小説 | ナノ



おそ松さん
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「じゃーん!見て、この前の合コンで交換したんだ」

可愛い子でしょ?と自信に満ちた笑顔でテーブル越しにいる私にスマホの画面を見せつけてくる。その画面にはローマ字でkaoriと入力された名前と自撮りしただろう女性のアイコンが写っていた。そうだね可愛い子だね、と受け流して頼んだアイスコーヒーを一口飲む。

「で、交換したかおりさん?とは連絡できてんの?」
「してるよ。昨日駅前のおすすめのカフェ教えてもらったもん。ほら!」
「おー」

交換して挨拶はしたものの、それ以来話してませんってオチがあるけどトークの横にちゃんと既読が付いてあった。おめでとう、と適当に祝福すると私の態度が気に入らなかったのだろうかトド松はムスッとした顔でマカロンを頬張りながら対抗してまあ、友達欄に家族と女友達しかいないなまえにはこの嬉しさはわからないよ、と言ってきた。嘘で慶応の大学に通ってる人がなに偉そうに…。

「あ、そうだ!また合コン行くんだけどなまえも来る?なまえの可愛そうな女子力0%と彼氏いない歴話せば人数足りてても入れてもらえると思うよ」
「あはは…バカにしてんのか。あんたも彼女いない歴0の癖に」

行かないと告げればトド松は分かりきった顔でだよねと頷いた。
別に恋愛に興味が無いわけではない。恋愛ドラマや漫画とか見てるし、恋愛したいなとかこんな彼氏がいたら良いねと思う時がある。だかそれはフィクションだ。現実の恋愛は簡単じゃない。大人しくしてれば可愛いとちやほやされるわけがない。地味な子だと思われるし、泣いてれば優しく声を掛けてもらえるわけでもない。これは私が体験したことじゃないけど聞いてしまったのだ。昔、クラスで男性が話している所を。その内容は私が夢見た恋愛話ではなく真逆の会話で、聞いた瞬間夢を壊されて以来現実の恋愛はこんなものだと失望した。そのような会話は今でも仕事場などでたまにちらほら聞いたりする。せめて…夢は夢のままでありたかった…。昔の記憶を思いだし悔やんでるとトド松は呆れた顔をしていた。

「どーせ昔話した非現実だった会話を思い出したんでしょ?なまえって理想高いよねー。チョロ松兄さん並のライジングだよ」
「ぐ…。確かに私の理想が高いのかもしれない。でも、夢は夢で良いじゃないか!」
「うんうん。それでアニメの世界に入っちゃったんだよねー。わかってるって。なまえは一人が好きだもんねー」
「…っ!」

一人が好き。トド松のその何気ない一言に私は腹がたった。
ここに私達以外の人がいるのを忘れて勢いよく立つとガシャンと食器が音音をたてる。トド松は私が何で突然立ち上がったか理解できず慌てた表情だ。
私が人一倍一人でいるのを嫌ってるのを知ってるくせに。
私が人一倍回りの人に気を使って慎重でいるか知ってるくせに。

「なまえ…?ど、どうしたの?座りなよ。回りの人が見てるから…」
「…好きで一人でいる訳じゃない!」

声は大きくなかったが起こった声でなまえは店を出ていった。ポツンと一人残されたボクはため息をついて背もたれによっかがる。
うーん。なまえの地雷踏んじゃったか。ボクはスマホを取り出してささっと文字を入力し、残ってたマカロンを全て食べてお会計を済ましてなまえを追った。
店を出て辺りを見渡すと少し離れた所になまえの後ろ姿が見えて小走りで追いかける。なまえとの距離がだいぶ縮まって名前を呼ぶがなまえはガン無視。流石のボクもその態度にはカチンと来て、なまえの腕を掴むと、ようやく止まってくれた。すると不機嫌な顔で何?と振り向く。

「えーと、さっきはごめんね。少し調子に乗ったよ」
「…別に怒ってないよ」

怒ってない人が突然立ち上がって店を飛び出さないと思うんだけどなー。そう言うとなまえはボクと目を反らす。ほら図星。やっぱり怒ってんじゃんか。
ほら見て、となまえにLINEのトーク画面を見せる。
kaoriさんとのトークのやり取りの最後に合コン行くのやめますってトド松の方の吹き出し口に書いてあった。

「トド松これ…」
「いやー、よく考えたらボク欲しい服があるから多分合コン行く余裕無いんだよねー。ほらさっきなまえの分のお代も払ったし」
「…最後のは今ちゃんと払うよ」

なまえは吹き出して笑いながら財布を取り出すが、ボクは払わなくていいと断った。だって女の子にお金出させるってカッコ悪いでしょ?


「トド松、私もごめんね。突然怒ったりして…でも!合コン断ったのはあんたが勝手にやったことだから」
「うわきっつー…」

確かにボクが勝手にやったことだけどもっと申し訳ない顔をするとかじゃなくて何かこう…優しい言葉言ってくれてもよくない!?とトド松は言い出す。

「でも、気を使ってくれたんだよねありがと」
「え、何が?ボクがなまえに気を使うなんてする訳じゃないじゃん」

トド松はそう言うが私は知ってる。トド松はなんだかんだ言って一番私の事を気を使ってくれてる事を。


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