き合いなんて頭に入れていないから分かりきっている。でも私はフラれる万丈目も見たくない。…私はなんて我が儘だろう。
万丈目に無理そうと伝えると眉間にシワを作る。

「(クロノス教諭の注意が他に向けばなんとかなりそうか?)」
「(うーん…)」

悩んでいるふりして濁らしているけど、私的にはこのまま手紙を入れなれないで作戦が失敗して欲しい。てか万丈目はクロノス先生の話ちゃんと聞いていなくて大丈夫なの?

「(時間をかけては他の生徒が来てしまう…。どうする?なまえ)」
「(どうするって…)」
「よろしくな、万丈目」

私と万丈目、そしてクロノス先生以外の声が聞こえた。私も万丈目も突然出てきた第三者の声に疑問を持ち前を向くとクロノス先生の隣に三沢くんが立っていた。

「え?三沢くん?」
「…ん?三沢?お前、いつの間に来ていたんだ!」
「ずっといた!」

本当に気がつかなかったとは言え、三沢くんの存在に気づいた時に言う「三沢いたんだ」はもはやテンプレ…いや、固定していてその度に三沢くんは「ずっといた」と怒る。
私にとってはどうでもいいが万丈目にとって状況は悪化した。クロノス先生だけなら万丈目が気をそらせば私が手紙を入れられるが三沢くんが追加されたことによってその作戦は難しくなった。

「(マズイな、また邪魔なヤツが増えたぞ…なまえ、何とかならんのか!?)」
「(私に言われたって…)」
「シニョール万丈目それでよろしいノーネ?」

クロノス先生が万丈目に確認をとると万丈目は理解していないくせに「え?ああ。別に構いませんが…」と承知する。

「では、彼とデュエルすることで決まりなノーネ」

三沢くんを前に出してそう言った。話を適当に流して聞いていた万丈目はいきなり三沢くんとのデュエルと言われて大声を出して驚く。ちなみに私も何でデュエルする事になったか分からない。

「俺が相手じゃ不服か?それとも…。まさか、俺の六つの属性デッキに恐れをなしたとか言わないだろうな?」
「バカな!この俺がお前ごときを恐れるだと!?」

デュエルする事になった話の流れを理解していなくても煽り耐久ゼロの万丈目は三沢くんの煽りを真に受けて噛みつく。
その様子を見たクロノス先生が止めにはいる。

「ノンノンノン。ケンカはいけませンーノ。デュエリストならば決着はデュエルでつけるノーネ」
「えーい!まったく、さっきから邪魔ばかり…。そんなにデュエルしたいのなら今、ここで二人まとめて相手してやる!」

三沢くんだけでいいのに何故かクロノス先生も人数に入れて、腕を振り、凛々しく大きな声でハッキリと宣告した。
すぐ隣で見聞きしていた私は万丈目がクロノス先生と三沢くん相手に一対二でデュエルするのかなと思ったが三沢くんは「オモシロイ。タッグデュエルで勝負か」と言う。

「待って三沢くっ…!えっ…、タッグ!?」
「マンマミーヤ!なぜにワタクシまで!?」

人数に入れてられていたのはクロノス先生だけではなく私も入れられていた。待って待って!この流れは前回も体験した事がある。万丈目は私の方を向いてさっさと片付けるぞとデッキを取り出す。私も急いでデュエルディスクとデッキを付けて準備にかかる。こうなったらもう抗えないのは知ってる。だったらまた全力で闘おう。私がそう心に決めたが、今日の万丈目の引きは強かった。そりゃあもう滅茶苦茶強い。私が出る幕などなかった。まるでデッキと万丈目の熱い思いがリンクしているように引きたいカードをバンバン引き当てて、あっという間にモンスターをフィールドに並べた。しかしクロノス先生も三沢くんも負けじとモンスターを召喚する。が、私も何もしなかったわけではない。奈落の落とし穴などミラフォのトラップカードでエースを破壊したりエースを召喚する為のモンスターを排除し、攻撃に専念する万丈目をサポートした。
そして勝利した。

「さあ!これで気が済んだだろう!俺となまえは忙しいんだ。さっさとどこかへ行ってくれ!」
「スプレンディード!二人とも素晴らしいノーネ!」
「流石だな万丈目。以前より格段に強くなっているじゃないか。なまえとの連携も見逃せない。これは少し計算し直す必要がありそうだな」

負けたのにクロノス先生も三沢は嬉しそうに満足していた。「あそこで万丈目がモンスターを召喚するとは」とか「なまえのトラップカードが厄介だったな」とか話し合っている。二人の様子を見て万丈目が動いた。

「(よし、二人の注意がそれたぞ)」

万丈目が私に手紙を机の中に入れろと手紙を押し付ける。私はしっかり手紙を握ってしまい、この手紙を入れようがこの場で落とそうが私がどうにか行動しなくてはならない事になってしまった。まずこの場で手紙を落とすのは駄目だ。だからと言って明日香の机に入れたくない。…机?そうだ机。

「(やったか!?よし!撤退するぞ!)」
「彼女ならラー・イエローでも十分な成績を出してくれるはずです」
「それナーラいいでしょう。校長にはワタシクから推薦しておくノーネ。では、二人まとめてイエロー寮へ行クーノ!」
「イエロー寮?そんな所に興味はない。それよりも俺には行かなければならない大切な場所があるんだ。行くぞ、なまえ!」
「わっ!」

万丈目に腕を捕まれ強引に引っ張られる。後ろからクロノス先生の呼び声が聞こえるが、万丈目は気にせずズンズン大股で歩く。

「マンマミーヤ!?二人とも、ちょっと待ツーノ!」
「失礼します!」

そして掴まれたまま出ていった。私は何度も彼の名を呼ぶけど一度も此方を振り向かない。腕を捕まれたことにどぎまぎし、恥ずかしいから腕放して欲しいんだけどなど、考えてるとグルリと素早く彼は振り返った。

「やったぞなまえ!作戦は成功した!これで天上院は…。フフ、ククク…」

万丈目に腕を捕まれて私はドキドキしていたのにコイツはちっとも意識せず明日香の事しか頭に入っていなかった。意識していたのは私だけで万丈目は意識していない。この事実に無償に腹が立って、もう知らないと捨て台詞を吐いてその場から離れる。

「むっ、どこ行くのだなまえ!」
「寮に決まってんでしょ!!」


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